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3章:その出会いはきっと必然
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しおりを挟む「――キミにそこの魔物が倒せるなら話は別だけど」
攻撃魔法は使えるようになった。だけど――魔物をちゃんと倒すには【浄化の力】が必要だ。おれにその力はない……。それはつまり、魔物に延々と痛みを与えるってことだ。どんな拷問だよ……。
「無理のようだね。とはいえ、このまま立ち話もなんだし……。シリウス、座れる場所あったっけ?」
「あるよー。じゃあ案内するね」
アデルに頼られて嬉しいのか、にこにこと笑顔を浮かべながらシリウスさんがぱちんと指を鳴らす。――景色が一新された。どこだ、ここ……!? 辺りを見渡してみると、あのおどろおどろしいところから一気に緑あふれる場所に移動してびっくりした。
「え? え?」
なんて柔らかい光が差すところだろう。って、本当にここどこだよ!
「シリウス、お茶とお菓子はないの?」
「今持ってくるね~」
…………シリウスさんは嬉々として姿を消した。おれは一体どんなことに巻き込まれているんだろうか…………。
「座りなよ。ボクも座るし」
「え、あ、うん……」
とりあえず座ることにした。白い椅子に白くて丸いテーブル。本当、ここどこなんだろう……。緑が豊かだ。さっきの場所が嘘のように爽やかな場所だな……。
「さっきのところね、ゲームの最終戦の場所なんだよ」
「え、そうなの」
「いかにも魔王が出そうな場所だったでしょ」
……否定はしないけど。あれで扉を開けたらロウソクが一本ずつ左右から灯っていけば完璧に某RPGだった。そもそも、おれ、ここの世界が十八禁BLファンタジーゲームってことしか知らないや。内容を知っているアデルに聞いてみようか……いや、彼が嘘を言う可能性だってあるし……、うーん。
「本当にキミ、『アデル』らしいよ」
「ええ?」
「考えているのわかりやすい。ゲームの『アデル』もそうだった。ボクは違うけどね!」
この人やっぱりナルシスト……? まぁ、敵意は感じないから良いか……。いや、これもしかしておれの危機感がダメダメだから?
「あのさ、本編終了後の世界って言っていたけど、その本編自体おれは知らないんだよね。どんな内容だったか教えてくれたり……しない?」
おれがそう言うと、アデルはパチパチと驚いたように目を瞬かせて、それからにっと口角を上げる。そのタイミングでシリウスさんが来て、お茶とお菓子を用意してくれた。……飲んで大丈夫かなぁ。
「毒なんて入ってないから平気だよ~」
……そんなにおれって顔に出ているのかな!?
「あ、美味しい」
「ボクに最高のお茶を飲ませるためにルードの屋敷の家令に習ったんだって」
「じいやさんに!?」
「あの人、俺より魔王らしかったよ……」
じいやさん、一体なにもの……? じゃなくて。シリウスさんも椅子に座ってお茶を楽しんでいる。アデルがおれに話があるって言っていたけれど、その話も始まらない。アデルがお茶を一口飲んで、それからカップをソーサーに置いた。
「――光があるように闇もある。それは決して離れることのできない恋人のように」
「え、なにそれ?」
「このゲームのオープニングで流れる言葉。知ってる? このゲーム、元々は普通の十八禁乙女ゲームを制作するつもりだったんだよ。ボクの名前が女性名なのはその名残。製作チームが仲違いした結果、キレたプログラマーとイラストレーターによってBLゲームに変更されたんだ」
プログラマーとイラストレーターすごくね? おれはもう一口紅茶を飲んだ。じいやさんに習ったって言っていたし、屋敷と似たような味がする……。
「……シリウスさんは、ここがゲームの中だって知っているの?」
「そりゃあね。オレは自分の人生がどのようにして始まって、どのようにして終わったかも覚えている。だから繰り返してアデルの誕生からを地味に見守っていってたんだ」
うん? 繰り返して?
どういうことだろう、とシリウスさんを見ると、お茶菓子として持ってきたマカロンを美味しそうに食べている。ニコロと気が合いそうなくらい食べている……。
「一般的に『王』になるのにはスキルがふたつ必要って言われているけど、最低限ふたつ必要ってだけで、スキルが三つだったり四つある『王』もいるんだよ」
「え、じゃあまさか……」
「ふふ、考えている通り、俺にはふたつ以上スキルがあるんだ。そのスキルを使ってループしたり、魂を戻したりしてたの」
「魂を、戻す?」
にやりと笑うシリウスさん。おれをじっと見て、心臓の辺りを指差した。
「――コウノトリが次元を超えると、二年もずれるなんて思わなかったなぁ」
「『アデル』の魂がおれに入ったのなら、元々おれに入るはずだった魂はどうなったの……?」
「ああ、そこはコウノトリがうまい具合にしてくれたんだ。本来なら死んでいたハズの身体に魂を入れたから」
「へ?」
「――死産だったんだよ、『保科響希』は」
……死産。えっと。死んでいたの? ああもう、頭の中がぐちゃぐちゃしている。おれのことを話しているのに、別の人の話を聞いているようだ。つまり、本来『保科響希』は死んでいて、代わりにアデルの魂が宿った?
「そんな話、聞いたことない……」
「隠してたんじゃない? もしくは、キミが鈍すぎた」
ぐぅの音も出ねぇ……!
「アデルがおれに帰れないって言ったのは……」
「こっちの住人をあっちから戻すことは出来ても、こっちからは無理ってこと。魂は肉体がないから通れたけど、二年もずれたしね。本当ならアデルと同い年のハズだったのに」
「マジか……」
なんか頭が痛くなってきた。もしかして……アデルが絵画に捕らわれたのはわざとなのか? この話をするために……? いや、まさかな……はは。
お茶を全部飲んで、そろそろルードとニコロの顔が見たい。そう思って立ち上がると、シリウスさんが口角を上げてパチンと指を鳴らした。
「うわ!?」
またどっかに移動された。ぼふっと柔らかいものの上に落ちた。痛くはないけど心臓に悪い! ドキドキと心臓が早鐘を打っている。とりあえず深呼吸を繰り返して、平静を装う。落とされた先がベッドの上で良かった。
……辺りを見渡しても誰もいない。おれが完全にひとりになることって、この世界に来てからなかったから、なんだか……。ちょっと寂しい気がする……。
よし、とにかくルードとニコロを探そう。
ベッドから降りて部屋から出る。……どこだ、ここ。魔物いないよね? いませんように。どこを探せばルードとニコロに会えるんだろう。闇雲にひと部屋ずつ見ていくしかないか……?
――ルードとニコロに会いたい。おれが心からそう望むと、灯りが矢印になった。
もしかして……精霊さんが教えてくれているんだろうか。おれは精霊さんの導き通りに歩き出す。
……そっか、おれはひとりじゃなかったね。
「ありがとう、精霊さん」
灯りが少しだけ揺れて、まるで『どういたしまして』って言っているようだった。
とにかく精霊さんが教えてくれる通りに歩く。右に曲がったり左に曲がったり直進したり……。さすがラストダンジョン(?)、広い……!
それにしても、どうして中はこんなにおどろおどろしいんだ……! 外はあんなに爽やかだったのに! いかにもなにかが出そうでなー……。
戦う術……は、一応攻撃魔法が使えるけれど……やっぱり魔物と戦うのは気が引ける。うーん……。それにしても、本当、迷路みたいだなぁ、この建物……!
RPGの定石と言えば定石なんだけど……。
どれくらい歩いたのかなんて覚えていないけど、ようやく部屋の前を精霊さんが指す。とりあえず、ノックしてみるけれど、しーんと静まり返っていた。
「入りますよ~……」
一応声を掛けてから中へと入る。中は暗くて、おれが灯した灯りでぼんやりと見えるくらいだ。辺りを見渡してベッドに横たわっている人を発見。ルードかな、ニコロかな? と近付いてみると、おれの気配に気付いたのか、ばっと躰を起こした。
「ここは!?」
「ニコロ、大丈夫?」
声で判断出来た。ニコロも生活魔法を使って灯りを灯す。ふたり分の生活魔法で明るくなった室内を見た。……わぁ、絢爛豪華。
「ヒビキさま……? え、あれ……なにがあったんでしょうか……」
「なにかをシリウスさんに盛られたみたいだけど……」
おれの言葉を聞くとニコロがずーんと肩を落としてしまった。なにがあったのかを思い出したのかな?
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