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season2

138話:ジャック・オー・ランタンの種

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 それはワタクシが「ジャック・オー・ランタンの種」という珍しい種を手に入れたことから始まりました。

 土に蒔くとハロウィンの飾りつけでよく見かけるオレンジのかぼちゃが育つのですが、普通の種と違うのは水の他に魔力を使って育てるところです。
 なんと魔力を注いで育てることで、できたカボチャに命が宿るのですよ。これは実に興味深い。

 ワタクシは、どうせならハロウィンに間に合わせようと夏前から庭の片隅に小さな家庭菜園を作り、そこに種を植えて水と一緒に魔力を注いでいました。

「上手く発芽してくれるといいんですけどねぇ……」

 しかし残念ながら、日本の土壌とは相性が悪いのか、たった5つしか芽が出ませんでした。
 ワタクシは、その小さな芽が無事に育ってくれることを願いながら丁寧に世話をしたのです。

 その結果、なんとか2つのカボチャが実を結びました。
 ひとつはワタクシの頭と同じくらい大きなサイズ。もうひとつは、それよりもやや小さいですが、色も形も申し分ありません。

「おお、ついにカボチャ収穫か!」

 兄のアレクサンドルは、うれしそうにオレンジ色のカボチャ達を撫でました。
 彼はワタクシのように魔力は注げませんが、それでも水やりをしたり葉についた虫を取り除いたりと、まめに世話をしてくれたのです。

 無事に収穫できたら、そのカボチャでハロウィンのランタンを作る約束をしていたので、きっと彼もこの時を楽しみにしていたのでしょう。

「なぁ、ジェル。カボチャに命が宿るって本当なのか?」

「えぇ。中のワタと種を取り除いて、中をくりぬいて顔を作れば命が宿るはずなんです」

「そっかぁ。へへ、楽しみだな!」

 ワタクシ達は収穫したカボチャをリビングに持ち帰り、果物ナイフで穴をあけました。

「もともとジャック・オ・ランタンの起源はケルトの伝承でしてね……」

 ワタクシは作業をしながら、ジャック・オー・ランタンについてアレクに語って聞かせました。

「天国へ行くことを拒否され、かといって悪魔との契約のせいで地獄に行くこともできない男が、カブに憑依してこの世を彷徨い続けている姿を模した物なんだそうですよ」

「カブ? カボチャの話じゃなかったのか?」

「えぇ。元の話ではカブですが、その伝承がアメリカに伝わった際に、カブの代わりに当時生産量が多かったカボチャで作られるようになったんだそうです」

「じゃあ、もしその時にスイカがいっぱい生産されてたら、スイカ頭だった可能性もあるのか?」

「かもしれませんねぇ」

 頭がシマシマのランタンを想像してワタクシはクスッと笑いました。

「……よし、できたぞ! お兄ちゃんのカッコいいランタンを見ろ!」

 アレクは大きい方のカボチャを使ってできたジャック・オー・ランタンの顔をこちらへ向けました。
 キリッとした目に大きく開いた口。造形の得意なアレクらしい立派な作品です。

「ジェルの方はどんなのだ?」

「えっと……その、こんな感じなんですけど……」

 ワタクシはくりぬいた小さなカボチャをアレクの方へ向けました。

「――お、おう。なかなか可愛いと思うぞ?」

 アレクが気を使うのも無理はありません。ワタクシは造形が下手ですから。

 丸い目は貧弱そうですし、口もまぬけにポカンと開いています。なんとも不恰好なランタンになってしまいました。

 本当なら2つともアレクに造形を任せたほうがよかったんでしょうけど、手塩にかけて育てたカボチャだったので自分も作ってみたかったのです。

「よし、これでどうするんだ?」

「もう少し待ってみてください……ほら、動きだしましたよ」

 しばらく待つと、テーブルに置かれた大小2つのカボチャが静かに揺れ始めました。
 そしてアレクが作った大きなカボチャの方がふわりと宙に浮かんだかと思うと、そこからオレンジ色の体と手足が生えたのです。

「アレクおじさん! 僕を作ってくれてありがとう!」

「うわ、カボチャがしゃべった!」

「よかった、成功ですね!」

 少し遅れて、ワタクシが作った方もふわりと宙に浮いて体と手足が生えました。
 元のカボチャが小さいせいなのか、手足も細くて華奢なようです。



 ワタクシは、自分の作ったランタンがどんなことを話すのかと、興味津々で見つめました。

「…………」

 しかし、一向に喋る気配はありません。
 それどころか顔を隠すように手を顔に当てて、恥ずかしそうにうつむいています。
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