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1章:十八禁BLゲームの中に迷い込みました!
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しおりを挟む翌朝――いや、昼だ。どう見ても朝はとっくの昔に過ぎ去っている。だって太陽があんなにも高いところにある……。
っていうか、おれはまた意識を失ったのか! 昨日のことを思い出してベッドに潜り込んで悶えていると、扉がノックされた。
「うわ、はいっ!」
「ヒビキさま、昼食の用意が出来ていますが、食べられますか?」
部屋へは入らずに扉の外から声を掛けられる。おれは「いただきますっ」とベッドの上から返事をした。
いつまでもベッドの上にはいられない。そろそろと降りて昨日と同じようにクローゼットの中から服を選んで着替える。そう言えば、昨日も今日も躰がベタベタしていないな……なんて、今更なことを思った。
――っていうか、やっぱりチュニックなんだな、おれの服装は。そして下着がないからスースーするのも昨日と同じだ。
「では、食堂でお待ちしております」
「はいっ!」
今日はじいやさんじゃないんだな、と考えながらも姿見の前で髪を適当に整えてから部屋を出る。昨日連れて行ってもらった食堂まで、なんとか迷わずに行けた。メイドさんに「こちらの席へどうぞ」と案内された場所に座るとすぐに食事が出てきた。
手を合わせていただきます、と呟いてからナイフとフォークを手に取る。昨日教えてもらった通りに使うことが出来た。
まだちょっとぎこちないけど! それは仕方ないよな、うん。
しっかりと味わって、食器を下げるメイドさんにじいやさんのことを聞くと、彼は今日ルードの指示で街まで行っているらしい。
「ヒビキさま、午後のご予定は?」
「あ、えっと。書庫で文字の練習をしても良いですか?」
「もちろんです。では、僭越ですが私がお教えしても?」
「え、いいんですか!?」
「はい」
にこりと微笑む推定二十代前半の女性に、ちょっとだけ胸が高鳴った。キレイな人を見るのはいいことだ。キレイって言うなら、ルードもキレイだけど、イケメンと美女は違う部類だし!
メイドさんは食器を下げるとおれを書庫まで連れて行ってくれた。それから昨日どのように文字を習ったのかを伝えると、メイドさんは文字を覚えるのにはこういう本を読むのもいいですよ、と絵本っぽいものを持ってきてくれた。
「これは?」
「我が国の歴史を絵本にしたもの、ですね。絵本なのでちょっと大雑把なのですが、大体は合っているので、文字を覚えるのには向いていると思います」
「ありがとうございます。がんばって読んでみます」
メイドさんは「はい」とにこやかに返事をすると、おれから少し離れたところに立って、おれが本を読むことを促した。表紙をめくって、文字を見てみる。確かに昨日習った文字ばかりだ。
この国の成り立ちがわかる絵本のようだ。
えーっと……?
それからずっとその絵本を解読するのに時間を使った。時折わからない単語が出てきて、その度にメイドさんに教えてもらった。
要するに、この国はずーっと昔に精霊と契約して、精霊の願いを叶える代わりに結界で魔物から守ってもらっている、って内容だった。
初代の陛下が精霊王と契約を交わし、その契約の内容が森から魔物を減らすこと。だから聖騎士団が出来た。
「……どうされましたか?」
「……いや、えっと、ルードの職業って……」
「あら、ご存知ではなかったのですか? ルードさまの職業」
こくり、とうなずくと彼女の目が丸くなる。そういや全然そう言う話をしていない。
いや、勝手に知っているけどね! 姉のせいで!
直接聞いたわけではないから、おれが知っていたらおかしい情報だろうし、後でちゃんと聞いておこう。
メイドさんはなにを思ったのか両手を頬に添えてポッと赤らめた。
「お話をする体力もなくなるくらい求められているのですね」
「……!? げほっ」
唾が変なところに入った! げほごほと咳をすると、慌てたようにメイドさんがおれの背中をさする。少し落ち着いたところで、おれは恐る恐る尋ねた。
「ルードって、一体おれのことをなんて……?」
「慣れない行為で疲れているだろうから、馴染むまで待っていて欲しい、と」
「…………色々居た堪れない!」
机に突っ伏すと、メイドさんはクスクスと鈴を転がすように笑う。
「大丈夫ですよ、この国――いえ、この世界では珍しいことではないですから」
「なにがどう大丈夫なんですか……」
「男同士でも女同士でも、男女であったって、愛の形は様々ですから」
ちなみに私の恋人は女性ですよ、とウインクされた。ちょっと待て、ここBLゲームの中だよな。百合要素もあったのかこのゲーム。我が姉ながらなんてゲームをしているんだ……!
「それに、今はアデルさまもいらっしゃいますしね」
「――アデル?」
「ええ、確か数ヶ月前にこの国にいらしたんです。金髪碧眼の美少年。ご存知ですか?」
「……ルードと会った時に、少しだけ話しました」
「まぁ、そうだったんですね。彼、すごいんですよ。小国の殿下なんですけど、その美貌で次々に男性を落としていって、アデル親衛隊みたいなものまで出来ているんですって」
アデル親衛隊……。一体どんなものなんだろう。ちょっと気になるようなならないような。っていうか、総受け主人公って聞いていたけど……。そこまで男を落としていってどうするんだ、ハーレムでも作るのか。男が、男のハーレムを作ってどうするんだ。
この場合なにハーレムになるんだろう……。男しかいないハーレム……。
「ルードさまにも声を掛けていたんですね……。最近ルードさまがやたら早く帰ってくるのは、アデルさまに会いたくないからかもしれません」
「あー、なんか、ルードはアデルのことあんまり好きじゃないみたい……?」
そうじゃなきゃあんなに冷たい声を出せないだろう。メイドさんはおれの言葉に「やっぱりですか」と声を返した。どういう意味だろうと首を傾げると同時に、書庫の扉がノックされた。
「はい」
メイドさんが答えて、扉を開ける。昨日と多分、同じくらいの時間だ。ってことは扉の外に居るのはやっぱり――うん、ルードだった。
「おかえりなさいませ、ルードさま」
「おかえりなさい、ルード」
「……ああ、ただいま」
「では、私はこれで失礼します」
ぺこりと頭を下げてメイドさんは書庫から出て行った。そう言えば、昨日と違いルードが「ただいま」と口にしたことに気付いて、おれはじっと彼を見る。
「私の顔になにかついているか?」
緩やかに首を横に振る。ルードは首を傾げた。それからおれの近くまで来て、読んでいた本に視線を落として「懐かしい」と微笑む。
「ルードも読んだことが?」
「子どもの頃にな。ざっくりとした内容の絵本だ」
……否定はしない。確かにざっくりとした内容だったし。あ、そうだ。ちゃんと聞こうと思っていたことを言葉にしなくては!
「ルード」
「なんだい、ヒビキ」
「おれ、もう少しルードのことが詳しく知りたいです」
彼の空色の瞳を見ながら、はっきりと口にすると、ルードは一瞬目を瞠る。それから心底嬉しそうに口角を上げた。ルードはおれの隣に座り、優しく声を掛ける。
「なにが知りたい?」
「えーっと、じゃあまず、職業!」
「聖騎士団、一番隊隊長だ」
姉から聞いた職業と同じだな、聖騎士団までは。でも、一番隊隊長って、偉い人ってことだよな……!?
「一番隊隊長って、どういう仕事なんですか?」
「まぁ、簡単に言えば魔物退治で先頭に立つ仕事だな」
「後方支援部隊もあるんです?」
「ああ、魔法だったり弓だったり」
そうなのか……。姉が興奮気味に言っていたのはどんな内容だったっけ。
『スチルで魔物退治の時の聖騎士団があるんだけどね! ルードのいつも纏められている髪が舞ってすっごい綺麗なの! でもギラギラと闘志が宿った目をしていてね! めっちゃ格好いいの!!』
――って言っていたような。おれはルードの髪に手を伸ばして触れてみる。サラサラとした髪がおれの手から滑り落ちていった。
「危険な仕事なんですね」
「魔物が出なければ書類に追われるだけだ」
「……それもそれで大変なのでは……」
書類に追われるって、おれだと課題に追われてるようなもんか?
「そう言えばおれ、ルードの年齢も知らない」
「気になるか?」
「そりゃあ、まぁ」
「二十三だが」
「……二十三歳で一番隊隊長!?」
どういう基準で選ばれているのかわからないけれど、それはすごく早くないか!?
「ああ、それはただ単に私が貴族だからだな」
「貴族だから、一番隊隊長?」
ええ、どうなってるのこの世界。全然わからない……。成人しているとは思っていたけれど、ルードは二十三歳だったのか。年齢までは姉も言ってなかったもんな。
……この世界では未成年に手を出していいんだろうか。
「ヒビキの年齢は?」
「十五歳です」
「……十五?」
首を縦に振る。そんなに意外な年齢だったんだろうか。ルードはなにかを考えるように顎に指を掛けて「ふむ」と呟いた。そしてすぐにおれの頬に手を添えてじーっとおれを見る。な、なんだ……?
「……あ、の?」
「いや、なんでもない」
「……さっきチラッと聞いたんですけど、おれが前に会った金髪碧眼の少年――」
「……アデルのことか?」
「彼の年齢はいくつですか?」
おれと変わらないくらいの年齢だと思うけど、念のため。
「知らん」
「えっ?」
「アデルと会話することなどないからな。ヒビキはアデルが気になるのか?」
「むしろルードがアデルにそこまで興味がないほうに驚いています」
「私が? なぜ?」
だってルードルートでは後半めっちゃ甘いらしいし。もちろんこれも姉の感想だ。
最初は邪魔者扱いするのに、親睦を深めるうちにどんどんどんどんデロデロに甘やかすようになる、らしい。
――最初から甘やかされているような気がするおれは、一体ルードの中でどの位置に居るんだろうか。
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