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1章:十八禁BLゲームの中に迷い込みました!

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 ルードはなんだか複雑そうな表情を浮かべている。おれがアデルのことを気にしているから? いや正直、アデルがどういう人物なのかがさっぱりだ。姉から聞いた話とあの少しの間だけ見たアデルと全然違うんだよな。

「百面相をしているぞ」
「えっ」

 おれは頬をムニムニと両手で揉んでみた。それを見たルードがぷっと吹き出す。この人結構頻繁に笑うよな……。ともかく、おれがアデルと会うことはほぼないだろうし、気にしていても仕方ないか。
 頬を揉んでいたおれの手を取って、指の間を繋ぐ。おれの手よりも大きく、剣を振るっているからか硬い感触。ちらりと剣に視線を向けると、ルードはおれの視線を追って剣を見る。

「剣に興味があるのか?」
「興味、というか、えーっと、おれ剣とか武器とか見たことないから、どんなのかなぁって思いまして」
「……ヒビキの居たところは平和だったんだな」

 手を離しておれの頭に手を乗せてくしゃりと髪を撫でる。
 そう、確かに平和だった。剣なんて本で見るくらいだったし、そりゃ日本刀なら展示されることがあるから見に行けば本物見られるけど、それを振るうことはできないわけで。そう考えるとこの世界は危険な世界なんだな……。

「ヒビキは魔物を見たことがあるか?」

 おれは首を横に振る。ルードは「そうか」と呟いておれの手を取ってそのまま歩き始める。窓まで歩くとひとつの山を指した。

「少し前にあの山の向こうの街まで行ったことがある。そこは果物がとてもおいしい街で有名だった」

 有名だった? 過去形?
 ルードに視線を向けると彼は少しだけ悔しそうに目元を細めた。

「――私たちが着いた頃には、そこはもう廃墟になっていた」
「えっ!?」
「魔物の行進があったようだ。あちこちに魔物の足跡があり、建物は壊され人々は誰ひとり残っていなかった」

 ルードが窓に触れる。そしてゆっくりと瞼を閉じた。なにかを思い出すように、それを言葉にするのを迷っているかのように。小さく息を吐く音に、おれはそっと窓に触れる彼の手に自分の手を重ねた。

「……王都であるこの場所は結界に守られている。だが、他の街はそうはいかない。だからこそ、私たちのようなものが派遣されたりするのだが――……、ここ最近魔物たちの様子が大人しくてな」
「それは、いいことなのでは?」
「人々に危害を加えない、という意味ではいいことだろう。だが、なぜ急に大人しくなったのか、それがわからなくてな。現在調査中というわけだ」
「お疲れさまですね……」

 ルードは窓から手を離して、今度は「腹が減っただろう、夕食を食べよう」とおれの手を取って食堂へ向かう。現在二十三歳のルードが言う少し前は、何年くらい前なんだろうか。
 ぼんやりとそんなことを思いながら食堂まで歩いた。食堂の扉を開けてもらって中へ入る。もう食事の用意がされていた。
 ホカホカと湯気の立つスープに、緑や赤がキレイなサラダ。たっぷりのパンにメインのムニエル。今日の献立もうまそうだ。
 椅子に座ってナプキンを膝に広げる。それから手を合わせて「いただきます」と言ってからスプーンを手に取ってスープを飲む。今日は具沢山のスープだった。色んな味がしてやっぱり美味しい。ルードはおれが食べるのを黙って見ていたが、すぐに自分も食べ始めた。やっぱり食べる仕草がすごくキレイ。
 パンを一口サイズにちぎるのも、スープを音なく飲むのも、ナイフとフォークを使ってムニエルを口に運ぶのも優雅で見惚れてしまう。

「どうかしたか?」
「あ、いえ。美味しいなって」
「そうだな」

 しまった、見すぎていた。しかしイケメンが食事を摂る姿がこんなにも絵になるとは。とりあえず今は食事に集中しよう。こんなに美味しい料理なんだし。
 デザートまでぺろりと平らげて、もう一度手を合わせて「ごちそうさま」と声を出すとメイドさんが皿を下げてくれた。
 ルードも食べ終わったようでおれの名を呼ぶと椅子から立ち上がり食堂を後にする。慌ててルードの後を追った。書庫に着いて、首を傾げる。ルードは書庫の扉を開くとなにかを探すように本棚に近付いて、数冊の本を抜き取るとおれに渡した。

「これは?」
「絵本だ。文字を読む練習に使うといい」
「ありがとうございます」

 なるほど、確かに絵本なら読みやすそう。おれがさっき読んでいたのとは違う本のようだ。薄めの本から読んでいくことにしよう。受け取った本の表紙を眺めてみると、可愛らしいイラストも描いてあって、なんとなく和む。

「えっと、ここに置いてもいいですか?」

 机を指して聞いてみる、ルードはこくりとうなずいた。それじゃあ、と机に絵本を置く。明日読むことにしよう。どんな内容なのか今から少しワクワクした。

「文字がスラスラ読めるようになったら違う本も読んでみるといい。冒険録とか中々面白かったぞ」
「ルードもそういうの読むんですね」
「まぁな」

 優しく笑うルードの表情はとても柔らかくて、――ずっとこの表情だったらいいのに、なんてぼんやり思った。廃墟になった街のことを口にするルードは、あまりにも苦しそうに見えたから。

「ここの本はすべてルードが集めたんですか?」
「いいや、ほとんどがじいやの趣味だな」
「じいやさんの趣味!?」

 本を集めるのが趣味なんだろうか。結構な冊数あると思うんだけど……。

「一応私もすべて目を通してあるが……」
「え、ルードってもしかしてかなりの読書家!?」
「そういうわけでもない。だが、そうだな。本を読むのは好きだ。もっとも、今は――……」
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