65 / 184
1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
そして現在 ――5
しおりを挟む頭の中にいろいろな記憶が流れ込んでくる。恐らくこれは、『エリス』の記憶だ。一気に流れ込んで来て思わず頭を抱える。ガンガンガン! と頭を強打されている気分だ。グラグラして倒れそうになったところをカイルに支えられた。
「エリスさま、大丈夫ですかっ?」
「むり……!」
オレの返答を聞いて、カイルは慌てたようにひょいと抱きかかえ、ベッドまで運んでくれた。シェリルも慌てたように近付いて来て、「お、お医者さまを呼んでくるッ!」と震える声で部屋から出て行こうとする。
彼女の手首を掴んで、首を横に振る。医者に診てもらったとしても、治るわけじゃないと思ったから。オレが自分のことを『エリス』だと認めたからだろうか、この記憶がよみがえったのは。
「記憶……が、戻った、みたい」
脳が揺さぶれるような感覚。もう二度と味わいたくないな、この感覚。ぐったりとしていると、シェリルがそっとオレの頭を撫でた。労わるように撫でられて、彼女に視線を向ける。
「休んでいなさい。無茶しちゃダメよ」
「……そうする……」
目を閉じると、シェリルがぽんぽんとオレの胸を優しく叩いた。そして、いつの間にか眠りに落ちていたみたいだ。一気に『エリス』の記憶が流れ込んで来て、オレのキャパシティを超えてしまったのだろう。
てっきり『エリス』の記憶は知らないままだと考えていたから、記憶が戻ってちょっと脳が混乱している。
ぐるぐると渦巻く記憶。『エリス』が経験してきたものすべて……ではないのだろうけれど、かなりの情報量だ。
目を開けて飛び込んできたのは暗闇。一体どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
「――くらい……」
シェリルとカイルと話していたときは、あんなに明るかったのに。今は恐らく夜なのだろう。どうせなら、明日の朝まで気を失ったままでいたかった……! 今から眠れるか?
いや、そんな風に思っても仕方ないか。一気に思い出したから頭が痛くなったのかな。今はとてもスッキリしている。そして、自分が確かに『エリス・F・ルトナーク』だと思えるようになった。
ベッドから降りて、部屋の扉まで向かう。扉を開けると、やっぱりカイルが立っていた。
「カイル、ずっとここに居たの?」
「はい。エリスさまがいつ起きても大丈夫なように。お腹は空いていませんか? 喉は乾いていませんか? 具合は治りましたか?」
質問攻めを受けて目を瞬かせる。カイルに心配性の称号を与えたい。十二歳の子にこんなに心配をかけて申し訳ないな。オレが苦笑を浮かべると、「まだ体調がすぐれないのでは?」とこれまた心配そうに眉を下げる。緩やかに首を横に振って、喉が渇いたから水を飲みたいと伝えた。あと、濡らしたタオルも。汗を掻いたから拭きたいと伝えると、「お風呂の準備をしますよ」と言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。
3
お気に入りに追加
433
あなたにおすすめの小説
名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~
沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。
巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。
予想だにしない事態が起きてしまう
巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。
”召喚された美青年リーマン”
”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”
じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”?
名前のない脇役にも居場所はあるのか。
捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。
「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」
ーーーーーー・ーーーーーー
小説家になろう!でも更新中!
早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
優しい庭師の見る夢は
エウラ
BL
植物好きの青年が不治の病を得て若くして亡くなり、気付けば異世界に転生していた。
かつて管理者が住んでいた森の奥の小さなロッジで15歳くらいの体で目覚めた樹希(いつき)は、前世の知識と森の精霊達の協力で森の木々や花の世話をしながら一人暮らしを満喫していくのだが・・・。
※主人公総受けではありません。
精霊達は単なる家族・友人・保護者的な位置づけです。お互いがそういう認識です。
基本的にほのぼのした話になると思います。
息抜きです。不定期更新。
※タグには入れてませんが、女性もいます。
魔法や魔法薬で同性同士でも子供が出来るというふんわり設定。
※10万字いっても終わらないので、一応、長編に切り替えます。
お付き合い下さいませ。
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる