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web拍手再録(現代シリーズ)
拍手お礼SS 夏祭り編(2020/08/06~2020/08/31)
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~もしも迷い込んだのがヒビキではなくルードだったら~
異世界→日本
高校が夏休みに入り少しの時間が経った。ルードはたまに仕事をしているようだった。姉は休みになっても忙しそうに出掛けている。どうやら彼氏さんとデートを楽しんでいるようだ。――デートを楽しんでいると思ったんだけどなぁ……?
「やっとお金が貯まったのよ!」
「え、いきなりどうしたの……」
「なにか欲しいものがあったのか?」
「ええ、是非ともルードと響希に着て欲しいものがね!」
そう言って姉はスマホを操作してあるページを見せる。浴衣のようだ。
「浴衣?」
「そう! 日本の夏と言えば浴衣でしょ!?」
……十五年、日本で生きているけど浴衣を着た覚えがないぞ、おれ。ルードが「そうなのか?」と首を傾げている。
「夏祭りも来るしね!」
「姉ちゃん、今度はどんなゲームしたのさ……」
「和服でいちゃつくやつ!」
めっちゃ力説してくるぞ、この姉……。苦笑を浮かべるおれに、ルードがおれと姉を交互に見て麦茶を飲んだ。おれも麦茶を飲む。きりっと冷たい麦茶が喉を通り体に染み込んでいく感覚。夏の麦茶ってどうしてこんなに美味しいんだろう。
「浴衣を買いたいってこと?」
「そうよ。着付けは私が頑張って覚えるから! 着て!」
「……なんでそこまでして着せたいの?」
「だって、響希……浴衣着たことないでしょ?」
ぱちくり。え、もしかしておれのためだったの!? と姉を凝視すると、姉は優しく笑っておれの肩に手を置いた。
「ルードも着たことないし、ふたり揃って『はじめて』って言うのも良くない?」
「……」
ちょっと感動したおれの心を返してくれませんかね、姉よ。
結局姉に押し切られて浴衣を着ることになった。紺色の浴衣だ。
「うんうん、似合ってるわよ」
「そりゃどうも……」
浴衣なんて着たことないから、なんか変な感じ。姉も浴衣に着替えてデートするらしい。ちなみにルードは既に着替えていて、おれが出てくるのをリビングで待っているらしい。おれもまだ見ていないから、ちょっと楽しみだ。
「お小遣い足そうか?」
「んー、別に良いよ。足りると思う」
「そ? 今日は料理しないから、適当に買って食べなさいよ」
「りょーかい」
姉はそう言っておれをリビングへと向かわせる。ソファに座っていたルードが、おれに気付いて顔を上げた。ぱちっと視線が合って暫くそのまま動かずにいた。……え、待って。ルードの浴衣姿はやばいだろう。
髪型も姉が弄ったのだろうか。アップにしてうなじが見えている。待って、格好いい。モデルだ、モデルがここに居る……! って、モデルやっていたな!
「なによ、見つめあっちゃって~。さて、そろそろ行くわよ。あ、でもその前にここで写真撮ろ!」
姉も浴衣に着替えていた。かわいらしい薄ピンクの浴衣。おれを真ん中にしてスマホのカメラを向ける。パシャっという音が聞こえて、写真が撮れた。
「後で送ってくれ」
「はーい。じゃあ、行こうか」
海に遊びに行った後日、ルードがスマホを欲しいと言ってきたので、姉がさっくり契約して渡していた。とはいえ、お金はルードが渡すらしい。三人のグループを作って、色々とやりとりしている。
家を出て、祭りの場所へと向かう。夏祭り初日だからか、かなり賑わっていた。姉は自分が真ん中になるように移動して、おれとルードの腕を組んだ。
「……姉ちゃん?」
「こうしておきましょ。声かけられるわよ」
あ~。確かに。彼氏さんが来るまでは姉と一緒に居たほうが良さそうだ。ちらちらと熱い視線をルードに向けている女性たちの、なんて多いこと。
ルードは気付いているのかいないのか、「賑わっているな」と感想を述べた。あっちの世界ではこういうお祭りってないんだろうか。
「それじゃあ、ルード。この子をお願いね!」
「ああ、任せてくれ」
「え、保護者枠おれじゃないの!?」
ぴろん、と音が聞こえて姉がスマホを取り出すとぱぁっと笑顔になる。彼氏さんが到着したみたい。そこからはデートだから、おれらはおれらで祭りを楽しむことにした。屋台で色々買って食べたり、射撃したり輪投げしたり。ルードはやっぱり目立つようで、気付いたら声を掛けられていることもあったが、彼は「連れが居るので」とおれを呼ぶ。
それでも一緒に回ろう、という女性をものすごく冷たい目で「プライベートという言葉を知らないのか?」と一刀両断。
モデルのバイトをしているルードだから、かなり目立っているだろうに。ファンサービスしなくても良いんだろうか。
――しっかし本当格好いい。きっと姉はルードの目の色で浴衣を決めたのだろう。スカイブルーの生地は涼し気で、アップされた髪型と合わせて色気を放っている、気がする。
「行こう、ヒビキ」
「あ、うん」
おれの手を取って歩き出すルード。人気のない場所まで行くと、ルードが「ふぅ」と息を吐いた。
「モテモテでしたね」
「ヒビキにモテなければ意味がない」
さらっとそういう事言えちゃうのが、ルードだよなぁと最近理解出来た。……そう言えば、お試し期間っていつまでなんだろう? 聞いてみようか、どうしようか。おれが口を開いたところで、ドォォン! と派手な音が聞こえた。
「……何事だ?」
「花火です。もうそんな時間か~」
めっちゃはしゃいでしまったようだ。お腹いっぱい食べたし、遊んだし。ルードは空を見上げて花火を見ていた。そして、おれのほうに視線を向けると、そっとおれの腰に手を回した。ぴったりとくっついて、浴衣越しに彼の体温を感じてなんだか顔が赤くなってきたような。
「綺麗だな」
「そうですね」
きっと初めて見る花火だろう。目を輝かせているルードを見て、小さく笑みを浮かべた。……こんなにくっついていたら、心臓の音がルードに聞こえるんじゃないかってちょっと不安になってくる。それくらい、おれの鼓動は早鐘をうっていた。
異世界→日本
高校が夏休みに入り少しの時間が経った。ルードはたまに仕事をしているようだった。姉は休みになっても忙しそうに出掛けている。どうやら彼氏さんとデートを楽しんでいるようだ。――デートを楽しんでいると思ったんだけどなぁ……?
「やっとお金が貯まったのよ!」
「え、いきなりどうしたの……」
「なにか欲しいものがあったのか?」
「ええ、是非ともルードと響希に着て欲しいものがね!」
そう言って姉はスマホを操作してあるページを見せる。浴衣のようだ。
「浴衣?」
「そう! 日本の夏と言えば浴衣でしょ!?」
……十五年、日本で生きているけど浴衣を着た覚えがないぞ、おれ。ルードが「そうなのか?」と首を傾げている。
「夏祭りも来るしね!」
「姉ちゃん、今度はどんなゲームしたのさ……」
「和服でいちゃつくやつ!」
めっちゃ力説してくるぞ、この姉……。苦笑を浮かべるおれに、ルードがおれと姉を交互に見て麦茶を飲んだ。おれも麦茶を飲む。きりっと冷たい麦茶が喉を通り体に染み込んでいく感覚。夏の麦茶ってどうしてこんなに美味しいんだろう。
「浴衣を買いたいってこと?」
「そうよ。着付けは私が頑張って覚えるから! 着て!」
「……なんでそこまでして着せたいの?」
「だって、響希……浴衣着たことないでしょ?」
ぱちくり。え、もしかしておれのためだったの!? と姉を凝視すると、姉は優しく笑っておれの肩に手を置いた。
「ルードも着たことないし、ふたり揃って『はじめて』って言うのも良くない?」
「……」
ちょっと感動したおれの心を返してくれませんかね、姉よ。
結局姉に押し切られて浴衣を着ることになった。紺色の浴衣だ。
「うんうん、似合ってるわよ」
「そりゃどうも……」
浴衣なんて着たことないから、なんか変な感じ。姉も浴衣に着替えてデートするらしい。ちなみにルードは既に着替えていて、おれが出てくるのをリビングで待っているらしい。おれもまだ見ていないから、ちょっと楽しみだ。
「お小遣い足そうか?」
「んー、別に良いよ。足りると思う」
「そ? 今日は料理しないから、適当に買って食べなさいよ」
「りょーかい」
姉はそう言っておれをリビングへと向かわせる。ソファに座っていたルードが、おれに気付いて顔を上げた。ぱちっと視線が合って暫くそのまま動かずにいた。……え、待って。ルードの浴衣姿はやばいだろう。
髪型も姉が弄ったのだろうか。アップにしてうなじが見えている。待って、格好いい。モデルだ、モデルがここに居る……! って、モデルやっていたな!
「なによ、見つめあっちゃって~。さて、そろそろ行くわよ。あ、でもその前にここで写真撮ろ!」
姉も浴衣に着替えていた。かわいらしい薄ピンクの浴衣。おれを真ん中にしてスマホのカメラを向ける。パシャっという音が聞こえて、写真が撮れた。
「後で送ってくれ」
「はーい。じゃあ、行こうか」
海に遊びに行った後日、ルードがスマホを欲しいと言ってきたので、姉がさっくり契約して渡していた。とはいえ、お金はルードが渡すらしい。三人のグループを作って、色々とやりとりしている。
家を出て、祭りの場所へと向かう。夏祭り初日だからか、かなり賑わっていた。姉は自分が真ん中になるように移動して、おれとルードの腕を組んだ。
「……姉ちゃん?」
「こうしておきましょ。声かけられるわよ」
あ~。確かに。彼氏さんが来るまでは姉と一緒に居たほうが良さそうだ。ちらちらと熱い視線をルードに向けている女性たちの、なんて多いこと。
ルードは気付いているのかいないのか、「賑わっているな」と感想を述べた。あっちの世界ではこういうお祭りってないんだろうか。
「それじゃあ、ルード。この子をお願いね!」
「ああ、任せてくれ」
「え、保護者枠おれじゃないの!?」
ぴろん、と音が聞こえて姉がスマホを取り出すとぱぁっと笑顔になる。彼氏さんが到着したみたい。そこからはデートだから、おれらはおれらで祭りを楽しむことにした。屋台で色々買って食べたり、射撃したり輪投げしたり。ルードはやっぱり目立つようで、気付いたら声を掛けられていることもあったが、彼は「連れが居るので」とおれを呼ぶ。
それでも一緒に回ろう、という女性をものすごく冷たい目で「プライベートという言葉を知らないのか?」と一刀両断。
モデルのバイトをしているルードだから、かなり目立っているだろうに。ファンサービスしなくても良いんだろうか。
――しっかし本当格好いい。きっと姉はルードの目の色で浴衣を決めたのだろう。スカイブルーの生地は涼し気で、アップされた髪型と合わせて色気を放っている、気がする。
「行こう、ヒビキ」
「あ、うん」
おれの手を取って歩き出すルード。人気のない場所まで行くと、ルードが「ふぅ」と息を吐いた。
「モテモテでしたね」
「ヒビキにモテなければ意味がない」
さらっとそういう事言えちゃうのが、ルードだよなぁと最近理解出来た。……そう言えば、お試し期間っていつまでなんだろう? 聞いてみようか、どうしようか。おれが口を開いたところで、ドォォン! と派手な音が聞こえた。
「……何事だ?」
「花火です。もうそんな時間か~」
めっちゃはしゃいでしまったようだ。お腹いっぱい食べたし、遊んだし。ルードは空を見上げて花火を見ていた。そして、おれのほうに視線を向けると、そっとおれの腰に手を回した。ぴったりとくっついて、浴衣越しに彼の体温を感じてなんだか顔が赤くなってきたような。
「綺麗だな」
「そうですね」
きっと初めて見る花火だろう。目を輝かせているルードを見て、小さく笑みを浮かべた。……こんなにくっついていたら、心臓の音がルードに聞こえるんじゃないかってちょっと不安になってくる。それくらい、おれの鼓動は早鐘をうっていた。
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