上 下
17 / 163
season1

17話:婚約者はジェル子ちゃん!?

しおりを挟む
 今日はなんとなく嫌なことがある予感がしてたんですよ。実際ロクでもない日になりました。
 アラビア半島を旅行していた兄のアレクサンドルが、突然いかつい男を連れて店に帰ってきたのです。

 アレクの隣でキョロキョロと、もの珍しそうに店内を見渡す男の身長は190cm近くあるでしょうか。



 何か格闘技でもしているのか筋肉の盛り上がりがたくましい大男ですが、その仕草は媚びるようにクネクネしていて、体躯に似合わぬ異様な雰囲気を醸し出しています。

「あら~! ここがアレクちゃんのオ・ウ・チ! 超かわいい~!」

 どこから出たのかわからないような素っ頓狂な声に、両手を頬に当てプルプルと顔を振る大げさなポーズ。

 なんでしょうか、この生物は。

「……アレク。そちらの方は?」

 男の隣でぼんやり突っ立っていたアレクは急にあたふたしたかと思うと、いきなり突拍子もないことを言いだしました。

「お、おう! 紹介する、こちらランプの魔人のジンちゃんだ。えっと、ジンちゃん。こいつが俺の婚約者のジェル……ジェル子だ!」

 ――え?

 すみません、理解が追いつかないのですが。ランプの魔人に婚約者にジェル子?
 よくわからない状況に困惑していると、アレクが魔人に一気にまくしたてました。

「なっ! わかったろ? 俺、ホントに婚約者と一緒に住んでんだよ! な? だから俺とは縁が無かったと思って諦めて……」

「んまぁ~、アレクちゃん。フィアンセがいるってホントだったのねぇ~! あんらぁ~アナタ、なかなか可愛いじゃない~! 綺麗な金髪にお人形みたいな大きなお目目! 嫉妬しちゃうわぁ~!」

 魔人は両手を握り締め、ワタクシを見て大げさに感動しています。

「だろ、めちゃくちゃ可愛いんだよ! ――いや、そうじゃなくて。だからさぁ、もう俺のことは良い思い出か何かにしてもらって……」

「あら? ジェル子ちゃんって女の子なんでしょぉ? なんで男物のお洋服なんて着てるの~?」

「いや、それはその……そういう趣味なんだよ! だから、なっ。もう、ほら、もうわかったろ……」

 アレクはすっかり困り果てた様子で頭を抱えています。
 
 ワタクシが兄の婚約者で、男装が趣味。そんなバカな。そもそもジェル子ってワタクシ達はフランス人なのにありえないでしょ。
 ランプの魔人は訝しげにこっちを見ては首をかしげています。そりゃそうですよね。
 
 この状況をどうにかしろとアレクに冷ややかな視線を送ると、何を思ったのか彼は作り笑いを浮かべてワタクシに抱きつきました。

「いや~! ジェル子、逢いたかったぜー‼ そんな冷たい目で見んなよー! あぁ、そうか。淋しかったんで拗ねてるんだよな! そうだな? ほんっと可愛いな、アッハハハハ~!」

 ……思いっきり棒読みですよ。

 そう思っていると、アレクが抱きついたままコソコソと耳打ちをしてきました。

「ジェル、すまん、付きまとわれて困ってるんだ。助けてくれ」

「なんですかあのオカマは」

「アラビアンナイトのランプの魔人だ。好奇心でランプを磨いたら出てきちまった」

「はぁ……精霊や神様が来る店ですから存在しても不思議ではないですが、魔人なんて初めて見ましたよ」

「俺だって初めてだよ。いいか、とにかく婚約者のふりしてくれ、頼んだぞ」

「わかったから離れてください」

 ワタクシはすがり付くアレクを突き放し、魔人の方を見ました。

 たしかに絵本にでてくるアラビアンナイトの魔人のようにターバンを巻き、金や宝石で飾られた衣装ではありますが、派手なピンク髪を細かく編みこんだその姿は、ただの屈強そうなオカマにしか見えません。

「あなた、本当にアラビアンナイトのランプの魔人なんですか?」

「えぇ、そうよぉ~? アタシのことはジンちゃんって呼んでねっ! 悪い奴にランプで封じ込められちゃったんだけどぉ~、アレクちゃんが助けてくれたのぉ~!」

「はぁ」

「アタシって世間的にはランプから呼び出した人の願いを叶えるって伝説が出回ってるわけ」

「じゃ、アレクが願えばお帰りくださるのですか?」

「やぁねぇ、あくまで伝説というか昔の話よ~。今はフリーだからそういうのナシ」

ジンはナシナシと言いながら手を振って肩をすくめます。

「じゃ、願いは叶えられないと」

「そう。それなのに悪いやつが伝説を真に受けて、アタシをランプに封じ込めて誘拐してねぇ」

「それは大変でしたね」

「でも願いを叶えてくれないと知ったら、またランプに封じ込めてアタシごと古道具屋に売り飛ばしたの。そこからたらいまわしの日々よぉ~。ランプの中は狭くて暗くて超辛かったわぁ~」

 それがこのランプなのよ、とジンは店のカウンターに古びた金色のランプ置きました。

「なるほど。それをアレクが手に入れた、というわけですね」

「そうなのぉ~! アレクちゃんってば超ハンサムだしぃ~イケボだしぃ~! アタシひと目で好きになっちゃって~! 恋人になってぇ~ってお願いしたら、アレクちゃんおうちに婚約者が居るって言うからぁ~」

 それで家まで付いてきたというわけですか。まったく迷惑な話です。
 ワタクシは眉間にしわを寄せてため息をつきました。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嵐は突然やってくる

白うさぎ
ライト文芸
母子家庭で生きてきた白山 廉(しろやま れん)。旧姓:笹原 廉(ささはら)。 かわいい妹の百々(もも)と協力して母を助けながら生きてきたが、ある日突然母親に再婚を告げられる。 そこからはじまる新たな生活に、、、

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました

やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>  フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。  アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。  貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。  そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……  蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。  もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。 「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」 「…………はぁ?」  断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。  義妹はなぜ消えたのか……?  ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?  義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?  そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?  そんなお話となる予定です。  残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……  これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。  逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……  多分、期待に添えれる……かも? ※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。

平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。 そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。 そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。 クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

処理中です...