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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
記憶の整理 ――1
しおりを挟む「って、シェリルを置いてきちゃった! 大丈夫かな?」
今更ながら気付いて慌てると、カイルが「大丈夫だと思います」と答えてくれた。本当に? と疑うわけじゃないけど聞いてみると、彼は肩をすくめて、
「旦那さまたちがいらっしゃるでしょう」
「あ、そっか」
殿下とシェリルがふたりきりってわけじゃなきゃ、まぁ。またベッドの上で大の字に伸びる。カイルがじーっとこっちを見ていることに気付いて、「どうした?」と声を掛けると、彼はちょっと迷うに視線を彷徨わせてから口を開く。
「昨日のエリスさまの格好、可愛らしかったなぁ、と」
「今すぐその記憶を消去しろ!」
「イヤです」
昨日の女装姿は、オレの中で黒歴史になること必須だ。ああいうのは清楚系のお嬢さんが着るから似合うもんだろう。カイルの目には一体どういう風に見えていたんだか。
「なぁ、ちょっと記憶の整理に付き合ってくれない?」
「構いませんよ」
カイルは椅子を持って来て、ベッドの近くに置く。そこに座りこちらを見てオレが話し出すのを待っていた。オレはベッドから起き上がり、カイルのほうに身体を向ける。
「カイルはオレが『エリスであってエリスではない』ことに気付いていたんだよな? というか、記憶が戻っても人格が『咲耶』のままなのが疑問なんだけど」
「……以前、私の属性が無属性だということは話しましたよね」
ん? なんで今その話? と思いつつ、カイルの表情があまりにも真剣だったから、覚えていると肯定するためにうなずく。
「私は、初めてエリスさまにお会いしたとき、不思議なものが視えたのです」
「不思議なもの?」
「心臓のあたりでしょうか。そこが黒く染まっていたのです。挨拶をして、握手を交わしたあと、エリスさまの記憶の一部が流れ込んできました。これまで、ループを繰り返していた記憶の一部を。ですから、彼が『魂の返還』をしようとしていることにも、すぐに気付けたのです。そして、彼の願いも」
淡々とした口調だった。オレの中でよみがえった記憶は、あまりに膨大で、どれがどの記憶なのか理解できないくらいなんだ。そのくらい、『エリス』は何度も人生を繰り返していた。
「エリスさまは、自身ではシェリルさまを救えないと考えていました。だからこそ、エリスさまの魂の半分であるあなたに託した。それに……彼自身疲弊していて、これ以上自分の人格を維持することはできないと考えたのでしょう。恐らく、ですが」
……カイルって本当に十二歳? なんて考えながら、ふむふむと話を聞く。確かに、記憶にあるエリスは疲れていた。シェリルや屋敷のみんなを救うために、数えるのも億劫になるくらいの人生を繰り返し、最後のほうは七歳には思えないほど、目の下に隈が出来ていた。なんで知っているかと言うと、毒を飲むパーティーの日も思い出したからだ。
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