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2章:いろんな人の、いろんな事情。

まさかの再会 ――4

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 シスターが眉根を寄せる。自分が話の主導権を握れないのが不快なのだろうか。セシリアは助けを求めるかのように母さんを見つめ、オレの服をぎゅっと掴んできた。その手が震えているのを見て、昔のことを思い出した。沙織サオリが怯えたとき、いつもこんな風に服を掴んでいたことを。

「セシリア。本当に行くつもりですか」
「……はい。シスター。わた、私は……この人たちと一緒に行きます!」
「……うん、ルトナーク家は歓迎するよ。さて、シスター。少々、お時間をいただけるかな? シェリル、エリス、母さんと一緒にいてくれるかい?」
「もちろんよ!」
「わかった!」

 父さんは良い子だ、とばかりにオレらの頭を撫でてから、セシリアに手を差し伸べる。

「セシリア、だね。きみはこちらに来てくれるかい? リンジーも。大切なお話をするからね」
「わ、わかりました」
「はいはい」

 ……どんな話をするかはわからないけれど、たぶん、セシリアがルトナーク家に来るためのあれこれを決めるのだろう。……あ、セシリアの絵を買わないと! とカイルを見ると、彼はそっとお金を払ってくれた。

 彼女の絵は額縁に入っていたので、そのままもらうことにした。

「さて、お父さまが戻って来るまで、もう少しお祭りを楽しみましょうか」

 母さんが柔らかい口調でオレらに話しかける。カーティスは離れようとしたけど、母さんが「一緒に行きましょう、ね?」と彼の手を掴んだ。

「え、あ、……はい」

 なんて、大人しく一緒に歩くカーティスに、オレとカイルは肩をすくめた。

 母さんはシェリルとシェリーの手首にお揃いのブレスレットがはまっているのを見て、「仲良しね」と嬉しそうに表情を綻ばせた。

 良いのか悪いのかわからないけど、ルトナーク家は使用人たちとの距離が近いほうだと思う。貴族の中には使用人に酷いことをする人たちもいるみたい。前にポーラから聞いたことがある。

 ……セシリア、大丈夫かな。なにかに怯えているように見えたけど。

 教会のほうをちらっと見ると、母さんが「大丈夫よ」とオレの頭を撫でた。

「あの子はきっと、うちに来てくれるわ」
「……うん。楽しみだね」
「ふふふ、そうね」

 母さんもブレスレットが欲しくなったようで、さっきの露店に戻ってきた。母さんは白いブレスレットを選んで、自分の手首にはめた。

「どうかしら?」
「とても似合っていますわ、お母さま!」

 シェリルが上機嫌そうに声を弾ませる。お揃いなのが嬉しいみたいだ。それから一時間くらいお祭り会場を見て回り、カーティスも一緒にいろんなところを見た。

 うさぎと触れ合ったり、劇を見たりしていたらあっという間だった。劇の内容は二年前にカイルが話した世界創造で、それを面白おかしく脚色し、最後に王族を讃えて終わった。カーティスが冷めた目で劇を見ていたのが印象的だった。

 だって、アレン殿下の友達……に、なるんだろうし。今の関係がどんなものかは知らないけれど。

「……弱いのに讃えられる人間、か」

 ぽつりと、忌々しそうに口に出すカーティスに、声を掛けることができなかった。リンジーが言っていたことを思い出して、ゆっくりと目を閉じる。

 ――弱い人間だからこそ、できることもあるんだろうか……

「……ッ」

 また、頭が痛んだ。目を開けて、カイルに手を伸ばす。オレの体調が崩れたことに気付き、カイルが支えてくれた。

「エリスさま、大丈夫ですか?」
「ごめん、ちょっと、支えてもらっていい……?」
「はい、私でよければ」

 カイルの身体にもたれかかると、みんなが心配そうに視線を向けた。ちょっと休めば大丈夫、と力なく笑うと、母さんはオレの額に浮かぶ汗をハンカチで拭いてくれた。

 う、眩暈まで……。――ダメだ、意識がもたない……!

 慌てたようなみんなの声が耳に届いたけど、意識がぷつりと途切れてしまった。
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