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season2
104話:誕生日会
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必死で背中の毛を掴んでしがみつくと、風に乗って彼のクスクスという笑い声が聞こえます。
「そういえば、初めてアレクさんに会った時、私この姿だったネ」
「え、そうなんですか?」
「そういや、そうだったな」
中国の山奥で、落し物をして困っているリュージさんをアレクが見つけた、ということは聞いていましたが、まさか龍の姿だったとは。
「……アレクさん、私がこんな姿なのに『どうした、何か困ってるのか?』って聞いてくれたヨ。全然怖がらなかったネ」
「まぁびっくりはしたけどさ。何か目が困ってるって感じだったからさ」
「皆、私の本当の姿見たら逃げるか拝みながら命乞いばかりネ。普通にしてくれたの、あなた達が初めてヨ」
「リュージさん……」
「さぁ、もうすぐだから飛ばして行くヨ!」
その言葉が聞こえたと同時に激しく風が髪を巻き上げ、雲を突き抜けたかと思うと、漆で朱塗りされた中国の城のようなデザインの立派な建物が現れました。
建物はいたるところに龍を模った装飾が施されていて、特に中心部の巨大な正殿は龍の神の住居に相応しい豪華さです。
正殿の前に到着するとリュージさんはワタクシ達を降ろして、人の姿になりました。
気配を察知したのか、古代中国風の着物を着た人達が正殿から出てきて、ずらりと並んでワタクシ達を出迎えます。
「お帰りなさいませ、ハオレン様」
皆、リュージさんに向かって、優雅な仕草でうやうやしく頭を下げました。
――ハオレン。たぶんそれがリュージさんの本当の名前なのでしょう。
正殿の中に入ると大きな広間があり、一段高い場所には龍になった時のリュージさんよりもはるかに巨大な黄金の龍が鎮座しています。
「爸爸(※中国語でお父さんの意味)ただいま戻りマシタ!」
「うむ……」
静かに頷くその姿から発せられる神々しさと威厳は、言葉では言いあらわせないものでした。
鎮座しているだけでも、人知を超えた存在としての格の違いを感じさせられます。
もしその場にいたのがワタクシだけであったなら、思わずひれ伏さずにはいられなかったことでしょう。
「――あら、そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですわよ」
あまりの威圧感に動けずにいると、黄金の龍の隣に座っている珊瑚や金銀の豪華な装飾を身に着けた黒髪の女性が、ワタクシ達にニッコリと目を細めて声をかけました。
どことなくその笑顔はリュージさんに似ています。きっとこの美しい女性が今日誕生日を迎える母親なのでしょう。
「おかえりなさい、ハオレン」
「妈妈!(※中国語でお母さんの意味)今日、一緒にお料理作ってくれるアレクさんとジェルさんネ!」
紹介されたのでワタクシは軽く息を吸って背筋を正し、丁寧にお辞儀して祝いの言葉と挨拶を述べました。
「凛々しい殿方に美しいお嬢さんね。ようこそ。ハオレンがいつもお世話になっております」
「ジェルさんはお嬢さん違うヨ?」
「あらまぁ、そうなの。うふふ、それはそれでありよね……」
彼女は手元の扇子で口元を隠しながら、ふんわりと優雅に微笑みます。
なんだか妙な想像をされた気がしますが、聞かなかったことにしてワタクシ達は両親が見守る中で料理の支度(したく)を始めることにしました。
「あの、リュージさん。台所はどちらに?」
「今から持ってきてもらうヨ~」
「持って来る……?」
リュージさんが召使達に命令すると、大広間に大きなテーブルや調理器具が次々と運び込まれて、あっという間にその場に簡易キッチンができあがりました。
コンロに水道まで完備されていて、まるで料理番組を撮影するスタジオみたいです。
「これはすごいですねぇ」
これだけ設備が整っているなら小籠包を問題なく作れる、そう思っていたのですが――。
「ジェルさん、どうしました?」
「おい、ジェル。大丈夫か?」
「……あの、さっきから視線が。――いえ、なんでもないです」
…………。
ワタクシ達が料理をしている姿を、巨大なリュージさんの父親が鼻息が聞こえそうな距離で覗き込んでくるのです。
決して悪意は無いんでしょうけど、そのぎょろりとした目で手元を見つめられると、やはり緊張して手が震えてしまいます。
幸いアレクはどんなに見られてもまったく平気そうなので、彼とリュージさんにメインで作業してもらい、ワタクシが指示を与える感じでなんとか乗り切りました。
「見て見て! できたヨ! 小籠包できたヨ!」
蒸し器の中でほかほかと湯気を立てるたくさんの小籠包を、リュージさんは大喜びで母親に見せました。
「すごいわ、ハオレン。今日は素晴らしい日になりました、ありがとう。せっかくのご馳走です。皆でいただきましょう」
早速、その場で宴席が設けられ、美味しいお酒や山海の珍味と共に小籠包をいただくことになりました。
「紹興酒うめぇ~、小籠包と合うなぁ」
「アレクさん、飲みすぎ注意ネ~」
「アハハハハ! もっとリュージも飲めよ~!」
仲良く酒を酌み交わす彼らを、母親は幸せそうに見つめています。
同じようにその和やかな光景を見ていたワタクシは、ふとあることに気付きました。
「あれ……リュージさんのお父さんはどちらに?」
そう、気が付けばあの巨大な龍の姿がどこにも見当たらないのです。
そして龍の鎮座していた場所には、レストランの子ども用の椅子みたいな足の長い椅子に座って料理を食べている、豪華な礼装を着た小柄な男性の姿があります。
「あの、リュージさん。あの椅子に座っている方はもしかして……」
「お父さんデス。龍の姿だとお箸が使えないから人の姿になりマス!」
「できれば最初からその姿でいて欲しかった……!」
――それなら手が震えずに済んだのに。ワタクシは苦笑いしながら小籠包を口に放り込んだのでした。
「そういえば、初めてアレクさんに会った時、私この姿だったネ」
「え、そうなんですか?」
「そういや、そうだったな」
中国の山奥で、落し物をして困っているリュージさんをアレクが見つけた、ということは聞いていましたが、まさか龍の姿だったとは。
「……アレクさん、私がこんな姿なのに『どうした、何か困ってるのか?』って聞いてくれたヨ。全然怖がらなかったネ」
「まぁびっくりはしたけどさ。何か目が困ってるって感じだったからさ」
「皆、私の本当の姿見たら逃げるか拝みながら命乞いばかりネ。普通にしてくれたの、あなた達が初めてヨ」
「リュージさん……」
「さぁ、もうすぐだから飛ばして行くヨ!」
その言葉が聞こえたと同時に激しく風が髪を巻き上げ、雲を突き抜けたかと思うと、漆で朱塗りされた中国の城のようなデザインの立派な建物が現れました。
建物はいたるところに龍を模った装飾が施されていて、特に中心部の巨大な正殿は龍の神の住居に相応しい豪華さです。
正殿の前に到着するとリュージさんはワタクシ達を降ろして、人の姿になりました。
気配を察知したのか、古代中国風の着物を着た人達が正殿から出てきて、ずらりと並んでワタクシ達を出迎えます。
「お帰りなさいませ、ハオレン様」
皆、リュージさんに向かって、優雅な仕草でうやうやしく頭を下げました。
――ハオレン。たぶんそれがリュージさんの本当の名前なのでしょう。
正殿の中に入ると大きな広間があり、一段高い場所には龍になった時のリュージさんよりもはるかに巨大な黄金の龍が鎮座しています。
「爸爸(※中国語でお父さんの意味)ただいま戻りマシタ!」
「うむ……」
静かに頷くその姿から発せられる神々しさと威厳は、言葉では言いあらわせないものでした。
鎮座しているだけでも、人知を超えた存在としての格の違いを感じさせられます。
もしその場にいたのがワタクシだけであったなら、思わずひれ伏さずにはいられなかったことでしょう。
「――あら、そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですわよ」
あまりの威圧感に動けずにいると、黄金の龍の隣に座っている珊瑚や金銀の豪華な装飾を身に着けた黒髪の女性が、ワタクシ達にニッコリと目を細めて声をかけました。
どことなくその笑顔はリュージさんに似ています。きっとこの美しい女性が今日誕生日を迎える母親なのでしょう。
「おかえりなさい、ハオレン」
「妈妈!(※中国語でお母さんの意味)今日、一緒にお料理作ってくれるアレクさんとジェルさんネ!」
紹介されたのでワタクシは軽く息を吸って背筋を正し、丁寧にお辞儀して祝いの言葉と挨拶を述べました。
「凛々しい殿方に美しいお嬢さんね。ようこそ。ハオレンがいつもお世話になっております」
「ジェルさんはお嬢さん違うヨ?」
「あらまぁ、そうなの。うふふ、それはそれでありよね……」
彼女は手元の扇子で口元を隠しながら、ふんわりと優雅に微笑みます。
なんだか妙な想像をされた気がしますが、聞かなかったことにしてワタクシ達は両親が見守る中で料理の支度(したく)を始めることにしました。
「あの、リュージさん。台所はどちらに?」
「今から持ってきてもらうヨ~」
「持って来る……?」
リュージさんが召使達に命令すると、大広間に大きなテーブルや調理器具が次々と運び込まれて、あっという間にその場に簡易キッチンができあがりました。
コンロに水道まで完備されていて、まるで料理番組を撮影するスタジオみたいです。
「これはすごいですねぇ」
これだけ設備が整っているなら小籠包を問題なく作れる、そう思っていたのですが――。
「ジェルさん、どうしました?」
「おい、ジェル。大丈夫か?」
「……あの、さっきから視線が。――いえ、なんでもないです」
…………。
ワタクシ達が料理をしている姿を、巨大なリュージさんの父親が鼻息が聞こえそうな距離で覗き込んでくるのです。
決して悪意は無いんでしょうけど、そのぎょろりとした目で手元を見つめられると、やはり緊張して手が震えてしまいます。
幸いアレクはどんなに見られてもまったく平気そうなので、彼とリュージさんにメインで作業してもらい、ワタクシが指示を与える感じでなんとか乗り切りました。
「見て見て! できたヨ! 小籠包できたヨ!」
蒸し器の中でほかほかと湯気を立てるたくさんの小籠包を、リュージさんは大喜びで母親に見せました。
「すごいわ、ハオレン。今日は素晴らしい日になりました、ありがとう。せっかくのご馳走です。皆でいただきましょう」
早速、その場で宴席が設けられ、美味しいお酒や山海の珍味と共に小籠包をいただくことになりました。
「紹興酒うめぇ~、小籠包と合うなぁ」
「アレクさん、飲みすぎ注意ネ~」
「アハハハハ! もっとリュージも飲めよ~!」
仲良く酒を酌み交わす彼らを、母親は幸せそうに見つめています。
同じようにその和やかな光景を見ていたワタクシは、ふとあることに気付きました。
「あれ……リュージさんのお父さんはどちらに?」
そう、気が付けばあの巨大な龍の姿がどこにも見当たらないのです。
そして龍の鎮座していた場所には、レストランの子ども用の椅子みたいな足の長い椅子に座って料理を食べている、豪華な礼装を着た小柄な男性の姿があります。
「あの、リュージさん。あの椅子に座っている方はもしかして……」
「お父さんデス。龍の姿だとお箸が使えないから人の姿になりマス!」
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