上 下
216 / 222
web拍手再録(本編設定)

拍手お礼SS フェリクス陛下は民を愛している(2020/12/31)

しおりを挟む

「――陛下、式典のアレはどういうおつもりですか」
「盛り上がって良かったじゃない?」

 へらりと笑って軽く手を振るフェリクス。若干六歳にしてこのアルスター王国の王である。彼は玉座に座りながら隣に立つ護衛のユーグを見る。ユーグの目の色は呆れが含んでいて重々しくため息を吐いた。

「祝福の名も、本来ならば違う日に教会で授けるのが……」
「式典でまとめてやっちゃったほうが予算が他のに回せるでしょ。この国、割と問題だらけなんだから……。それに……」
「それに?」
「――人の命は短いものだよ、ユーグ」

 子ども特有の高い声。だが、その言葉の重さを感じ取ってユーグは息を飲む。昨年、この国の王になった少年は臣下たちが舌を巻くほどの手腕でこの国を支えている。理由はわかっている。――記憶継承。それは、この国の王になった者の記憶が全て受け継がれると言うこと。

(……その記憶の重さに耐えられず、自らの命を絶つ者も多かったと伝えられているが……。この少年は、逆だ。王であることを、自ら受け入れた)

 ユーグを見つめたまま、フェリクスはふふっと笑った。頬杖をついて、目を伏せると彼は言葉を続ける。

「僕の命だって何年で消えるかわからない。ま、この国は世襲制じゃないし、僕が死んだらまた別の誰かがこの記憶を受け継いで『王』になる。今、僕が死んだら一番危ないのは精霊の祝福を持つヒビキさんだ。……そう言う意味でも、あの式典には意味があった」

 ヒビキとアデルのことを思い出して、フェリクスは緩やかに息を吐く。式典で見せた彼らの実力。精霊が姿を現したのは彼が精霊に愛されているからだ。そして、恐らく唯一であるアデルの魔物使いのスキル。アデルが従える魔物は理性が残っている。だからこそ、精霊と協力が出来たのだ。

「彼らは協力することが出来る。助け合うことが出来る。だが――彼の性格なら、王になったらその重圧に押し潰されるだろう」
「あなたは、違うと?」
「気付かない? ユーグ。ヒビキさんが気を遣う相手って、大体ルード関係の人のみなんだよ。それは、彼の中心にルードが居るからだ。それだけはブレていないようだし……式典のアレだって、彼、なんて言って提案してきたと思う?」

 その時のことを思い出して、フェリクスは肩をすくめた。

『フェンリルも精霊です。人が、精霊のことを恐れたり傷つけたりしなければ、精霊は人のことを愛してくれるって伝えたいんです。――だって、だってそうすれば……ルードがフェンリルの契約者でも、それはフェンリルがルードのことを好きだからで……えっと、とにかく、ルードのことを誤解しなくなるんじゃないかと思って!』

 どれだけ深く、ルードのことを愛しているのかと内心呆れるほどだった。だが、彼がその気になれば人なんてあっという間に精霊に見限られるとも悟った。それだけ強大なスキルなのだ、精霊の祝福は。
 だからこそ、使える、とも思った。最近、精霊のことを蔑ろにしている民の姿を多く見た。自分が生きているのが、魔法を使えるのが当たり前だと思っている人たち。特に貴族たちだ。その傾向が強いのは。

「――何と言うか、変わっていますよね」
「ルードを想う気持ちの強さはかなりだけどね。彼の原動力、ルードじゃない?」
「……否定はしませんが……。いや、変わっていると言えば陛下も変わってますけどね」

 そう言って、ユーグがフェリクスの前に移動して視線を合わせるように跪いた。フェリクスは「そうだろうねぇ」とくすくすと笑う。記憶継承のスキルを持っていると言っても、彼はまだ六歳だ。

「もう少し、子どものままでも良いのですよ、陛下」
「あははっ。そうだね、きみの前くらいなら子どものままで良いのかもしれないけど――それは、民のためにならないだろう?」

 ゆっくりとユーグへと視線を向けて不敵に笑うフェリクス。子どもらしからぬその笑みに、ユーグは彼の中の決意を見出し、その手を取って手の甲に唇を落とした。

「騎士の誓いは去年もらったけど?」
「改めて、誓います。あなたを護り抜くことを、我が命に代えて」
「……毎度思うんだけどさぁ……その命に代えてって逆じゃない?」

 すっとフェリクスはユーグの手から自分の手を引きぬいて、玉座から立ち上がる。スタスタと歩いてそのままばっと両腕を広げた。

「僕はこの国の王だ。民が幸せに暮らす手伝いをすることしか出来ないけれど、王は王だ。僕は僕の命に代えて民を守る。――この国の民である、ユーグ、きみもだよ。僕のことを思うのなら、自分の身も守ってよね。そもそも僕はワガママなお子さまだし、ね!」

 フェリクスはそう言葉を切ると、ユーグへ振り返る。民を守るのが、王の務め。その王を守るのが、彼の務め。フェリクスはそのことをよく知っている。そして――王のために命を落とす者たちのことも。フェリクスはすべてを知り、受け入れ、ここに立っている。最年少の王として――……。

「そう、お子さまだから……、もう眠いや」

 ふわぁとひとつ欠伸をすると、ユーグがフェリクスの近くに行き背を向ける。どうやら今日はおんぶしてくれるらしい。

(――後悔しない道を、歩んで欲しいんだ。僕が愛すると決めた、この国の民たちに――……)

 去年よりも少し重くなった身体を、揺らさないように気をつけながらユーグはフェリクスを寝室まで運んだ。その小さな身体に背負い込んだものの重さを、少しでも軽く出来れば……と、そんなことを、考えながら。
 ベッドに横にさせて、布団を掛ける。ぽんぽんと優しくフェリクスの頭を撫でて、ユーグは小さく頭を下げてから寝室から出て行った。
 この小さな王が、せめて夢の中ではゆっくりと休めることを願いながら――……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

教室ごと転移したのに陽キャ様がやる気ないのですが。

かーにゅ
BL
公開日増やしてからちょっと減らしました(・∀・)ノ ネタがなくて不定期更新中です…… 陽キャと陰キャ。そのくくりはうちの学校では少し違う。 陰キャと呼ばれるのはいわゆるオタク。陽キャはそれ以外。 うちのオタクたちは一つに特化していながら他の世界にも精通する何気に万能なオタクであった。 もちろん、異世界転生、異世界転移なんてものは常識。そこにBL、百合要素の入ったものも常識の範疇。 グロものは…まあ人によるけど読めなくもない。アニメ系もたまにクソアニメと言うことはあっても全般的に見る。唯一視聴者の少ないアニメが女児アニメだ。あれはハマるとやばい。戻れなくなる。現在、このクラスで戻れなくなったものは2人。1人は女子で妹がいるためにあやしまれないがもう1人のほうは…察してくれ。 そんな中僕の特化する分野はBL!!だが、ショタ攻め専門だ!!なぜかって?そんなの僕が小さいからに決まっているじゃないか…おかげで誘ってもネコ役しかさせてくれないし…本番したことない。犯罪臭がするって…僕…15歳の健全な男子高校生なのですが。 毎週月曜・水曜・金曜・更新です。これだけパソコンで打ってるのでいつもと表現違うかもです。ショタなことには変わりありません。しばらくしたらスマホから打つようになると思います。文才なし。主人公(ショタ)は受けです。ショタ攻め好き?私は受けのが好きなので受け固定で。時々主人公が女に向かいますがご心配なさらず。

婚約破棄をしたいので悪役令息になります

久乃り
BL
ほげほげと明るいところに出てきたら、なんと前世の記憶を持ったまま生まれ変わっていた。超絶美人のママのおっぱいを飲めるなんて幸せでしかありません。なんて思っていたら、なんとママは男! なんとこの世界、男女比が恐ろしく歪、圧倒的女性不足だった。貴族は魔道具を使って男同士で結婚して子を成すのが当たり前と聞かされて絶望。更に入学前のママ友会で友だちを作ろうとしたら何故だか年上の男の婚約者が出来ました。 そしてなんと、中等部に上がるとここが乙女ゲームの世界だと知ってしまう。それならこの歪な男女比も納得。主人公ちゃんに攻略されて?婚約破棄されてみせる!と頑張るセレスティンは主人公ちゃんより美人なのであった。 注意:作者的にR15と思う箇所には※をつけています。

もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~

ゆるり
ファンタジー
☆第17回ファンタジー小説大賞で【癒し系ほっこり賞】を受賞しました!☆ ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様にて先行公開しております。

大好きな乙女ゲームの世界に転生したぞ!……ってあれ?俺、モブキャラなのに随分シナリオに絡んでませんか!?

あるのーる
BL
普通のサラリーマンである俺、宮内嘉音はある日事件に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 しかし次に目を開けた時、広がっていたのは中世ファンタジー風の風景だった。前世とは似ても似つかない風貌の10歳の侯爵令息、カノン・アルベントとして生活していく中、俺はあることに気が付いてしまう。どうやら俺は「きっと未来は素晴らしく煌めく」、通称「きみすき」という好きだった乙女ゲームの世界に転生しているようだった。 ……となれば、俺のやりたいことはただ一つ。シナリオの途中で死んでしまう運命である俺の推しキャラ(モブ)をなんとしてでも生存させたい。 学園に入学するため勉強をしたり、熱心に魔法の訓練をしたり。我が家に降りかかる災いを避けたり辺境伯令息と婚約したり、と慌ただしく日々を過ごした俺は、15になりようやくゲームの舞台である王立学園に入学することができた。 ……って、俺の推しモブがいないんだが? それに、なんでか主人公と一緒にイベントに巻き込まれてるんだが!? 由緒正しきモブである俺の運命、どうなっちゃうんだ!? ・・・・・ 乙女ゲームに転生した男が攻略対象及びその周辺とわちゃわちゃしながら学園生活を送る話です。主人公が攻めで、学園卒業まではキスまでです。 始めに死ネタ、ちょくちょく虐待などの描写は入るものの相手が出てきた後は基本ゆるい愛され系みたいな感じになるはずです。

【完結】幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!

As-me.com
恋愛
完結しました。 私には可愛い年下の幼なじみの男の子がいる。 その昔はプロポーズなんかもされたりしたが子供の頃の話だと忘れることにした。 あれから7年。6歳も年下のまだまだ子供だと思っていた幼なじみは格好よく育ってしまって、なんだか翻弄されてます!? ※このお話は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 (完結済み)』番外編の未来のお話です。(スピンオフ的な) この話だけでも読めますが、細かい裏設定が知りたい方はそちらも是非どうぞ!

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...