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2章:1週間、ルードと一緒です!

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 帰り道は魔物に出遭わなかった。隠れ家、サディアスさんにも教えて良かったのかな? とルードを見ると、ルードはぽんとおれの頭に手を置いて優しく撫でる。心地よくて目を閉じたら、くいっと顎を軽く持ち上げられてそのまま触れるだけのキスをした。

「今日は疲れただろう? ゆっくりお休み」
「魔法使うのも体力が要るんですね……」

 しみじみと呟いて、家の中へ入る。ただいま、と言いながら。この世界に来て一ヶ月ちょっと経ったけど、どんどんと馴染んでいくのがわかる。夕食は軽めに済ませて、お風呂に入ってベッドに横になった。

「結局おれの魔力の限界値って……?」

 自分の手のひらを見つめながら今日教わったことを思い出してみる。基本的に生活魔法と使い方は変わらないけれど、攻撃魔法は思って以上に威力が出なかった。森へのダメージをどうしても考えてしまうのだろう、とルードが言っていたけど、もしもおれがそれを考えずに魔法を放ったらどうなってしまうのか。
 それにしてもルードのスキルがここでわかるとは。隠してはいないみたいだったけど、そのうちわかるって言っていた『そのうち』が今日だったってことなのかな?

「……ヒビキ? 眠れないのかい?」
「あ、いいえ。えーと、今日教わったことを思い出していました」
「そう」

 そう言いながらルードもベッドに横になる。今日は魔法を使って疲れただろうから、とエッチなことはしないと夕食時に言われた。確かに気怠さを感じるくらいには疲れた。森の中を歩いたからか、それとも魔法を何度も使ったからかわからない。

「ニコロの足は、本当に全快したんでしょうか」
「恐らくは。過去の傷も消えているようだから、もしかしたら今までで一番の絶好調かもよ?」
「それなら良いんですけれど……」

 後でニコロに足の調子を聞こうと考えていると、ぎゅっとルードがおれを抱きしめた。ぽんぽんと背中を優しく叩かれて、どうしたんだろうと彼の胸に顔を埋めながら視線だけ向ける。

「魔物の話をするつもりはなかったのだが……」
「おれは聞いてよかったって思ってますよ」

 そりゃあ驚いたけれど……。前にルードが精霊が理性のない人間が嫌いって言っていた意味もわかったし。ただ、このゲームの製作者はなんでそんな設定を付けたんだろうかと悩んでしまう設定だったけど。

「ルードのことを、またひとつ知りました」
「……そう」

 どこか安堵したようなルードの声。そして、ぽんぽんともう一度おれの背中を叩く。そして、「もうお休み」と額にキスをして、髪を優しく撫でる。おれはこくりとうなずいて目を閉じる。生活魔法以外の魔法を使ったからか、すぐに眠りに落ちた。




 朝。朝日を浴びて目覚めると、おれが起きたことに気付いたルードが「おはよう」と声を掛けてきた。どうやらずっとおれの隣で本を読んでいたようだ。ぱたんと本を閉じて、それからおれの頭を撫でて柔らかく微笑んだ。

「……おはようございます……」
「うん。今日はどうしようか。商業ギルドにでも行ってみようか?」
「あ、リアの旦那さん?」

 商業ギルドで働いているリアの旦那さん。クマみたいな人だって聞いているから、ちょっと気になっていた。

「ああ。いるかどうかはわからないけどね」
「商業ギルドにもちょっと興味があります」
「そっか、じゃあ用意していこうか」

 そう言ってベッドから抜け出すルードの後を追いかけるように起き上がった。既に着替えていたルードは「ゆっくり着替えておいで」と小さく笑いながら寝室から出て行った。おれは着替えて、顔を洗いに向かう。
 しっかりと顔を洗って寝ぼけた思考を引き締めた。
 ――正直、精霊の祝福って言うスキルはよくわからなかった。ルードのスキルをブーストすることは出来たようだけど……あ、そう言えばどんな感じがするのかルードに聞いてなかったから、聞いておこう。
 そしておれ、料理を全然していない……! 色々買ってもらったのに……。

「ルード!」
「ん? お腹空いたかい?」
「あ、いえ。えーっと、おれもなにか作っても良いですか?」
「構わないよ」

 ルードと一緒にキッチンに立つってなんだか不思議な感じ。とはいえ、ちらりと見ると既にパンとかサラダが用意されているから、スクランブルエッグにでもしようかな。あ、でもベーコンもある。ベーコンエッグも美味しいよな……。どうしようと悩んでいると、クスクスとルードが笑う声が聞こえた。

「そんなに難しい顔をして、なにを考えているんだい?」
「えっ!? えーと、また百面相してましたか……?」

 小さくうなずくルードに、おれはがくりと肩を落とした。こんなに顔に出て大丈夫なんだろうか、おれ……。

「……スクランブルエッグとベーコンエッグ、どっちのほうが好きですか?」
「んー……、じゃあ、ベーコンエッグをお願いしようかな」
「はい!」

 よろしくね、とパンやサラダをテーブルに持っていくルード。おれはブロックのベーコンを厚切りにしてフライパンを熱してバターを入れ、溶かしつつそっとベーコンをフライパンへ。じゅうっとベーコンの焼ける良い匂いが鼻腔をくすぐって、焦がさないように気を付けながらベーコンの近くに卵を落とす。じゅわっと音が聞こえて――あ、そう言えば。

「ルード、半熟にしますか? それとも――」
「ヒビキの好みに任せるよ」
「わかりました!」

 じゃあ半熟にしようっと。ベーコンに黄身をつけて食べるの好き。フライパンに蓋をして、軽く火を弱めて半熟になるくらいまで放置し、出来上がったら皿に盛りつけてっと。……う、やっぱりベーコン少し焦げた。バターの扱いは難しい……。それでも結構美味しそうで、ベーコンと卵の相性ってすごいよな!

「すみません、ベーコン少し焦げました……」
「大丈夫だよ、美味しそうだ」

 ルードはスープを準備して、おれに椅子に座るように言う。椅子に座ってすぐにルードも座って、ふたりで「いただきます」と言ってから食べ始める。ナイフとフォークを手に取って、少し焦げたベーコンを切り分けてそのまま食べた。美味しい。絶対高いベーコンだ!
 いや、そんなことを言ったら、多分ルードの屋敷で出てくる料理に使われている食材、きっと高いのだらけなんだろうけど……。
 卵には塩とコショウをさっと振って、まずは白身だけ切り分けて食べる。ちらりとルードを見ると、どこか楽しそうに目元を細めておれを見ていた。

「ヒビキは本当に美味しそうに食べるね」
「……そうですか?」
「うん、とても良いと思うよ」

 ルードはそう言いながらパンを一口サイズにちぎり口に運ぶ。……何度見てもルードの食べ方は綺麗だ。思わず見惚れてしまうほどに。おれがじっと見つめていることに気付いたルードが「どうした?」と問うから、そのままの感想を告げるとルードは動きを止めて目を瞬かせ、「そう」と綺麗に笑った。

「じいやにテーブルマナーを延々と教えられた甲斐があるね、それは」

 冗談交じりにそんなことを言うのだから、ついつい笑ってしまった。
 ルードもベーコンエッグに食べて、美味しいねと言ってくれた。ベーコンエッグをパンに乗せて食べると、ルードもそれを真似してみたりして、穏やかな朝食の時間だ。
 すべて食べ終えて食器を片付け、家の戸締りをしてワープポイントの部屋へ。
 ルードが行き場所を設定して、おれに手を差し伸べる。その手を取ると、あっという間にワープした。……このワープ機能、日本にもあれば良いのにと考えてしまった。

「このワープ元の設定っておれでも出来たりしますか?」
「え? ああ……。どうなんだろうね。屋敷のワープポイントなら使えると思うけど……」
「屋敷だけ?」
「屋敷のは誰でも設定出来るようになっているから。ただ、ひとりにつきひとつの場所しか行けない」
「ええ?」
「ワープポイントの数が多すぎてね……。よく行く場所を設定するようになっている」
「……それも、ルードのお父さんが作ったんですか?」
「ワープポイント自身、メルクーシン家が勝手に作ったって聞いたことがある」

 勝手に作って良かったんだろうか……。うーん、メルクーシン家も謎だ。
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