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3章 偶然の再会

偶然の再会 3-1

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 まぁ、この辺でひとり暮らしするなら、買って食べたほうが安いんだろうけど……。俺の場合、趣味でもあるから作っていたけど。

「あとは……ほうれん草とたまごのスープにでもしようかな」
「それも美味しそうですね」

 ほのぼのと話す陸矢りくやに、俺は小さく肩をすくめた。スープは味を変えればいろいろなものになる。鶏がらとごま油で中華風、コンソメで洋風、味噌を溶けば味噌汁……和食だ。今回は鶏がらスープを使って作ろう。あと少し残っているし、便利な調味料はガンガン使うべき。

 自分で出汁を取っても良いのだけど、あれ結構時間が掛かるからガス代が気になるんだよな……居候の身としては。

 今は便利なものがたくさん売られているのだし、使わない手はない。

「楽しみだなぁ」

 ……陸矢のその声が、幼かった頃の弟たちと重なって、思わず笑ってしまった。

流羽るうさん?」
「いや……なんか、料理を楽しみにしてくれているんだな、と思うと、嬉しくて」
「そりゃ楽しみですよ。流羽さんのご飯、美味しいから」

 本当、作り甲斐があることを言ってくれる。買い物を終えて歩いて陸矢の家に帰る。その間には、今日のことを陸矢が話してくれた。イラストレーターとして依頼が結構入ってきていることや、今日行く予定だった会社のことなどを、陸矢は話せる範囲で教えてくれた。

「がんばってるなぁ」
「そりゃあがんばりますよ。軌道に乗ってきてますからね」

 陸矢の人生はきっと輝いているのだろうなぁとぼんやり考えた。そんなところに、俺が存在して良いものなのか。本当、さっさと仕事を見つけて陸矢に恩返しをしたいところだ。

 こうして生きていけるのは、彼のおかげだから。住んでいた場所は火事になり、職も失ったあとに、こんなに落ち着いた暮らしが出来るなんて、想像もしていなかった。

 陸矢には本当、感謝してもしきれない。ちなみに住んでいた場所は燃え広がり方が凄まじかったらしく、取り壊し予定らしい。大家さんから連絡があったときに聞いた。

 大家さんも災難だったよな……。しみじみとそんなことを考えていると、陸矢の家についた。

 陸矢が鍵と扉を開けてくれたので、先に中へ入った。買ったものたちを冷蔵庫にしまい、エコバッグを畳んでから元の場所に戻して、手洗い、うがいをすませる。

 時間を見るとまだまだ夕食の時間には早い。……でも、刺身を漬け込むのにはちょうどいい時間だ。二十分くらいでも充分なんだけど、どうせならしっかりとしみ込ませたい。
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