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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

デザイナー ――3

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「では、エリスの要望に応えるデザインを描きましょう」

 紙とインク、ペンをローテーブルに並べる。お菓子とお茶も並べられていたけれど、ローテーブルは広いので問題なく描き始めることが出来たようだ。

 さらさらと描いていく姿は職人という感じがして、格好いい。でも、あんまり見ていると悪いから、オレはお菓子を食べることにしよう。

 ……それにしてもこの量のお菓子って、いつ作っているんだろう? そして余ったら使用人のみんなが食べるのかな? それならみんな甘いものが食べられて良いと思う。

「ふふ、お菓子が好きなところは昔のままなのね」

 さくりと音を立ててクッキーを頬張ると、カーメルさんが懐かしむように目元を細めてこちらに顔を向ける。昔のまま? 『咲耶サクヤ』と『エリス』の魂は恐らく違うのに……? いや、考えなくてもいいか。だって、子どもがお菓子に喜ぶのは当たり前のことだろうし。

 クッキーをもぐもぐと咀嚼して、ごくんと飲み込んでからお茶を飲む。バターたっぷりのクッキーは結構な甘さで、お茶を飲むことで口の中がサッパリとする。お菓子とお茶のセットはいつ食べても美味しいなぁ。

「美味しいかい、エリス?」
「はい、とっても!」

 ルトナーク家のシェフはとても優秀なのだろう。あれ、この場合パティシエ? お菓子は誰が作っているんだろ?

 ただ、ルトナーク家の料理屋お菓子を食べていつも思うのは、美味しいものは心を満たしてくれるよなーってこと。お茶も美味しいし、こういうものを作れる人って本当に尊敬する!

 そして、前よりも食べられることに気付いた。この調子で食べられるようになれば、体力不足が解消されるかも。お菓子が食べられるってことは、料理も食べられるようになるだろうし! ここの料理美味しいから、本当はもっとたくさん食べたいんだ。

 カーメルさんも近くのお菓子に手を伸ばして、ぱくりと食べた。一口サイズのお菓子だから、女性でも食べやすそうだ。

「本当、美味しいですわね」

 頬に手を添えて幸せそうに食べている姿は、こちらまで嬉しくなりそうだ。

「だろう? うちのシェフは優秀なんだ」

 自慢なんだろうな、屋敷の人たちが。楽しそうに笑うユーインさんとカーメルさん。仲が良さそうな兄妹だ。

「それで、どんなデザインを描いたんだい?」
「こんな感じでいかがかしら?」

 デザインを見せてくれた。シンプルなワイシャツにハーフパンツ。そうこういうの! こういうのを求めていたんだ!

「はい、そんな感じでお願いします!」

 デザイン画を見せてもらい、ローテーブルに手をついて前のめりになると、カーメルさんは一瞬目を丸くしたけれど、すぐににこっと微笑みを浮かべて、オレに近付き肩に手を置いた。
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