【本編完結】一夜限りの相手に気に入られています!?

2章 不幸は幸運とともに

不幸は幸運とともに 4-1

　合鍵はすでに渡されていた。この家が完成した時に念のためにスペアキーを作っていたらしい。

　財布とスマホ、それからエコバッグというかなり少量の荷物を小さめのカバンに入れて出掛ける。

　――今日は酒飲むかな？　一応、ビールでも買っていくか。

　近くのスーパーに寄ってなにを作ろうか考える。陸矢りくやは好き嫌いがないらしく、なんでも美味しく食べてくれるから、作り甲斐があるってもんだ。

　……そういえば、俺が料理の勉強をしたいと思ったのも、人が食べている姿を見て、だ。

　うまそうに食べる姿は男女問わず魅力的だと思う。

　俺の家は両親が共働き、俺の下に少し年の離れた弟と妹（双子）がいて、両親が家にいない時は俺があいつらの世話をしていた。

　お兄ちゃん、お腹空いた～！　と俺の服を引っ張る弟と妹の姿を思い出して、懐かしくなった。

　弟と妹はどちらかと言えばたれ目だから、俺のように目つきの悪さで絡まれることはないだろう。

　……両親は俺が軽度のいじめに遭っていたことに気が付いているのか、いないのかよくわからなかった。俺、なにも言わなかったし。ただ、高校は別のところ行きたいっていうのを、「お前の人生なんだから好きにしなさい。学費は心配するな」と背中を押してくれた。

　おかげでいじめていた相手たちとは別の高校に進学出来たし、そこではかなり平穏に過ごせていた。

　両親たちは俺の高校入学と同時に高校の近くに引っ越した。
　弟と妹は私立の小学校に通っていたからそこにも近くなるように、という配慮はいりょのようだ。

　――こう考えると結構バレてたような気がする。特に父親。

　母親はまあ、おっとりしている天然っぽい人だから、気付いてない……のかもしれない。

　……なんか、家族のことを思い出したら急に彼らに好評だったものを作りたくなった。

　よし、今日の夕飯はそれに決まりだ。

　――ところで、肉じゃがって陸矢の家では牛肉だったんだろうか、豚肉だったんだろうか……。うちでは豚肉だったんだけど……。

　……まあ、今日は俺ン家ちの味ってことで。

　作るものが決まればあとは早い。

　今日は豚バラにしよう。あと、じゃがいも。荷崩れしないメークインって手もあるけど、男爵イモのほうが好きだからそっちで。イモが崩れた部分、汁を吸って美味いんだよなぁ。

　彩いろどりににんじんと絹さや、あ、玉ねぎとしらたきも。

　調味料はこの前買い込んだものがあるから大丈夫。

　メインが肉じゃがなら、付け合わせはなににしようか？

　ピーマンとシーチキンで無限ピーマン？　それとも、きゅうりの醤油漬け？　どっちもビールに合う。

　――やばい、なんか楽しい。

　陸矢の喰いっぷりの良さも関係しているよな、これ。

　誰かのために料理を作るっていうの、やっぱり好きなんだよなぁ、俺……。