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5話

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「あ、そろそろ昼休み終わっちゃうね。後は寮で歓迎会があるから、それまで部屋で休んでいてよ」
「わかりました、ありがとうございます」

 ハッとしたようにルイ先輩が時計を見上げてから俺へと顔を向けて、申し訳なさそうに眉を下げながらそう言った。先輩たちは普通に授業があるのだから、気にしなくても良いのに……。そして全員が食べ盛りだからいっぱいあった料理は空になっていた。俺もお腹いっぱい。食堂に残った俺は、厨房の人たちが空になった皿を洗い場へ持っていくのを見て、「手伝わせてください!」と立候補してみた。

「仕事だから……」

 と渋られたけど、「そこを何とか!」と粘って「……そ、そこまで言うなら……」と手伝い枠をゲットした。皿を重ねて洗い場へ。貴族が通う学園だからか、調理場もめっちゃ綺麗。皿を洗い場に置いて、また食堂に戻って皿を回収してくる。食堂で食べる人、結構多いから回収するのも一苦労だな。

「手洗いなんですね」
「ああ……。魔力が少ないから、節約しているんだ」
「……それなら、俺に任せてもらえませんか?」
「うん?」

 怪訝そうに俺を見る調理場担当の人たち。俺はすっと皿に向かって手を翳すと、汚れた皿をすべて魔法で作り上げた水の中に入れた。洗剤を入れて汚れを落とし、綺麗に洗ったら汚れた水を流して綺麗な水の中ですすぐ。それから水に濡れた皿を風魔法で乾かす。丁寧に皿を重ねていって、洗い物終わり!

「終わりました!」
「……す、すごいね……」

 ぽかんとされてしまった。洗い物も終わったので部屋に戻ろうとしたら、「お茶飲むかい?」と聞かれたので「是非!」と返事をした。洗い物が短時間で終わったから厨房で働いている人たちも休憩することにしたみたいだ。

「ほい、お茶。洗い物助かったよ」
「量が多いですもんね」
「貴族の坊ちゃんたちが美味しい美味しいと食べてくれるのは嬉しいけどな。お前さんも貴族だろう?」
「男爵家の子息です。……でも、俺自身に爵位があるわけじゃないので……」

 男爵なのは父だし、後継者は兄だし。俺はこの学園で色々学んで、そのうちどっかで就職出来たら良いなぁと思ってるんだよね。家族がどう考えているかはわからないけれど、出来るだけ平和な職場が良い。

「客観的に自分を見られるのは良いことだけど……随分、達観してない?」
「ははは」

 なんせ人生二回目なもんで。とりあえず笑ってごまかしておこう。お茶を飲んで、厨房で働く人たちとのんびり話してから部屋に戻った。
 この学園で働いている人たちは、教師以外、あまり魔力がないらしい。魔力が多い人たちが多いと、間違いも起きやすいとのこと。
 ……間違いってなんだろう? そんなことを考えながらベッドに飛び込んだ。

「天井高いなぁ……」

 まるで豪華なホテルだ。……そんなお高いホテルに泊まったことはないけれど。
 原作とは違う展開になっているこの世界。どういう結末を迎えるのかよくわからないけれど……。まぁ、俺は傍観者でいることを選ぶから、ユーゴとはあまり関わらないようにして、生徒会の仕事をがんばろう。
 ……それにしても、サイラス兄さんって有名人なんだなぁ、この学園で。いや、知っているのは生徒会の三年生だけかもしれないけれど。
 三年の間に俺は、自分の道をちゃんと決められるかなぁと少し不安になりつつも、自分の道を決めるためにここに来ているんだから、いっぱい悩んでいっぱい考えて――デュボア家の迷惑にならない道を選ぼう。

「あ、そうだ! 確かプリントあったよな……!」

 ホームルームで渡されたプリントのことを思い出して、がばりと起き上がってそのプリントを眺める。一年間の行事が記されている。……あー、健康診断ってあるんだ。学園での行事を確認し、生徒会に入ったのならやらなきゃいけないことをリストアップしておこうかな。
 庶務って所謂何でも屋。自分で仕事見つけないといけないよな……。とはいえ直前のイベントは健康診断なんだから、これは生徒会の仕事じゃないし……。って言うか本当、庶務って何をやるんだっけ……? 日本にいた頃は生徒会とは縁遠い存在だったし、そもそも前世の記憶ももうあやふやだ。

「……健康診断かぁ……」

 髪のこと言われそうだけど、俺自身の視力って結構良いんだよね。眼鏡は伊達だし。その伊達眼鏡はいっぱいある。気分によってフレームの色を変えるのだ。椅子に座ってプリントをじっと眺める。そう言えば、もう一枚、授業についてのプリントがあったはずだ。
 もう一枚のプリントを取り出して、授業内容を確認。色々あるけど、選択授業があるのが気になる。うーん……。
 選択授業……体育、美術、家庭科、音楽。……この中でどれを選べばマシなのか……。特技も何もないんだよ、俺。って言うか、なんで家庭科まであるんだろう? やっぱり男子も料理や裁縫出来なきゃダメってことなんだろうか。……手が不器用だから却下。あと、体育も剣術だけで結構なのでやめておこう。
 残った候補は美術と音楽。……美術はともかく、音楽って何をやるんだ? 楽器を弾いたり歌ったり……? あ、でも前世で見た合唱部は筋トレやランニングもしていたっけ。……よし、美術にしとこう。才能なんて欠片もないけど。

「剣術と魔法は必須だし……。魔法はともかく、俺が剣術……。ついていけるかなぁ……」

 そこがちょっと不安なんだよな。一通りのことは出来るけど、あまり戦いたくはない。むしろ逃げることに全力を出したい。平和に生きたい。平和に。

「後はまぁ……ほぼ高校と同じだもんな。この部屋にトイレも風呂もあるし……なんて暮らしやすい寮なんだ……」

 流石に公爵家であるユーゴはひとり部屋かな。ルイ先輩は確か去年リアム先輩と一緒の部屋だったハズ――……。曖昧になりつつある漫画を思い出しながら、ゆっくりと息を吐いて目を閉じる。リアム先輩とルイ先輩は恋人だけど、今年は部屋が別になってしまったのか……。何だか申し訳ないような気がする。
 あれ、今のリアム先輩と同室の人って誰だろう……?
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