上 下
117 / 184
2章:いろんな人の、いろんな事情。

体力付けたはずなのになぁ。 ――2

しおりを挟む

◆◆◆

 優しく髪を梳かれるような、そんな感覚がして目を覚ました。辺りを見るともうすでにとっぷりと日が暮れていて、そんなに長時間意識を失っていたのか!? と衝撃を受けたのと同時に、カイルの顔がドアップに見えてびっくりした。

「え、なに、これどういう状況!?」
「お目覚めになったのですね、エリスさま。良かった。泥のように眠られていたので、このまま目覚めないのではないのかと……」
「それはマジでごめん――で、なんでオレ、カイルの膝枕で寝てたの……?」

 ソファの背もたれに寄りかかっていた記憶はあるけれど、カイルの膝に頭を乗せた記憶はないぞ!? 混乱していたら、カイルがクスクスと笑い、そっとオレの頭を撫でる。

「寝苦しそうでしたので……」

 カイルが移動させたのか。見られる範囲で辺りを確認する。他の人たちはいないみたいだ。でも、寝ている間にカイルの膝枕で爆睡しているオレを見られていた可能性が! うわぁ、穴があったら入りたい! オレが急いで起き上がろうとしたら、カイルが制した。急激に動こうとしたからだろうか。

 そして、ゆっくりとオレの身体を支えながら起こしてくれた。

「パーティーは?」
「無事に終わりました。あと数時間もすれば夜の部が始まりますよ。そこに参加できるのは大人たちだけですが……」
「大人たちって、正式には?」
「社交界デビュー後ですので、十六歳以上です」

 ここでひとつツッコミを入れたい。十六歳以上なら、アレン殿下はパーティー参加できないということを! それとも王族は別枠?

 カイルがソファから立ち上がり、そっと手を差し出す。その手を取って、静かに立ち上がった。眩暈梨、足もしっかり動きそう。良かったぁ。

「大丈夫そうですか?」
「ん、平気みたい。ありがと」

 カイルの手を離して歩き出す。うん、ちゃんとスムーズに動く。これなら大丈夫そうだ。そう思ってカイルを見ると、安心したような、ちょっと残念そうな複雑な表情を浮かべていた。……たぶん、おんぶか抱っこでしたかったんだろうなぁ。でも、イヤだぞ、オレ。十二歳にもなって、そんな風に移動するの。

 休憩室から出て行こうとすると、ガチャっと扉が開いた。父さんと母さんが迎えに来てくれたみたいだ。オレの顔を見て母さんが駆け寄ってぺたぺたと頬に触れてきた。その手が震えているのに気付いて、そっと母さんの手に自分の手を重ねる。父さんも、眉を下げてオレを見ていた。

「心配をかけてごめんなさい」
「……良いのよ、あなたが無事なら」
「そうだよ。エリスが無事なら良いんだ」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

Ωの皇妃

永峯 祥司
BL
転生者の男は皇后となる運命を背負った。しかし、その運命は「転移者」の少女によって狂い始める──一度狂った歯車は、もう止められない。

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う

まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。 新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!! ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

処理中です...