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3章 偶然の再会
偶然の再会 19-2
しおりを挟む俺の姿を見て、陸矢は少し驚いたようだった。もう寝ていると思っていたのだろう。
「おかえり、陸矢」
「ただいま帰りました。……寝ていても良かったんですよ?」
「いや……それはちょっと」
電気が点いていて明るいとはいえ、『ただいま』の返事がないのは寂しいだろう――なんて思って、待っていたのだが、迷惑だったかな。
「陸矢に『おかえり』が言いたくて。お疲れ様」
「……ありがとうございます」
ふわっと微笑む陸矢を見て、嬉しそうに見えたのでちょっとホッとした。
「こんなに遅くなるつもりはなかったんですけどね」
「……ん? 酒飲んできたのか?」
「正確に言えば飲まないとやっていけなかったというか……。接待でキャバクラ選ぶ人だったので、酒で酔い潰してきました」
――ああ、だから香水の匂いがしたのか。
「って、酔い潰してきた!?」
「今頃、家に帰れてンでしょうかねぇ?」
愉快そうにくつくつ笑う姿に、俺は軽く肩をすくめた。
「陸矢、結構飲んできただろ。風呂は朝にしたほうが良さそうだな」
「あー、そうかも……なんか、すごく、眠いです……」
俺が背を向けると、ぴったりと陸矢がくっついてきた。……そのまま歩くとついてきたので、洗面所まで向かい、歯ブラシを濡らして歯磨き粉をつけ、陸矢に持たせた。陸矢は黙って受け取り、シャコシャコと歯磨きをした。ここではうがいがしづらいだろうと、俺がそろりと離れようとすると、横に立った陸矢ががっしりと俺の腰を掴んでいた。離れて欲しくないってことだろうか?
そう考えると、ちょっと可愛い。
ゆっくりとした動きで歯磨きをして、口をゆすぐ。ぺっと吐き出すのを繰り返して、少し目が覚めたのか俺の腰から手を離して、顔を洗った。
「ちょっとさっぱりしました」
「それは良かった。今日はもう休んどけ」
「そうします。……でも、あの、流羽さん。ひとつ、お願いしてもいいですか……?」
「……俺にできることなら」
なにをお願いするつもりなのか、ごくりと固唾を呑む。陸矢は酒に酔っているのか、ふわふわと上機嫌な様子でこう言った。
「添い寝、してくれませんか?」
「……そ、いね?」
「はい。添い寝。なんだか、流羽さんのこと抱きしめたまま眠りたいなぁって」
にこにことそう言う陸矢。……酔っているとはいえ、珍しいことを言うなぁと思ったのと同時に、俺は視線をあちこちに巡らせて、小さくうなずいた。
「……わ、わかった。じゃあ、陸矢は先にベッドに横になっていてくれ。俺はまだ、やることがあるから」
まだ片付けていないものがあるから、それを片付けたいし、歯磨きをしたい。洗顔は風呂に入ったときにやった。
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