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6話
しおりを挟むまぁ、俺がそんなことを考えていても仕方ないか。
明日の準備をしていると、いつの間にか上級生たちの授業が終わったようで、ルイ先輩が戻って来た。
「ただいま~」
「お帰りなさい、お疲れさまです」
扉を開けて部屋に入って来るルイ先輩を目視した後に声を掛けると、ルイ先輩は一瞬ぎょっとしたような顔をしたけれど、すぐに目を瞬かせてぷはっと笑った。
「疲れてないよ。今日は生徒会の活動もなかったしね」
「え、そうなんですか?」
「そ。なんて言っても今日は寮の歓迎会もあるからね。もうそろそろ準備できるんじゃないかなぁ」
鞄を机に置いて教科書やノートを取り出すルイ先輩。きっちりとしている人なんだなぁと思いながら、その仕草ひとつひとつが洗練されているように見える。
確か、ルイ先輩は子爵家の人だ。そして、リアム先輩は伯爵家。……爵位的に言えば次の生徒会長はユーゴだろうか。その時には、俺は生徒会に居ないだろうけど……。俺が生徒会に入るのは兄の手紙が大きいだろうし……。
「さっ、着替えて寮の食堂に行くよ!」
「え、あ、は、はい!」
ラフな格好に着替えて「行こう」と手を差し出されて、俺はその手を握った。
――歓迎会は夜の十時には終わった。明日から授業が始まるから早く寝るように、とのことだ。
歓迎会、かなりの盛り上がりだった……。新入生をここまで歓迎するのかと思うくらいの盛り上がりだった。ただの食事会と言うわけでもなく、食べ終わったらカードゲームやチェス、雑談など色々なことで盛り上げてくれた先輩たちには感謝しかない。
そんな中でも、やはり一番引っ張りだこだったのは――……。
「いやぁ、大人気だったね、ユーゴ」
「ですね。声を掛ける人が多かったです。流石公爵家……」
ユーゴに興味があるのか、又はコネ目当てか。どちらにせよ相手をしなくてはならないユーゴは大変そうだった。
俺はと言えば、ちょっと離れたところでリアム先輩とルイ先輩が人目を憚らず『あ~ん』をしている場面をニヤニヤと見守っていた。俺が待っていたふたりのイチャイチャタイム! それを邪魔することは誰であろうと許さん! そう意気込んでいたけれど、ラブラブすぎるこのカップルに手を出そうとする人は居なかった……。
「……ちゃんと楽しめた?」
「もちろん。なんか不思議な感じでした。生徒たちだけでこんなに集まってワイワイ騒ぐのって」
とはいえ、俺の望みは傍観者なのでひっそりと歓迎会を楽しんだ。地味にしているからか、近寄りがたいオーラでも放っていたのか、ほぼ誰にも話し掛けられなかったし、俺も話し掛けることをしなかった。人脈を築くよりも傍観者となってカップルたちを見守り、目の保養にしていた……。
俺の思った通り、この学園……結構なカップル率だ。初々しい雰囲気を醸し出すカップルや、熟年夫婦のような雰囲気を醸し出すカップル……。一見喧嘩しているように見えるが、その実相手が気になって仕方なさそうな雰囲気を醸し出すカップル一歩手前の人たちもいた。
なんて素晴らしい世界なんだ、ここは!
「ずっとひとりで居たように見えたから、気になって」
「え? あ~……。楽しそうな雰囲気を見るのが好きなんです……」
カップルを見て萌えていましたなんて流石に言えないから、当たり障りのないことを口にしておく。実際本当に楽しそうだったし、見ている分には楽しかったし。当事者になろうとは思わないところが俺だな……。
ユーゴの傍には綺麗系の人がずらっと並んでたし(多分、公爵家との繋がりが欲しい人たち)、そう言う綺麗系な人たちから恋人を選べば良いと思う。誰もかれもユーゴの恋人になれたら、と必死だったっぽいし……。
「……ルイ先輩。俺と同室の前は誰と同室だったんですか?」
不安そうに俺を見るルイ先輩に、俺はにこやかにそう尋ねた。一気に顔を真っ赤にさせるルイ先輩を見て、綺麗だなぁと思った。知っている答えだけど、ルイ先輩の口からは聞いていない。
「……リアムと一緒だったよ」
「俺と一緒の同室で、残念ではありませんか……?」
「え? どうして?」
部屋についてからベッドに座って、ルイ先輩の疑問に答える。
「リアム先輩と仲良さそうだったので……」
「あ、あぁ~、うん、まぁね。でもね、おれ、君と会えるの楽しみにしていたんだよ?」
「え?」
「リアムが良く話してくれたサイラス先輩の弟ってことで、どんな子なのかなぁって」
にこにこと笑うルイ先輩に、サイラス兄さんとリアム先輩のことを思い返す。よく話してくれたってどういうことだろう?
「サイラス先輩とリアム、一年だけ同室だったんだよ。ここの寮って上級生と下級生が同室でしょ? ……一部、例外はあるけれど」
護衛の都合上王族、公爵、侯爵はひとり部屋だっけ。きっと豪華な部屋なんだろうなぁ。
「……兄さんとリアム先輩が同室だったって、今日初めて知りました……」
「サイラス先輩は学園のことあまり話さなかったの?」
「魔法の使い方は教えてくれたんですけど、学園に関してはあまり。生徒会長だったことも初耳でしたし……」
魔法の才があるのは俺も知っているけれど……。正直、兄の才能はあのデュボア領には勿体ないくらいなんだよなぁ……。男爵家の領って町くらいの大きさだし。それでも、領民が楽しそうに暮らしているのを見るのは大好きだ。
「結構クールな人なの?」
「……クール……? いえ、それはあり得ません……」
兄が俺に対してそんな態度を取ったことはないし、うちの家族は仲が良かったし……。メイドと執事も数人いたけど、その人たちも含めて『家族』だった。領民たちは農作業を一生懸命してくれていたし、きちんと休む時は休んでいたし……何よりも笑顔だった。良い町だなって~って思いながら暮らしてたんだよね。
「そっかぁ。ふふ、今度会ってみたいなぁ。夏季休暇、アーサーについて行っちゃおうかなぁ?」
「ルイ先輩なら大歓迎ですよ!」
ぐっと拳を握って興奮気味にそう言うと、ルイ先輩は「そう?」と満更でもなさそうに微笑んだ。
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