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4章 禍を転じて福と為す
禍を転じて福と為す 2-1
しおりを挟む――諦めることが得意だった。一度ねじれた人間関係から、逃げるように遠い場所へ進学をし、新たな関係を築き上げた。
自分の恋愛対象が男性だと気付いたときも、すぐに受け止められた。女性に一度も恋情を抱かなかったのは、そういうことだったのか、と。みんなが話す『初恋の人』の話題についていけなかったことを思い出して、肩をすくめた。
「流羽さん?」
「あ、ええと……。ちょっと、小学生くらいのときを思い出して」
「今の会話の流れで?」
脈略ないよなぁ……。俺は小さく笑みを浮かべて、陸矢の肩に手を置き、ぽんぽんと叩いた。
「陸矢みたいな存在があの頃いてくれたら、どんな感じだったのかなって思っただけ」
自分を助けてくれる救世主のような人。もしも、あの時代にそんな存在がいてくれたら、今のように諦めることが得意な俺はいなかったかもしれない。
「流羽さん……」
「あ、ごめん。深い意味はない。ただ、そう思っただけ。……えっと、今から朝食作るから、もう少し休んでて」
「……はい」
返事はしたけれど、陸矢はリビングのソファに座って俺の様子を窺っているようだった。俺は冷蔵庫の中身を確認して、簡単に朝食を作った。食パン冷凍しておいてよかった。
チーズトーストとオムレツ、サラダにコンソメスープにしよう。コンソメスープの具材は……ウインナーと白菜で良いかな。朝食のメニューが決まり、早速作り始める。
ああ、いい匂い。料理が出来上がっていくのを見て、なんとなく心が落ち着いていく気がした。まぁ、それも恐らく一時的なものだけど。
「……お腹空いてきました」
「もう出来るから、皿を並べてもらってもいいか?」
「もちろんです」
陸矢に手伝ってもらいながら皿をテーブルに並べて、一緒に食べた。いつも通りの自分の味で、安心した。動揺して料理の味が変わるかと思ったけど、長年作っていたからか、躰が覚えていたのだろう。
「流羽さんのご飯はいつも美味しいですね」
「そりゃどうも」
コンソメスープを飲みながら、陸矢は和んだように目尻を下げる。告げられた言葉にそっけない返事をしてしまったが、陸矢はきにしていないみたいだった。
「……腕は、大丈夫ですか?」
「ああ、うん。ちょっと痛いような気はするけど、我慢できるくらいだし……」
「我慢なんて、しなくて良いのですよ。流羽さん、ずっと耐えてきたのでしょう?」
ぽかん、と口を空けてしまった。
「耐えてきた?」
諦めることなら、してきたけれど……耐えてきたつもりはなかった。
むしろ、いろいろなことを諦めてきたから、堪え性のない性格だと思っていた俺に、耐えてきた……?
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