上 下
140 / 184
2章:いろんな人の、いろんな事情。

今後の話し合い ――6

しおりを挟む

「それだけなら、まだマシなほうなの。成人を迎えると、孤児院を出るしかないでしょう? でも、その前に選択を迫られるの。このまま教会に残るか、出て行くか」
「……それが普通じゃないの?」
「でもね、私も最近知ったんだけど……どちらを選んでも、身体を売ることになるの」
「どういうこと?」

 ぴくっとシェリルの眉が跳ねた。カイルは「……そういえば」と呟く。なにか思い当たることがあったのだろうか。

「カイル?」
「あ、いえ。以前、王都にいる知人に聞いた話なのですが……」

 ちらりとシェリルとセシリアを見る。そして、言いづらそうにしている。女性には聞かれたくない話ってこと?

「あたくしたちには言いづらい?」

 こくり、とうなずくカイル。セシリアは「そうだろうね」と眉を下げた。

「暗黙の了解の娼館がある、って話でしょう?」
「しょっ!?」
「そうなの。その娼館に連れていかれるの。『商品』になる成人済みの子たちをね。男も女も関係なく」
「え」

 待ってくれ、男性も連れていかれるの? なんのために? シェリルは唇を尖らせた。

「その教会、潰しちゃダメかしら?」

 冷淡な口調でシェリルが言葉を発する。氷の微笑み、ってこんな感じなんだろうか。

「人を『商品』なんてのたまう場所があったら、いけないじゃない?」

 うふふ、と笑うシェリルの背後にダイヤモンドダストが見えるのは気のせいか……?

 でも、彼女の言葉には賛成だ。

「オレもそう思うけど、どうやって潰す気だよ。王都に移動するのは大変だろう?」
「そうなのよね。簡単に行けたら良いのだけど……」

 シェリルと考えを練っていると、セシリアは目を丸くしていた。

 王都の教会……孤児院が腐っていて良いわけない。

「……えっと、私が言い出しといてなんだけど、危険だと思う。それでも、良いの……?」
「そんなひどい目にっている人たちを放っておけないよ。そうだ、父さんたちにも伝えたほうが良いかもしれない。王都の教会が腐っているなら、こっちにも被害があるかもしれないし」
「そうね。セシリア、あなた、お父さまたちに説明できる? 内情を知っているあなたの力を借りたいわ」
「も、もちろん! みんなを救うためなら、私、なんだってがんばれるよ!」

 彼女がなんでもすると言って教会から出て行きたがったのは、家族同然に育った孤児院の子たちを、守るための勢力を得るためだったのかもしれないな。

 あのときの様子を思い浮かべて、ぐっと拳を強く握る。

 ――助けたい。絶対に。大人のいいように使われている人たちを。

 オレらは顔を見合わせて、同時にうなずき合った。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

Ωの皇妃

永峯 祥司
BL
転生者の男は皇后となる運命を背負った。しかし、その運命は「転移者」の少女によって狂い始める──一度狂った歯車は、もう止められない。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う

まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。 新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!! ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

処理中です...