上 下
134 / 222
4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!

23

しおりを挟む

 昨日、早めに休んだからか……朝、ルードが起きる音で目が覚めた。聖騎士団の服装に着替えているルードに「おはようございます」と声を掛けると、ルードはおれのほうを向いて笑みを浮かべて「おはよう」と挨拶を返してくれた。



「まだ眠っていて良いんだよ」

「いえ、なんだかすっきり目覚められたので起きます!」



 ベッドから起き上がって服を着替えると、ルードと一緒に食堂に向かう。食堂にはリーフェとリアが居て、おれらに気付くと「おはようございます」と挨拶をして――ルードの髪が短くなっていることに気付いて、目を丸くした。



「え、え? ルード……坊ちゃん……!?」

「ど、どうしたんですか、その髪!?」



 慌てたように駆け寄ってくるリーフェとリアに、ルードは「気分を変えたくて」と微笑んだ。そして、彼女たちは目が零れ落ちるんじゃないかってくらい見開いて、それからなにかを悟ったかのように笑みを浮かべる。



「幸せそうでなによりです」



 にこっと微笑むリアに、ルードはうなずいた。リーフェは色々聞きたそうな顔をしていたけど、仕事が優先。ルードと一緒に朝ご飯を食べて彼を見送り、折角早く起きたのだからとおれは書庫で本を読むことにした。

 すると、じいやさんとリーフェもついてきた。どうやらルードの髪のことを聞きたいらしい。おれらは書庫に向かい、じいやさんとリーフェはお茶を用意してくれた。椅子に座ってふたりに顔を向けると、リーフェはワクワクを隠していない表情を浮かべていて、じいやさんは笑顔ではいるんだけど、瞳の奥でルードを心配しているように見えた。

 おれはメルクーシン領であったことを一通り説明した。リーフェが聞いたら怒りそうなことだったけど。



「なっ! あまりにも酷すぎませんか!?」



 ――やっぱり怒った。ルードのことを化け物だと教えていたメルクーシン家の人たちに対して、リーフェはとてもわかりやすく怒っていた。じいやさんは目元を細めてそれから深々とため息を吐いた。



「――人としての矜持まで落ちたか……」



 頭が痛いのか、じいやさんは額に手を置いて俯きながらそう言った。



「申し訳ありません、少し、用事が出来ましたので失礼させていただきます」



 すっと頭を下げて書庫から出て行こうとするじいやさん。しかし、すぐに足を止めて振り返り、おれに対して笑みを浮かべて、



「あなたが坊ちゃんの愛し子で、本当に良かった。坊ちゃんを、よろしくお願いいたします」



 そう優しい声色でおれに伝えてから、書庫から出て行った。そして、さっきまで怒っていたリーフェは静かになった。どうしたんだろうと彼女に顔を向けると、なんとも複雑そうな表情を浮かべていた。



「えーっと……アシュリーさまもメルクーシン家になにかしたんですよね、多分」

「も?」

「……おじいさまもなにかしそうで……」



 おれは首を傾げた。じいやさんがなにをするのだろうか。そもそもじいやさんってルードが小さい頃から一緒に居るんだっけ?



「……メルクーシン家、終わるかもしれませんね……」

「え?」



 リーフェの言葉に驚いた。じいやさんってかなりの実力者? しかし終わるってどういう事なんだろう。混乱してきたおれに、リーフェは眉を下げて微笑み、そして説明してくれた。



「私たちの一族は、ずっとメルクーシン家に仕えてきました。しかし、十年前にルードさまが王都に越す際、おじいさまはメルクーシン家よりもルードさまを取りました。それが気に入らなかったのでしょう。当時のメルクーシン家当主が、我々を二度と雇わないと追い出したのです。ですので、我々も王都へ越しました。丁度学園にも通いたかったので私的にはラッキーでしたが」



 淡々と、ところどころお茶目に話すリーフェ。リーフェが王都に来たのは……学園のためもあるのだろうけど、追い出されたからなのか。

 お姉さんたちが王都に居るのも、そういう理由だったりするんだろうか……。



「とは言え、うちは男爵家なので……出来ることがあるとすれば限られているとは思うのですが……。おじいさまならなんでも出来てしまえそうで……。あの人昔からなんでも出来ましたから。超人にもほどがあります」



 しみじみと呟くリーフェに、おれはじいやさんのことを思い出していた。確かにじいやさんがミスするところなんて見たことないし、むしろ色々教えてくれていたし、楽しそうに、時に厳しく……いや、マナー関連はスパルタだった……。



「じいやさんも謎と言えば謎だよね……」

「ええ、本当に。ヒビキさま、お話しして下さってありがとうございました。それでは、私は仕事に戻りますね」

「うん、お茶ありがとう」



 リーフェたちにはまだ、おれがルードにプロポーズしたことを言っていない。言ったら絶対リーフェが興奮するだろうし。仕事にならなかったら申し訳ないし。

 おれは椅子から立ち上がって、本棚に向かう。どんな本が良いかな。どうせならスカッとする冒険ものが読みたい。

 とはいえ、あまり分厚いのはまだ読める自信がない。薄めの本を数冊集めてさっきの椅子に戻って座る。お茶を飲みながらぱらりと表紙を捲り、本の中の世界に飛び込んだ。

 一冊、一冊、読み終わった本を重ねる。児童書のようなものもあって読みやすいし、今度はスキルや精霊の話が出てきたり、ランダムで取ったからかなりジャンルがバラバラだ。その中でも、精霊の話はやはり読み応えがあった。



「……守護精霊が居なくなったら、どうなるんだろう……?」



 おれの呟きを拾ったかのように、七色の光が一冊の本を包み込んだ。その本をパラパラと捲ると、とあるページで光が輝いた。このページを読めってことなのだろうか。そう思って視線を落とす。

 精霊との契約についてのページだった。ルードのように契約している精霊のことと、土地と契約している精霊のこと。読み込んでいくうちにおれは首を傾げることになる。

 フェンリルのような上級精霊は土地と契約している。その契約をしている以上、土地を守らなければならない。人と契約しちゃダメとは書いていなかったけど、土地と契約している精霊が土地を離れて大丈夫なのか……?



「あ、もしかして……だからフェンリルとルードが一緒にいるところを見たことがなかった……?」



 なるほど、と勝手に納得した。それにしても、この世界って精霊と共に生きていくスタイルなんだな。精霊さんたちいつもありがとう。心の中でそう呟くと、おれはゆっくりと息を吐いた。



「わ、綺麗……」



 七色に回る精霊さんたち。まるで祝福されているようだと思って、そう言えばおれのスキルの名は『精霊の祝福』だったと思い出した。



「本を読むのはここまでにして、刺繍糸まだ残っていたし……ミサンガ作ろうかな。またルードのことをお願いしても良い?」



 おれがそう尋ねると、精霊さんたちはもちろんとばかりにくるくる回っていた。

 本を閉じて、全ての本を本棚に戻す。寝室に向かう前に出会ったリアにお茶の片付けを頼んだ。おれが片付けたら良いとは思うんだけど、絶対ダメですと口酸っぱく言われてしまっているので、断念。



「お部屋でなにをするのですか?」

「ミサンガ作ろうと思って。リアもどう?」

「ありがとうございます。ですが、今日は午後から休みを取っていまして……。家族で出掛ける予定なんです」

「そっか。楽しんで来てね」

「はい」



 とても楽しみなのだろう、リアはにこにこと笑っていてこれからのことを考えているみたいだった。

 おれは寝室に向かって部屋に入ると、クローゼットまで足を進めて刺繍糸を取り出す。早速作ろうと意気込んでソファに座った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった

藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。 毎週水曜に更新予定です。 宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。

マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜

かむら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞にて、ジョブ・スキル賞受賞しました!】  身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。  そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。  これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

異世界転移した男子高校生だけど、騎士団長と王子に溺愛されて板挟みになってます

彩月野生
BL
陰キャ男子高校生のシンヤは、寝て起きたら異世界の騎士団長の寝台に寝ていた。 騎士団長ブライアンに求婚され、強制的に妻にされてしまったが、ある日王太子が訪ねて来て、秘密の交流が始まり……騎士団長と王子の執着と溺愛にシンヤは翻弄される。ダークエルフの王にまで好かれて、嫉妬に狂った二人にさらにとろとろに愛されるように。 後に男性妊娠、出産展開がありますのでご注意を。 ※が性描写あり。 (誤字脱字報告には返信しておりませんご了承下さい)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

処理中です...