65 / 163
season1
65話:思いがけない幸運
しおりを挟む
数日後、アレクの出演するファッションショーを観ようと、友人のシロを誘ってリビングでノートパソコンを開きました。
「アレク兄ちゃんすごいね! ファッションモデルとかカッコいい!」
「うふふ、そうですよね。ワタクシも弟として鼻が高いです」
「あ、ショーが始まったよ!」
画面の向こうでは美しい衣装を着たモデルが、光に包まれながら颯爽と歩いています。
「はぁ、すばらしい。……華やかな世界ですねぇ」
ワタクシがうっとりしていると、シロが急に大声をあげました。
「ねぇ! これ、アレク兄ちゃん……?」
「え……何ですかこれ⁉ どういうことですか⁉」
そこには、大きなモコモコの着ぐるみに包まれて舞台の上を歩くアレクの姿がありました。
せっかく鍛えた体は、着ぐるみのせいでまったくわかりません。
丸くくりぬかれた穴から顔を出す彼の表情に虚無を感じるのは気のせいでしょうか。
「なんか、こういうの見たことありますよねぇ……何でしょう」
「僕知ってる! 観光地にある顔出し看板だ!」
「それですね」
結局、アレクの出番はそれだけで、彼は一度もダイエットの成果を披露することなくショーは終わりました。
「……アレク兄ちゃん、出番少なかったね」
「まぁ、人生そう都合よくはいかないもんですよね。しかし、どう慰めればいいものか……」
――せめて、アレクが帰ってきたら彼の大好物のハンバーグをたくさん作って、好きなだけお菓子を食べさせてあげよう。
ワタクシとシロはパソコンを閉じて、一緒に食材やお菓子を買いに行く相談を始めました。
そして数日後。
「ただいまー、おぉ、今日はすげぇご馳走だな! パーティか?」
「え、えぇ。そんなもんです。ねぇ、シロ?」
「うん、そうだね」
「そういや、良い報告があるんだよ!」
やけに上機嫌のアレクの様子に、ワタクシとシロは顔を見合わせました。
「お兄ちゃんさ『実写版パン男ロボ』に、ゲスト出演することになったんだよ!」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!」
パン男ロボはアレクの大好きなアニメです。まさかそれの実写版に彼が出演することになるとは。
驚くワタクシ達に、アレクは笑顔で説明を始めました。
「実はな、ファッションショーで着ぐるみを着たら、たまたまパン男ロボの監督がショーを見ててさ。その着ぐるみをうちの新作映画にも登場させたいって……」
「何があるかわからないもんですね……」
「アレク兄ちゃんすごいね!」
「だろ、だろ? まさか憧れのパン男ロボと共演できるなんて……最高に幸せだ!」
そして彼は大好物のハンバーグをぺロリと平らげ、満面の笑みでお菓子をパクパク食べました。
「ふふ、今日はパーティですね」
「そうだねぇ」
ワタクシとシロは、その様子を見て心からホッとしたのでした。
「アレク兄ちゃんすごいね! ファッションモデルとかカッコいい!」
「うふふ、そうですよね。ワタクシも弟として鼻が高いです」
「あ、ショーが始まったよ!」
画面の向こうでは美しい衣装を着たモデルが、光に包まれながら颯爽と歩いています。
「はぁ、すばらしい。……華やかな世界ですねぇ」
ワタクシがうっとりしていると、シロが急に大声をあげました。
「ねぇ! これ、アレク兄ちゃん……?」
「え……何ですかこれ⁉ どういうことですか⁉」
そこには、大きなモコモコの着ぐるみに包まれて舞台の上を歩くアレクの姿がありました。
せっかく鍛えた体は、着ぐるみのせいでまったくわかりません。
丸くくりぬかれた穴から顔を出す彼の表情に虚無を感じるのは気のせいでしょうか。
「なんか、こういうの見たことありますよねぇ……何でしょう」
「僕知ってる! 観光地にある顔出し看板だ!」
「それですね」
結局、アレクの出番はそれだけで、彼は一度もダイエットの成果を披露することなくショーは終わりました。
「……アレク兄ちゃん、出番少なかったね」
「まぁ、人生そう都合よくはいかないもんですよね。しかし、どう慰めればいいものか……」
――せめて、アレクが帰ってきたら彼の大好物のハンバーグをたくさん作って、好きなだけお菓子を食べさせてあげよう。
ワタクシとシロはパソコンを閉じて、一緒に食材やお菓子を買いに行く相談を始めました。
そして数日後。
「ただいまー、おぉ、今日はすげぇご馳走だな! パーティか?」
「え、えぇ。そんなもんです。ねぇ、シロ?」
「うん、そうだね」
「そういや、良い報告があるんだよ!」
やけに上機嫌のアレクの様子に、ワタクシとシロは顔を見合わせました。
「お兄ちゃんさ『実写版パン男ロボ』に、ゲスト出演することになったんだよ!」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!」
パン男ロボはアレクの大好きなアニメです。まさかそれの実写版に彼が出演することになるとは。
驚くワタクシ達に、アレクは笑顔で説明を始めました。
「実はな、ファッションショーで着ぐるみを着たら、たまたまパン男ロボの監督がショーを見ててさ。その着ぐるみをうちの新作映画にも登場させたいって……」
「何があるかわからないもんですね……」
「アレク兄ちゃんすごいね!」
「だろ、だろ? まさか憧れのパン男ロボと共演できるなんて……最高に幸せだ!」
そして彼は大好物のハンバーグをぺロリと平らげ、満面の笑みでお菓子をパクパク食べました。
「ふふ、今日はパーティですね」
「そうだねぇ」
ワタクシとシロは、その様子を見て心からホッとしたのでした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
後宮の記録女官は真実を記す
悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】
中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。
「──嫌、でございます」
男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。
彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──
「お節介鬼神とタヌキ娘のほっこり喫茶店~お疲れ心にお茶を一杯~」
GOM
キャラ文芸
ここは四国のど真ん中、お大師様の力に守られた地。
そこに住まう、お節介焼きなあやかし達と人々の物語。
GOMがお送りします地元ファンタジー物語。
アルファポリス初登場です。
イラスト:鷲羽さん
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる