85 / 100
4章 禍を転じて福と為す
禍を転じて福と為す 3-1
しおりを挟む次々と家事をこなしていく。窓ガラスやサッシをピカピカに磨いた。綺麗になっていくのを見ると、達成感を得られる。そしてなにより、なにも考えないで済む。
ただ、綺麗な場所が増えるにつれて掃除をする場所がなくなっていく。さすがに陸矢の私物を整理するわけにはいかないから、ある程度のところで手が止まってしまうのだ。
そして、手が止まると昨日のことを思い出してしまい躰が震えだした。
――怖い、と思った。五人に取り囲まれ、躰が竦んだ。弱さを出さないように、必死だった。なんでもないこと、と自分を騙していたつもりだったが、やはりそう簡単には脳裏から消えそうにない。
助けてくれた陸矢には、本当に感謝をしている。だが、迷惑を掛けてしまった。俺ではなく、彼が殴られるとは思いもしなかった。もう少し、山村も冷静だと思っていたのだ。
クラスのリーダー格で、いつも指示を出す側のヤツだったから。そんなヤツのプライドを、陸矢は自身の持つ情報で粉砕したのだろう。山村と一緒にいた同級生たちは、彼の取り巻きのようなヤツらだったし、そいつらの前で五股掛けられていたことを話されて、怒りに身を任せてしまったのかもしれない。
……しかし、五股かぁ……。俺も浮気された側だから、ヤケになる気持ちはわかるが、同情はしない。そして恐らく、山村の取り巻きたちはそれを拡散するだろうと思った。そうなると、同窓会や仲間で集まるときにいじられる側になるだろう、とも考えた。
俺のことも話されるかもしれないが……、陸矢の言うように、人が人を好きになるのに問題はない、よな……?
……躰の震えは止まっていた。ホッとして、動き出す。少し、休憩しようかなとリビングのソファに座り、背もたれに身を預けた。
「……陸矢の迷惑に、ならないようにしないとな……」
彼との生活は本当に楽しかった。一夜限りの相手だったというのに、俺のことを信用して家に置いてくれたことも、仕事を与えてくれたことも感謝しかない。……だからこそ、これ以上の迷惑を掛けるわけにはいかない、よな。
陸矢との楽しい記憶を抱いたまま、この生活から離れたほうがいいのかもしれない。
「……ぁ……」
ぽろり、とまた涙が流れた。昨日、枯れるまで泣いたと思ったのに。慌てて涙を拭う。勝手に想像して、勝手に悲しくなるのはダメだ。
陸矢が家から帰って来たら、話をしよう。
パン、と気合を入れるように両手で頬を叩く。乾いた音が響き、俺は「休憩終わり!」と立ち上がり、今度は風呂掃除をするために浴室に向かった。
15
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
彼氏持ち大学生がストーカー犯に遭遇して人生終わる話
むぎ
BL
ストーカー被害にあってるけどまあいっか〜心配させたくないから彼氏にも黙っとこ〜とナメかかってた少年がストーカー犯に押しかけられてぶち犯されて果てには誘拐される話です。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
デコボコな僕ら
天渡清華
BL
スター文具入社2年目の宮本樹は、小柄・顔に自信がない・交際経験なしでコンプレックスだらけ。高身長・イケメン・実家がセレブ(?)でその上優しい同期の大沼清文に内定式で一目惚れしたが、コンプレックスゆえに仲のいい同期以上になれずにいた。
そんな2人がグズグズしながらもくっつくまでのお話です。
コンサル上手なΩの伴侶が有能過ぎて尻に敷かれそうです
天汐香弓
BL
βだと思っていた優は検査でΩだと告げられてしまう。病院の帰り道助けてくれた男と触れた瞬間雷に打たれたような衝撃が走り逃げ出すが、数日後、鷹臣財閥の子息が優を迎えにやってくる。運命の番である優を手にいれた鷹臣は優をふさわしい立場にするため手を焼く。ただαに依存するだけではない優は鷹臣の気遣いを逆手に社交界だけでなく……
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。
水瀬かずか
BL
ルカは、革命軍を支援していた父親が軍に捕まったせいで、軍から逃亡・潜伏中だった。
どうやって潜伏するかって? 女装である。
そしたら女装が美人過ぎて、イケオジの大佐にめちゃくちゃ口説かれるはめになった。
これってさぁ……、女装がバレたら、ヤバくない……?
ムーンライトノベルズさまにて公開中の物の加筆修正版(ただし性行為抜き)です。
表紙にR18表記がされていますが、作品はR15です。
illustration 吉杜玖美さま
前世持ちは忙しい
ふゆの桜
BL
前世からの約束通り田舎でのんびり暮らし始めた僕(セイン)とマシュー。このままずっと穏やかな日々が続く……んじゃなかったの? のんびりイチャイチャできたのは最初の1年のみで、それ以降は何か雲行きが怪しい。
「伝えたかった言葉を君へ」に続くセインシリーズ2作目で、こちらが本編となります。全3章+最終章(3話)。前作を読んでなくても問題無いように1話目に補足を付けますが、前作を読んだ方が設定等わかりやすいと思われます。
他サイト投稿済の作品を、微妙に修正して投稿する予定です。こちらは18禁作品となります。
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる