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season1

57話:トンデモ倉庫整理

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 その日、俺は弟のジェルと一緒に店の倉庫を整理をしていた。
 俺の知り合いが美術館をオープンすることになったんだけど、手違いで展示品が足りなくなっちゃったんだ。
 それで珍しい物をいろいろ取り扱ってるうちの店の力を借りたい、って相談があってさ。
 
「うちの倉庫に美術館に置けるような良い物があればいいんですけどねぇ……はっくしゅんっ!」

「おいおい、大丈夫か?」

 ジェルは棚の上を確認しようとして盛大にくしゃみをした。最近、掃除してなかったからなぁ。埃がすげぇや。

「アレク、ぞうきん持ってきてください。良い機会だから掃除しながら寄贈できる品を探しましょう!」

 俺がぞうきんを濡らして持ってくると、ジェルが一人でブツブツ言いながら品を選り分けていた。

「これは微妙ですね。あっちはまがい物だし。こっちは、あぁ。うーん。でもこれもなぁ……」

 ジェルは棚から箱を引っ張りだして開けて確認すると、無造作にその辺に置いていく。箱の大きさを気にせず積み重ねていくから今にも崩れそうだ。

 そう思った瞬間、上の方に積んでいた品が崩れて、俺の足元に巻物みたいなのが二つ転がってきた。

 ――やれやれ。ジェルは昔から、ひとつのことに夢中になると他が見えなくなるタイプだからなぁ。

 俺は苦笑いしながら足元の品を拾って彼に声をかける。

「なぁジェル、この巻物みたいなの何だ?」

「……え。あぁ、掛け軸ですよ」

「へぇ、ってことは日本画か? そういうの美術館ウケ良いと思うしいいんじゃねぇか?」

 俺は掛け軸の中を見ようと、しっかり結んである紐を解いた。

「あっ、アレクいけません! それはあなたの苦手な……あれ?」

「なんだこれ……?」



 掛け軸を広げてみると、黄ばんだ和紙の上の方に少し柳が描かれているだけだ。真ん中は何も描かれてなくて、まるでそこに何かあったみたいに不自然な構図だった。

「あれ、おかしいですね。それは幽霊画のはずなのに……」

「ゆ、幽霊画! ――でも空っぽじゃねぇか!」

 俺はジャパニーズゴーストは苦手だから幽霊画と聞いてちょっとびっくりしたが、これじゃ単なる柳の絵だ。

「なんだよ、おどかしやがって……」

「変ですねぇ……」

 ジェルはまだ納得いかないらしくて、しきりに首をひねっている。
 幽霊画の掛け軸がただの柳の絵だったことに安心した俺は、もう一枚の掛け軸の紐を解いて広げた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 そこには幽霊が隙間無くみっしりと詰まっていて、俺は絶叫した。



「あぁ。居ないと思ったら、そっちに移動してたんですね」

「なんでそんな極端なんだよぉ……ふぇぇぇ、びっくりした」

「……変ですねぇ。それにしてもやけに数が多いし、そもそも幽霊画ってこんなのじゃ無かった気がするんですが」

 ジェルは釈然としないのか、あごに手を当てて考え込んでいる。

「……まるで満員電車のドアですね」

 ジェルは考えるのを放棄したのか、そう一言感想を述べると何事もなかったかのように掛け軸をくるくると巻いて紐で縛った。

「とりあえず、どっちも美術館に寄贈するには向いてないかと」

「そうだな。あー、びっくりしたわー……」

 まだ心臓がドキドキしてるぞ。本当うちの店の品はロクでもねぇなぁ。
 大きく息を吐いて視線を移したその時、棚に見慣れない雑誌があることに気づいた。

 雑誌の表紙には、魔法使いの格好をしたおねぇちゃんが箒(ほうき)片手にニッコリ笑ってる写真が載っていて『すてきな魔女さん』って文字がデカデカと書かれている。

「なんだこれ、魔女って……?」

「あぁ、それは魔女の世界の業界誌ですねぇ。先月号の『季節のハーブで作る毒薬レシピ』は興味深かったです」

「やべぇな、それ。そんな物騒なもんが載ってるのかよ」

 好奇心に駆られてパラパラと中身を見てみると『マンネリ脱出! 気分がUPする黒ミサ特集』や『イケメンダケで作る香水アレンジ』といった、わけわかんねぇ内容が可愛い色使いの浮かれた文字で書かれていた。

「すげぇ世界だな……」

「ワタクシは、その中の魔女のお悩み相談室が好きなんですよ」

 ジェルに言われて後ろの方のページをめくると、読者コーナーの後半にその記事があった。

「どれどれ。魔女のお悩み相談室『ヒツジとヤギの区別がつかないと友人に笑われました』……どういうこった。毛が真っ直ぐなのがヤギで、モコモコしてんのがヒツジでいいんじゃねぇのか?」

 不思議に思いながらページをめくると、ベテランらしいしわくちゃでワシ鼻の貫禄ある魔女の写真と一緒に回答が書かれていた。

「回答:サバトに連れて行ってサタンが降臨すればヤギです。……ってこれサタン来なかったらどうしたらいいんだ?」

「ジンギスカンパーティでもすればいいんじゃないですかね」

「食うのかよ!」

「――とりあえず、雑誌見てたら作業が進みませんからそれくらいにして……あ、これどうですか? きっと美術館の目玉になると思いますよ」

 ジェルの手には小さな箱が乗っている。箱を開くと大粒の青い宝石が光っていた。
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