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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

屋敷の周りをてくてく歩く ――1

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 このルトナーク邸はなかなかに広いようで、屋敷の周りを歩くだけでも汗が流れるくらいの運動量になる。一週間くらいで一周は出来るようになったのだから、体力はそこそこついてきたんじゃないだろうか。

「そういえば、護衛って言ってもカイルはまだ身体が出来上がっていないじゃん? 無理するなよ」

 十二歳はまだまだ成長期だ。確か、成長期にあまり鍛えすぎるといけないってどっかで聞いたことがある。カイルはオレに顔を向けると、小さくうなずいた。

「はい。よくご存知ですね」
「ちょっとね。オレも十二歳くらいになれば、今のカイルと同じくらいの身長になるかなぁ?」
「それは……たくさん食べてたくさん寝る必要があるかと」
「寝る子は育つってか。はは」

 そんな会話をしながら歩いているけれど、歩いているうちに息が上がるオレと比べて、汗ひとつ掻いていないカイルが涼し気に歩いているのが体力の差を見せつけられている気がする。お昼の時間には、天気が良いから外で食べようということになり、木陰に座ってカイルが軽めのお昼ご飯(サンドイッチ)を持って来てくれた。ポーラと一緒に。

「エリス坊ちゃん、お茶を用意しますね」

 ポーラは猫耳を動かしながら、お茶を淹れている。彼女のお茶は美味しいからありがたいけれど、どうしてここにポーラが? とカイルに視線を投げると、カイルが「廊下で会いました」と教えてくれた。

「最近の坊ちゃんはカイルとばかり過ごしているので、ちょっと寂しかったのですよ」
「それは、ごめん」

 カイルと過ごすようになってから、ポーラと一緒にいる時間は確かに減っていた。彼女はお茶の入ったカップをオレに差し出す。カップを受け取り、こくりと一口飲み込み、まろやかな口当たりのお茶にゆっくりと息を吐く。

「ふふ、エリス坊ちゃんは本当にお優しい方です」

 七歳までのエリスと比べているのかな。元のエリスってどんな性格だったんだろう。ぼんやりと考えながら、サンドイッチを頬張る。あ、うまい。シャキシャキのレタスに瑞々しいトマト。塩気が効いているハムに、マヨネーズがよく合っている。……そういやこの世界ってどのくらいの年代の設定なんだろう。マヨネーズがあるってことは、近世? いや、そもそも乙女ゲームの中だから、割となんでも有りな世界観なんだろうか。出て来る食事は洋風だけど、探せば和食もあるのかもしれない。

 和食のことを考えていたら食べたくなってきた。煮物や出汁巻き玉子が恋しい。

 昆布や鰹節ってあるのかな。卵はあるからそれと醤油があれば作れそうな気がする。……ただ、オレに作らせてくれるかどうかが怪しいけどさ。貴族の子どもって料理してもいいのかな?
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