【本編完結】一夜限りの相手に気に入られています!?

4章 禍を転じて福と為す

禍を転じて福と為す 4-1

「いただきます」

　箸と皿を用意して、陸矢りくやが買ってきた総菜を食べ始める。……そう言えば、自分で作ってばかりで、総菜を食べるのって久しぶりの気がする。ひとり暮らしのときは結構お世話になっていたな。デパ地下ではなくスーパーの総菜だったけど。

「あ、これ美味しい」
「流羽るうさんが好きそうだなぁと思って、買ってきました」

　にこにこと上機嫌で話す陸矢に、思わずドキッとした。こんなに楽しそうな陸矢の様子を、久しぶりに見た気がしたから。

「……ところで、なんでそんなに機嫌が良さそうなんだ？」
「それは……食べ終えてから話しますね」

　こくり、とうなずいて黙々と食事を続けた。大量に買ってきたので、それなりの量が余ったが、明日また、美味しくいただくことにしよう。

　冷蔵庫に総菜をしまってから、食後のお茶を用意する。今日はほうじ茶だ。陸矢に湯呑を渡すと、彼は「ありがとうございます」と受け取り、俺が座るのを確認してから、話を始めた。

「……二週間くらい前、襲われたことを、覚えていますよね？」
「あ、ああ……」

　忘れたくても、まだ忘れられない記憶。

「流羽さんを襲った奴ら全員、これから路頭に迷うことになるでしょう」
「……は？」

　意味がうまく飲み込めなくて、変な声が出てしまった。山村やまむらたちが路頭に迷うにことになるって、どういうことだ……？

「それは、どういう……？」
「まぁ、驚きますよね。あいつら、全員会社クビになりました。もしも今後流羽さんに接触したら……これより酷いことになりますよって脅おど……いえ、忠告したので、もうひとりで外に出ても大丈夫です！」

　晴れやかにそう言われたが、まったく理解できなかった。この二週間で一体なにをどうやってそんな結果になったんだ!?

「えっと、待って。会社クビになって、俺と接触禁止にしてって……陸矢がわざわざ？」
「もちろんです。流羽さんをあんな目に遭わせるなんて……！」

　――もしかして、俺よりも怒っていたのか？　だから、陸矢が制裁を加えた？　……俺のために、わざわざ？　混乱してなかなか思考がまとまらない。彼の前に手のひらを出し、「ちょっと待って」と話をとめた。

「……えっと、そんなに怒ってくれてありがとう……？」
「疑問系が気になるところですが、どういたしまして」
「でもさ、そんなことして大丈夫なのか……？」

　逆恨みで陸矢を襲うんじゃ……？　と不安になり、彼にそう言うと、陸矢はにこりと微笑み、小さくうなずいた。

「大丈夫ですよ。会社も切りたがっていた人たちですから」