上 下
41 / 163
season1

41話:シロの見解

しおりを挟む
「ジェル。アレク兄ちゃんはどうやら風邪のようだ。日本では昔から風邪にはネギが効くって言われてるんだよ」

「ネギですか……そういえばそんなのを聞いたことがあるような」

「うん、民間療法だけどよく効くんだよ~!」

 シロはそう言ってアレクの布団を引っぺがし、パジャマ姿のアレクのお尻を思いっきり叩きました。

「さぁ、アレク兄ちゃん! ネギをブッ刺すからお尻を出して‼」

「ひゃっ……、し、シロぉ⁉」

 急にお尻を叩かれたアレクは、目をまん丸に見開いて情けない声を上げました。

「大丈夫だよ! お尻にブスっとネギを刺せばきっとアレク兄ちゃんの風邪も治って元気になるから!」

「なるほど、肛門の粘膜から薬効成分を浸透させるんですか……!」

 まさかそのような民間療法があるとは知りませんでした。東洋医学とは奥深いものですね。

「あ……や、やだぁ! シロ……俺……」

「何も恥ずかしがることなんてないよ? だってアレク兄ちゃんは病人なんだから」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

「しょうがないなぁ。ジェル、パンツ脱がすの手伝って!」

「はい!」

「――待ってくれ! 俺もう元気だから! もう治ってるからぁぁぁぁー!!!!!!」

 アレクはそう叫んでガバッと起き上がって、ベッドの上でぴょんぴょんジャンプしながら手を振り回し元気であることを必死でアピールしました。

「ちょっとどういうことですか、さっきまであんなに具合が悪そうだったのに!」

 ワタクシがあまりの変わりように目を見張ると、シロはネギをプラプラと手でもて遊びながら言いました。

「なんてことないよ。アレク兄ちゃんが仮病を使ってただけだから」

「お、おいシロ……!」

 アレクはうろたえています。その表情でどちらが真実を語っているのかは一目瞭然でした。

「アレク……ワタクシを騙していたのですか?」

「いや、最初はホントに風邪ひいてたんだよ。熱もあったしさ……」

 アレクは問いに対し、ばつが悪そうな顔で弁解し始めました。

「なんか寝てたらあっさり治ってたんだけど……ほら……アイスクリームもらえたりハンバーグ作ってもらえるし、ジェルが何でも言うこと聞いてくれるから、もうちょっとこのままがいいなぁ~……なんてね?」

 だからごめん……と彼はまた甘えるような目でこちらを見ながら小さな声で謝ってきました。
 普段ならしょうがないですね、と許してしまうのですが、今回ばかりはそうはいきません。

「どれだけ心配したと思っているんですか! このお馬鹿さん‼」

「す、すまん……」

 さて、どう落とし前をつけたものか。――そうだ。同じことをしてもらいましょう。

「罰としてワタクシがアレクにしたことを全部してくれるまで、ワタクシ休ませていただきます!」

「へ?」

「アレクは今すぐアイスクリームを買いに行って、ワタクシの代わりに晩御飯を作って、そうですねぇ……スワロフスキーの限定品を百貨店から取り寄せてもらいましょうか」

「――えぇっ⁉」

 ワタクシの提案にアレクはすっとんきょうな声をあげ、目を丸くしました。

「自業自得だね、アレク兄ちゃん」

 シロがアレクの表情を見て、にやにや笑っています。

「そんなぁ~……」

「――あ、もちろんアイスクリームはハーゲンダッツでお願いしますよ?」

「アレク兄ちゃん、僕もアイス欲しい! ジェルと同じの!」

「え、シロにまで……」

 アレクは、観念してがっくりとうなだれました。この程度で許してもらえるなら安いものだと思いますけどねぇ。
 しぶしぶアイスクリームを買いに行くアレクを、ワタクシとシロは笑顔で見送ったのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

後宮の記録女官は真実を記す

悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】 中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。 「──嫌、でございます」  男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。  彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──

「お節介鬼神とタヌキ娘のほっこり喫茶店~お疲れ心にお茶を一杯~」

GOM
キャラ文芸
  ここは四国のど真ん中、お大師様の力に守られた地。  そこに住まう、お節介焼きなあやかし達と人々の物語。  GOMがお送りします地元ファンタジー物語。  アルファポリス初登場です。 イラスト:鷲羽さん  

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...