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「だからね、アーサーと同室になるって聞いた時に驚いたんだよ。先輩らしく出来るかなぁって」

 そう言って花のように微笑むルイ先輩に、俺は「先輩は先輩でしょう?」と答えた。ルイ先輩は目を一瞬瞬かせて、「ふふ」と花が綻ぶように笑った。

「ねぇねぇ、ぼくたちにも挨拶させてくださいよ~!」
「そうそう。ってことで自己紹介。オレは三年のジャック。書記長だ」
「ぼくは二年のエイヴェリー! 書記だよ」

 水色に近いシルバーブロンド、好奇心を隠さない茶色の瞳はキラキラと輝いて俺を見ている。人懐っこそうによろしくね! と笑うのがエイヴェリー先輩で、茶色の髪は肩まで伸びてちょっとうっとうしそうにしているのがジャック先輩。髪結ばないのかな? 鳶色の瞳をすっと細めて俺を見ている。な、なんだろ……?

「で、さっきから気になっていたんだけど、それ前見えるのか?」

 俺の髪型のことを指しているのだろう。俺は明るく「見えますよ!」と答えた。そして、それと同時にぐぅ、と腹の虫が鳴いた。それを聞いて慌てて腹に手を置くと、ルイ先輩がクスクス笑って、

「おれらもお腹空いたし、ご飯にしようか」

 と、言ってくれた。リアム先輩も「そうだな」とうなずき、それぞれ手を合わせて「いただきます」と口にしてから箸を持つ。
 異世界の漫画だけど、日本人が描いたからかこういう作法は日本のままだ。ナイフとフォークもちゃんとあるけどさ。和洋中、様々な料理が並んでいるからちょっとしたビュッフェの気分になる。
 そしてその料理の美味しいこと……! 茶碗蒸しとか煮物とかの和食も、パンもパスタも、酢豚やチンジャオロースもどれも絶品! 食べるのに不自由しないのって本当にありがたいなぁ……。……まぁ、本当……何でも有りな食事になっているような気がするけれど……。

「それともうひとり、生徒会副会長にユーゴを勧誘した」
「……ッ!?」
「彼は来年、生徒会長になるだろう。しっかりと支えてやってくれ」

 にこやかにそう言うリアム先輩に、俺はぽかんと口を開けてしまった……。辺りを見渡してユーゴが居ないか確認したけれど、見当たらなかった。さっきあんな別れ方をしたから、今会ったら絶対気まずい……! と思っていたけれど、リアム先輩が「ユーゴは来ないよ」と肩をすくめた。

「誘ったけど断られた。そのうち生徒会メンバーで歓迎会をするつもり」
「……ユーゴは、その勧誘を受けたんですか?」

 こくりとうなずいたリアム先輩に、俺はゆっくりと息を吐いた。マジか。……そう言えば確かにユーゴとアーサーは生徒会の役員だった。ユーゴが副会長なのも、アーサーが庶務長なのも原作通りだ。ただ、これはもう少し先の話だったような気がする。特に、アーサー……俺が庶務長になるのは今の生徒会が解散してからだったハズだ。
 ……俺が原作にない行動をしていたから、ストーリーが違くなった?
 考え込んだ俺に、ルイ先輩がぽんと俺の肩を叩く。

「大丈夫だよ、きっと仲良くなれるよ」

 ……何か誤解されているような気がする。別にユーゴと仲良くならなくても、俺は困らないんだけど……。むしろ、ユーゴの幸せを考えると俺が傍にいないほうが良いのでは? と思いつつ、からあげを頬張る。公爵家の次男だし、お近付きになりたい人は山のように居るだろう。そのうちに好きな人も出来るだろうし、……深く考えなくても良いよな、多分。

「それに生徒会の仕事のことも、ちゃんとフォローするからさ」

 ぱちんとウインクしたのはチェスター先輩。……まぁ、ユーゴとふたりきりになることはあまりないだろうし……。でも、生徒会ってそんな簡単に入って良いのだろうか……。ちょっと不安になってそのことを口にすると、先輩たちはキョトンとした顔をしていた。

「え、だって代々任命式だよ、この学園。そりゃ色々基準はあるけどさぁ」
「そ、そうなんですか?」
「そう。男爵から公爵まで、様々な爵位の人たちが集まるからね。その中でも公爵家や王族は確実に生徒会入りが決められている。他の人たちはそれなりに向いていそうな人たちを勧誘するって感じ」

 選挙ないんだ……。漫画でどうだったっけ……。覚えてない。ただユーゴとアーサー、リアム先輩とルイ先輩がイチャイチャしているところしか覚えていない……! ただただ萌えのために読んでいた漫画だから、大まかなストーリーを覚えているくらいで、細かい設定なんかは思い出せないんだよなぁ……。

「……あれ、ではどうして兄が生徒会長だったのでしょうか?」

 だってうちは男爵家だ。男爵家の人間が生徒会長になるって、かなり珍しいのでは? と考えていたら、その答えはリアム先輩が眉を下げて小さく息を吐きながら教えてくれた。

「サイラス先輩は魔法の才がとても……素晴らしくてな。全生徒に認められていたよ」

 ……兄よ、一体何をした……?

「兄に魔法の才があるのは俺も知っていますが……。そんなに?」
「魔法の実技で的を全部壊したりしてたよ~」
「えっ」

 いや、それどういう状況で……? って言うか、兄はそんなこと一言も口にしてくれなかった。長期の休みで屋敷に戻った時に、俺に魔法を教えてくれたりはしたけれど……考えてみれば学園のことはあまり話してくれなかったなぁ。

「それにしても、サイラス先輩金髪だったけど……アーサーは茶髪なんだ?」

 ギクッと身体を硬直させると、ジャック先輩が「魔法で染めているように見える」と呟いた。正解です。……あれ、そう言えばジャック先輩とリアム先輩って瞳の色同じなんだなぁとふたりを交互に見ると、ルイ先輩が小さく笑う。

「実はリアムとジャック先輩は従兄弟なんだよ。リアムのほうが数ヶ月年上だけどね」
「え、そうなんですか!?」

 そんな設定あったっけ? 全然覚えてない。……いや、設定も何も関係ないか。確実に原作のストーリーとは違う展開になっているのだから……まぁ、目立たず、のんびりと、ボーイズなラブを傍観しようとひっそり意気込んだ。
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