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season1
70話:二次性RXオタク症候群
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まさか、アレクが病気だったなんて――
その日ワタクシは、アンティークの店「蜃気楼」でいつものカウンターの椅子に腰掛け、電話で兄のアレクサンドルと話をしていました。
「……えぇ、お店の方は特に変わりありませんよ。それじゃお土産にフォートナム&メイソンの紅茶、よろしくお願いしますね」
彼は今、ロンドンのアンティークマーケットへ商品の買い付けの旅に出かけているのです。
「やはりアレクがいないと静かですねぇ……おや」
彼からの電話を切って5分くらい経ってからでしょうか。店のドアがゆっくりと開きました。
「ごめんください。おぉ、これはすごいですな!」
そこには真っ黒なスーツの上に白衣を着て、小型の黒いトランクを片手に持った中年男性が立っていました。白衣を着ているということはお医者様なのでしょうか。
それにしても、当店に普通のお客様が来るのは珍しいことです。なにせ普段この店を訪れるのは神様か魔人ばかりですから。
「いらっしゃいませ、ようこそ蜃気楼へ。当店の主、ジェルマンと申します」
ワタクシがお辞儀をすると、男性は人の良さそうな笑顔を浮かべました。
「どうも、ジェルマンさん。いやぁ、すばらしいお店ですなぁ」
「ありがとうございます。どうぞごゆっくりご覧くださいませ」
彼は店内をぐるりと見渡し、店内に並んでいる骨董品や美術品を見て感嘆の声をあげています。
「――失礼ですが、あなたはお医者様ですか?」
男性はワタクシの問いに軽く頷いて、自己紹介を始めました。
「えぇ、そうです。私は『間旗男(はざまはたお)』と申します」
「ハザマさんですか。もしかしてあだ名はフラッグジャックとか……」
「はい?」
「いえ、独り言ですので忘れてください」
どうでもいいことを考えるワタクシに、彼は意外なことを切り出しました。
「――実はあなたのご家族のことで、今日は来たんですよ」
え、家族? 両親はとっくの昔に亡くなっていますし……
まさかアレクが何かやらかしたんでしょうか。
「はい、ワタクシの兄が何か……?」
「えぇそうです、お兄さんのことです。ちなみに今日はお兄さんは?」
「今は仕事でロンドンに出かけてます。ちょうど先ほど電話で話したばかりなんですよ」
「そうでしたか。実はお兄さんには内緒にしていただきたい、ここだけのお話があるんですよ……」
「はぁ……」
立ち話も何なのでとカウンターの隣の椅子を勧めると、ハザマさんはゆっくり腰掛け穏やかな表情で話し始めました。
「最近お兄さんについて、変わった出来事や様子がおかしいなと思うことがあったりしませんか?」
「変わった出来事や様子がおかしいなと思うこと、ですか……」
そんなのいつものことですし、正直何を言っていいかわからずワタクシが言葉に詰まると、ハザマさんは優しい声で続きを促しました。
「えぇ。どんな些細なことでも構いませんよ?」
「本当に些細なことでいいんですか? そうですねぇ――最近だと宇宙人と会話しました」
「は、はぁ? ……い、いえ。そうですか。宇宙人ですか」
ハザマさんは予想外の回答に困惑しているようでした。そういうことを聞きたいわけではなかったようです。
「で、ではお兄さんとの暮らしで困っていることはありませんか?」
「そうですねぇ。クソ悪趣味なスパンコールのパンツで家の中を歩き回ったり、お酒を飲んだ翌朝によく全裸で床に転がってるので困りますね」
「ふむふむ。他には?」
「あとは、パン男ロボというロボットアニメに夢中でロボットごっこに付き合わされたり、徹夜で上映会を開いたりするのは困りますねぇ。まぁ、もう慣れっこですけど」
ワタクシが何気ない兄の日常を苦笑しながら語ると、ハザマさんは大きく目を見開いて問いかけました。
「もしかしてお兄さんは、同じようなロボットをたくさん買ったりしていませんか?」
「えぇ、買っています。ワタクシにはどれも同じロボットに見えるんですが、細かい部分が違うらしいんですよね……」
「なるほど。そのほかにもお兄さんは、アニメの絵がパッケージなだけのお菓子を買ったり、キャンペーンでクリアファイルがもらえるからと大量にいらない物を買ったりはしていませんか?」
――え。どうしてハザマさんはアレクの行動をご存知なのでしょうか。
さらに彼は、アレクの部屋にパン男ロボのポスターが貼られていることや、アニメDVDを観る用と保存用と布教用まで買っていることも言い当てたのです。
「……ふむ。大変残念なお知らせですが、あなたのお兄さんは二次性RXオタク症候群という病気に感染しています」
その日ワタクシは、アンティークの店「蜃気楼」でいつものカウンターの椅子に腰掛け、電話で兄のアレクサンドルと話をしていました。
「……えぇ、お店の方は特に変わりありませんよ。それじゃお土産にフォートナム&メイソンの紅茶、よろしくお願いしますね」
彼は今、ロンドンのアンティークマーケットへ商品の買い付けの旅に出かけているのです。
「やはりアレクがいないと静かですねぇ……おや」
彼からの電話を切って5分くらい経ってからでしょうか。店のドアがゆっくりと開きました。
「ごめんください。おぉ、これはすごいですな!」
そこには真っ黒なスーツの上に白衣を着て、小型の黒いトランクを片手に持った中年男性が立っていました。白衣を着ているということはお医者様なのでしょうか。
それにしても、当店に普通のお客様が来るのは珍しいことです。なにせ普段この店を訪れるのは神様か魔人ばかりですから。
「いらっしゃいませ、ようこそ蜃気楼へ。当店の主、ジェルマンと申します」
ワタクシがお辞儀をすると、男性は人の良さそうな笑顔を浮かべました。
「どうも、ジェルマンさん。いやぁ、すばらしいお店ですなぁ」
「ありがとうございます。どうぞごゆっくりご覧くださいませ」
彼は店内をぐるりと見渡し、店内に並んでいる骨董品や美術品を見て感嘆の声をあげています。
「――失礼ですが、あなたはお医者様ですか?」
男性はワタクシの問いに軽く頷いて、自己紹介を始めました。
「えぇ、そうです。私は『間旗男(はざまはたお)』と申します」
「ハザマさんですか。もしかしてあだ名はフラッグジャックとか……」
「はい?」
「いえ、独り言ですので忘れてください」
どうでもいいことを考えるワタクシに、彼は意外なことを切り出しました。
「――実はあなたのご家族のことで、今日は来たんですよ」
え、家族? 両親はとっくの昔に亡くなっていますし……
まさかアレクが何かやらかしたんでしょうか。
「はい、ワタクシの兄が何か……?」
「えぇそうです、お兄さんのことです。ちなみに今日はお兄さんは?」
「今は仕事でロンドンに出かけてます。ちょうど先ほど電話で話したばかりなんですよ」
「そうでしたか。実はお兄さんには内緒にしていただきたい、ここだけのお話があるんですよ……」
「はぁ……」
立ち話も何なのでとカウンターの隣の椅子を勧めると、ハザマさんはゆっくり腰掛け穏やかな表情で話し始めました。
「最近お兄さんについて、変わった出来事や様子がおかしいなと思うことがあったりしませんか?」
「変わった出来事や様子がおかしいなと思うこと、ですか……」
そんなのいつものことですし、正直何を言っていいかわからずワタクシが言葉に詰まると、ハザマさんは優しい声で続きを促しました。
「えぇ。どんな些細なことでも構いませんよ?」
「本当に些細なことでいいんですか? そうですねぇ――最近だと宇宙人と会話しました」
「は、はぁ? ……い、いえ。そうですか。宇宙人ですか」
ハザマさんは予想外の回答に困惑しているようでした。そういうことを聞きたいわけではなかったようです。
「で、ではお兄さんとの暮らしで困っていることはありませんか?」
「そうですねぇ。クソ悪趣味なスパンコールのパンツで家の中を歩き回ったり、お酒を飲んだ翌朝によく全裸で床に転がってるので困りますね」
「ふむふむ。他には?」
「あとは、パン男ロボというロボットアニメに夢中でロボットごっこに付き合わされたり、徹夜で上映会を開いたりするのは困りますねぇ。まぁ、もう慣れっこですけど」
ワタクシが何気ない兄の日常を苦笑しながら語ると、ハザマさんは大きく目を見開いて問いかけました。
「もしかしてお兄さんは、同じようなロボットをたくさん買ったりしていませんか?」
「えぇ、買っています。ワタクシにはどれも同じロボットに見えるんですが、細かい部分が違うらしいんですよね……」
「なるほど。そのほかにもお兄さんは、アニメの絵がパッケージなだけのお菓子を買ったり、キャンペーンでクリアファイルがもらえるからと大量にいらない物を買ったりはしていませんか?」
――え。どうしてハザマさんはアレクの行動をご存知なのでしょうか。
さらに彼は、アレクの部屋にパン男ロボのポスターが貼られていることや、アニメDVDを観る用と保存用と布教用まで買っていることも言い当てたのです。
「……ふむ。大変残念なお知らせですが、あなたのお兄さんは二次性RXオタク症候群という病気に感染しています」
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