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7話:それでもあなたが好き。
しおりを挟む「……男爵家が没落して、フィンが居なくなって……。僕の世界は一気に色褪せた。フィンは勘違いだと口にしていたけど、この感情は確かに『恋情』だ。あなたが決めることじゃない」
「……それは、はい。ごめんなさい」
薄々感じ取ってはいたんだろう、素直に謝るフィンに、僕はちょっと拍子抜けした。意地でも認めないと思っていたから。
「ええと、なんて言えば良いんだろう。レオン殿下は、優しく接していた俺が好きだと思っていたから……それに、五歳や十歳の子にプロポーズされても、正直ままごととしか思えなくて……」
しどろもどろになりながらも、フィンが自分の感情を吐露してくれた。
「殿下は、その、王族だし……。俺が王城に行って殿下の話し相手をしていたのはバイトだったからで……ええと、……うん、そのうち好きな人が出来て俺のことなんか忘れるって思っていたんです。本気で好きになった人に、俺の存在がバレるのはイヤだった」
貴族の家だと色々あるからね、フィンがそう思う理由もわかる。……わかる、けれど……。ここまで通じていなかったとは。ままごと、ままごとね……。想像の中では何度もフィンを組み敷いていたと言ったら、どんな反応を示すんだろう。なんだったら十三歳の頃に夢見たフィンの艶やかな姿で精通したとも教えてあげようか。
「さっきの女の人も言っていたでしょう。殿下の寵愛を受けるのに、俺は相応しくありません」
「言わせておけばいいよ。……と言うか、そう。全然伝わってなかったの……」
思わずがくりと肩を落とす。……子どもの頃、フィンに対して自分が出来るだけの愛情表現をしてきたつもりなのに……。子どもの戯れと思われていたこともショックだったけど……何よりも、フィンが僕の気持ちを決めつけてしまっていたのが悲しい。
「俺と殿下では、身分がかなり違いますから……!」
その後に続くのは多分この場から逃げ出すための言葉。僕はむにーっとフィンの頬を引っ張った。頬を引っ張られたフィンは僕と視線を合わせて怪訝そうな表情を浮かべた。伝わってなかったのなら、伝えなきゃ。
「――どうすれば、僕の気持ちを信じてくれるの?」
フィンと結婚するために色々やって来た。力をつけた。味方を増やした。――こんなに近くに居るのに、フィンが遠い。フィンは何を思ったのか、頬を引っ張っている僕の手に自分の手を重ねた。
そして、僕の手を頬から外すと、小さく息を吐く。
「地味に痛かったんですけど……」
「……もうちょっと伸ばしていたかった……」
「……あの、殿下。殿下は『結婚してください』とプロポーズはしましたが、俺に対して好きだとは一度も言っていないことにお気付きでしょうか……?」
「………………。言ってなかったっけ……?」
子どもの頃を思い返してみる。『けっこんして!』とは会うたびに言っていた気がする。それが一番、一緒に居られる方法だと思っていたから。……頬や額にキスをして、キスを返されたこともある。……抱き着いたこともある。唇を奪わなかったのは、唇と唇をくっつけるのは、ダメってフィンに言われていたからだ。
「……僕がフィンに好きって言っていたら、本気にしてくれた?」
「……いいえ、やっぱり子どもだからすぐに忘れると思うでしょうね……」
「……つまり、僕はフィンを信じさせれば良いんですよね。僕がフィンのことを好きで、結婚したいと」
「え!? いや、そう言うわけでは……。俺を追いかけるんじゃなく、別の人に目を向けられたら良いのでは、と――っ!」
ぐっとフィンの手首を強く握る。フィンが僕の目を驚いていた。僕も驚いた。僕の中でめらめらと何かが燃えている。悲しいって思っているのか、悔しいって思っているのか、自分でもわからないくらいに、何かが僕の中を燃やしていく。
「――僕が欲しいのは、フィンだけだ。あなたが好きだから、結婚したい」
「……少し、時間をくれませんか。正直、頭が混乱していて考えられないんです」
「……それじゃあ、フィン。あなたは僕の従僕をやって?」
「へ? 従僕、ですか?」
「そう。僕のことを知って欲しいから。……それに、僕の近くに居たほうが安全だろうし……」
従僕の仕事を通じて、僕のことを知ってもらう。僕の近くに居るなら、フィンも安全だし……。このところ不穏な動きをしている隣国。僕がこのアルムシェに来たのはフィンが居たからだけど、他にも理由がある。
「安全……?」
「僕の傍にはクラウスとディルクが居るからね。彼らのことは信頼しているんだ」
「殿下の護衛、ですよね」
「そう。どちらも僕の臣下。結構長い付き合いだよ」
クラウスとディルクは十年くらいの付き合いがある。ちなみにフィンを見つけたのはクラウスの部下。元々情報屋の家系だったらしいクラウスの家族って。その情報収集力を発揮して欲しいと父上が頼んだらしい。寝込んでいた一週間の間に。
ディルクは元々平民で、アカデミーの卒業生。その実力は高く、僕に剣術を教えてくれた剣術の師匠でもある。僕の護衛になる時は驚いたらしいが、本人曰く「平民が王族の護衛ってかなりの出世なんじゃ?」とのことだ。
「――と言うわけで、よろしくね」
「はぁ……」
フィンが首を傾げた。それと同時にトントントンと扉をノックする音が聞こえた。
入室を許可すると、クラウスとディルクが立っていた。どうやら終わったみたいだ。
「失礼いたします、レオン殿下。先程の女性たちは丁重にお帰り頂きました」
「こっちも何人かピックアップしてみました。書類持ってきましたが、今見ますか、後にしますか」
「今見るよ。それと、改めて紹介するね。彼がフィン。――僕の想い人だ」
ふたりは丁寧に、フィンに向かって頭を下げた。
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