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1章:十八禁BLゲームの中に迷い込みました!

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 少し風が強くなってきた。リーフェが「鋏を持ってきます」と走って行ったので、おれはせっかくだからと花を間近で見ようと近付いた。風に揺れる花はまるで踊っているようにも見えて、そして色々な花を見ると純粋にすごいなって思ってしまう。
 ……まぁやっぱり種類はわからないんだけど。朝顔とか夕顔とかもあるのかな。あと、バラや椿。ヘチマとかあったらちょっと見てみたい気がする。だってルードの屋敷にヘチマってアンバランスで面白い。
 そんなことを考えていたら、リーフェが鋏を持って駆け寄って来た。

「どれか気に入った花はありましたか?」
「え? えーっと……、この花かな」

 見たことのない花だった。ルードの髪のような紺色の花。花弁の先に行くにつれて色が濃くなっていて、キレイなグラデーションだ。

「ああ、それは品種改良を重ねて出来た花です。キレイな紺色でしょう?」
「うん。花に触れてもだいじょうぶ?」
「もちろんですわ。花も生きていますから、声を掛けてくださいませね」

 そっと手を伸ばして花に触れてみる。花びらは五枚、甘い香りがふんわりと鼻腔をくすぐる。いい匂いだ。つるつるの花弁を撫でた。

「こんなにキレイな紺色の花を初めて見た……」

 ぽつりと溢れるように言葉が落ちた。花から手を離して、彼女に視線を向けると、彼女は慣れた手つきで花を切り落とした。

「この花だけでよろしいのですか?」
「うん、ありがとう。ルードの寝室に飾っていい?」
「では、一輪挿し用の花瓶を用意しますね」

 一瞬リーフェは目を瞬いたけれど、すぐに表情を綻ばせた。それから大事そうに花を持ち、「せっかくですから花瓶もお選びになりますか?」と首を傾げてきたので、おれはうなずいた。
 リーフェの後を追うように歩き、花瓶が置いてある倉庫のような場所に着くと中に入り花瓶を眺める。大きいのから小さいのまで色々あって驚いた。

「……高そうな花瓶がいっぱい……」
「割れると危険ですから、お気をつけくださいね」

 花瓶の飾られている棚を眺めて目を丸くしていると、リーフェが一輪挿し用の花瓶の場所に案内してくれた。一輪挿し用って一言で言えるのにその数の多さがすごい。

「もしかしてこれ全部手入れしているの?」

 ホコリひとつ被っていない花瓶を指さしながら聞いてみると、彼女は不思議そうにおれを見て首を縦に動かした。……すごいな、これだけの数を手入れするって……。

「仕事ですもの。なにかお気に召す花瓶はありましたか?」
「ええと――……、あ、これがいいな」

 透明感のある水色の花瓶を指すと、リーフェは微笑みを浮かべた。――ルードの瞳の色にそっくりな花瓶の色を選んだ。彼女がそれを取り出して水を入れる前に花を生けてみせた。紺色の花と水色の花瓶。空を思わせるような花瓶の色はやはりルードを思い出させる。

「……きれいだね」
「ええ、とても。水を入れてから寝室に飾りましょう」

 うん、と一言だけ言って倉庫を後にする。寝室に向かう途中に花瓶に水を入れて、それからベッド近くに置いてあるナイトテーブルに花瓶を置いてもらった。女性に重いものを持たせるのは、と花瓶を渡して欲しいと言ったけれど、「これが私の仕事なので」と渡してもらえなかった。

「ヒビキさま、この後はどうしますか?」
「……んー、ちょっと眠くなってきたかも。お昼寝してもいい?」
「今朝は早かったですものね。ゆっくりお休みください」

 リーフェはそう言って頭を下げる。寝室から出て行く彼女を見送って、おれは上着を脱いでクローゼットに向かう。クローゼットの中にあるチュニック数着を取り出して袖の部分を裏返してみると、刺繍があった。

「……やっぱりすごい数だよなぁ……」

 これ全てに刺繍がされてあるのだろう。さらに服もルードの手製となれば、これだけの数を作るのには時間も掛かっただろう。十五歳のルードの行動が謎だ。
 でも……おれと同じ年くらいのルード、見てみたい気がするなぁ。
 チュニックを元に戻して、上着も掛けてクローゼットを閉めてから窓に向かう。カーテンは開いていたので窓ガラスから暖かな光が差し込んでいる。窓に触れてルードのことを思う。今頃どの辺りを進んでいるのだろう、とか、魔物に遭遇していないか、とか。

「……無事に帰ってきますように」

 祈るようにそう呟く。ルードと離れて数時間しか経っていないのに寂しく思えるのは一週間も会えないから?
 窓から離れて、そういえばとナイトテーブルの引き出しを開ける。小瓶を見つけると、それらが七つあるのが見えた。一日一個使えということなんだろうか。そしてある問題に直面する。

「生活魔法使えないんだけど、どうすればいいんだ!?」

 この世界の人たちって全員生活魔法使えるんだろうか……。とりあえず引き出しを元に戻して、ベッドに潜り込む。眠いのは本当だ。ちょっとだけ眠ろう。シーツがひんやりとしていたが、すぐに自分の体温で温まる。
 睡魔はすぐにおれを襲ってきた。それに抗う気もなく、目を閉じて――……次に目が覚めるともう夕暮れだった。
 控えめなノックの音が鼓膜に届く。慌ててベッドから起き上がると、「ヒビキさま、起きていらっしゃいますか?」とリーフェの声が聞こえた。

「起きました!」

 素直に告げると扉の向こうからクスクスと笑う声がした。昼寝のつもりが何時間眠ったんだ、おれ!? 昨日から寝すぎている!
 扉を開けるとやっぱりリーフェが居て、食事の乗ったトレイを持っていた。

「あまりお腹も空いていないかもしれませんが……」
「あ、ありがとう。いただきます」

 食事の乗ったトレイを受け取ってお礼を言うと、リーフェは優しく目元を細めた。

「では、なにかありましたら鈴を鳴らしてくださいませ」
「うん――あ、待って。ひとつ聞きたいことが」
「なんでしょうか?」
「――リーフェも生活魔法って使えるの?」
「使えますよ?」

 さも当然という顔で答えられた。そうか、やっぱりこの世界で生活魔法を使えるのは当たり前なのか……。
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