世界は私に甘すぎる

ゆきもち

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オルタ視点

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 友人を作るのが苦手だった。
 親に連れられたパーティで僕はいつも1人になる。話しかけようと思っても勇気がなかなか出てこない。オマケに僕は走り回ったりチャンバラをしたりするのが苦手だから、せっかく仲間に入れてもらえても馴染むことが出来なかった。
 家ではいつもぬいぐるみ遊びをしている。お気に入りの大きなクマさんを抱いて屋敷のなかを散歩したり、一緒におやつを食べるのが1番楽しい。でも、僕の周りの男の子たちは誰も共感してくれなかった。

 ある日僕の部屋に鳩がやってきた。朝ベッドから目を覚ますと、コンコンと窓ガラスを鳩がつついていた。僕が窓を開けてやると、鳩は僕の手のひらに乗ってきて淡い光を放つ。僕はすごく驚いて、「なんでっ!」って叫びながら鳩を抱きしめた。この時の僕は「伝書鳩魔法」を知らなかったからだ。腕のなかに抱いた鳩は姿を変え1枚の便箋となった。僕はそれを恐る恐るつまみあげた。一体これはなんなんだろう。誰が送ってきたものだろう。正体が気になった僕は、封をきり封筒のなかから手紙を取り出した。紙に書かれていたのは、物語だった。


【むかしむかしあるところに、裁縫好きの少年がいました。母は服の修繕をする仕事をしており、母が大好きだった少年は針抜いのやり方を教えてもらっていました。母が仕事でチクチクと布を縫っているとき、少年も母のとなりでチクチクと針を動かしぬいぐるみを作りました。完成したのは犬のぬいぐるみ。初めて作ったぬいぐるみでしたがとても上手に出来ました。母もとびっきりに褒めてくれました。少年はぬいぐるみにコラッジョと名前をつけて、街へ連れてでました。少年は引っ込み思案な子でしたが、コラッジョという仲間ができて勇気が湧いてきたのでしょう。腕のなかのコラッジョに「あれは時計屋さん」「あれは服屋さん」「あれは肉屋さん」と街を案内します。しかし、それを見ていた街のこどもたちは少年を馬鹿にしました。
「人形遊びなんて女の子みたい!」
 少年は悲しくなりました。あんなに舞い上がっていた気分が急に萎んで行きました。少年はとぼとぼと歩き、コラッジョを連れて街をでました。街のすぐそばに森があるのです。そこなら、誰も来ず静かに1人で遊べると思ったからです。少年は森の奥へと進んでいきます。すると、1匹のオオカミが地面に倒れているのを見つけました。少年は慌てて駆け寄りオオカミのお腹の傷を見つけました。なにかで切られたようにざっくりと肉が割れています。オオカミはクゥーンクゥーンと泣きながら少年に助けを求めました。使命感にかられた少年は慌てて家に帰り、裁縫道具を持ってきます。それからチクチクとオオカミのお腹を縫いました。縫い目は綺麗に出来上がります。それから傷薬を塗って、オオカミの治療は終わります。
「ありがとうございました」
オオカミは礼儀正しく、少年にお礼を言いました。
「どうしてこんな酷い怪我を負っていたの?」
少年はオオカミが心配で、怪我の理由を聞きました。
「私は元々オオカミの群れのボスだったんです、しかしつい先日仲間に裏切られ群れを追い出されてしまいました。そして先ほど運悪くクマの奴に出くわして怪我を負いました。仲間だった奴らとの喧嘩でできた傷のせいで体のうごきが鈍くて、いつもだったら難なく避けられた攻撃を食らっちまったんです」
少年はオオカミに同情し、彼の頭を撫でてやりました。オオカミは少年の手を受けいれ、気持ちよさそうに目を細めました。
「ところでさっきから気になっていたのですが」
オオカミは寝たまま首を動かし、少年が持つコラッジョをみつめました。
「そちらにいるオオカミはどなたでしょうか?」
「コラッジョのこと?コラッジョは僕の作ったぬいぐるみだよ」
「ぬいぐるみ…?よくわかりませんが全然しゃべらないんですね」
「布と綿でできたおもちゃだからね。それでも僕とコラッジョは大切な友達なんだ」
触ってみなよと、少年はコラッジョをオオカミに差し出します。オオカミは前足でちょんちょんとコラッジョをつつきました。コラッジョのお腹は柔らかくとても触り心地のいいものでした。オオカミは夢中になってコラッジョをつつきました。
「そんなに気に入ってくれた?」
少年が尋ねると、オオカミは尻尾をぶんぶん振って答えます。
「ええ!とても素晴らしい友人ですね!触るととても気持ちがいいし、私が触れても嫌がらない。おまけに喋れないから喧嘩をすることもない!」
少年はコラッジョを褒められてとても嬉しくなりました。気分が良くなった少年はオオカミにコラッジョを譲ってあげようと思いました。
「よければ、コラッジョもらってくれないかな」
「えぇ、いいんですか!」
オオカミは尻尾を振りながら、前足でコラッジョを抱きしめました。
「仲間に追い出され、本当は寂しかったんです。でもこの子がいれば私は一人ではなくなるんですね」
オオカミは少年にお礼をいって、コラッジョと共に森の奥へ消えてゆきました。

 少年は良いことをしたなと満足し、家に帰るため町の方へ歩きはじめました。ところが、そんな少年の前に一匹のキツネが姿を現しました。このキツネは森でも意地悪でセコいことで有名でして、オオカミと少年のやりとりを物陰からこっそり見ていたのです。
「そこの少年。金儲けに興味はおありかな?」
キツネが少年に話しかけました。少年は首を傾げて考えました。自分に欲しいものはないから街で買い物することはほとんどありません。お金が必要だと自分で思ったことはなかったのです。でも、お金があれば新しい生地やボタンが買えるってお母さんが言っていたし、家の生活費の足しになるかもしれないと思いました。
「あるよ。それがどうしたの?」
にやにや笑いながらキツネは少年に近づいてきます。
「いや実はねあなたの裁縫の腕を見込んでお願いがあるんですよ」
キツネが言うには、森でぬいぐるみを売る店を開かないかということ。僕がぬいぐるみを作りそれをキツネが動物たちに売る。自分たちがモチーフになったぬいぐるみは彼らには新鮮で、またさっきのオオカミの様に群れで過ごさない動物たちにとって良き友人になるだろうというのです。少年はキツネの話を真剣に聞きました。そしてとても良いアイディアだと感心しました。少年はキツネにぬいぐるみを作ることを約束し、一緒にぬいぐるみ屋さんを経営することを決意しました。
 翌日から、少年はさっそくぬいぐるみ作りに取り掛かりました。まず初めにキツネのリクエスト通りリスを作りました。裁縫に没頭し数週間かけてそれを完成させました。できあがったリスを森のキツネへ届けに行きます。キツネはそれを受け取った後、少年の手のひらに赤い実を三つ乗っけました。
「これがぬいぐるみの代金だよ」
キツネの言葉に少年は赤い実をまじまじと見つめました。そして、実を掲げて「やったー!」と喜びました。少年は自分の作品がこうして評価され、その代価を受け取るのは初めてでした。この赤い実は雀にとって食料のはずだから、人間で換算すればきっとパン三つ分の価値が自分のぬいぐるみにあったんだろうと思ったのです。
 少年は赤い実をハンカチでくるんで大事そうに持ち帰っていきました。

 まさかその後姿を、苦虫をつぶしたような顔でキツネがみていたことを知らずに。


 それから少年は以前以上にぬいぐるみ作りに没頭しました。コマドリ、フクロウ、シカ、それにクマ。たくさんのぬいぐるみを作りました。そして、キツネから代金を受け取り、喜んで次の製作に取り掛かりました。自身の行為がキツネの言っていた「お金儲け」とはちょっと違うことに気付いていましたが、それでもかまいませんでした。キツネから受け取った木苺やクルミ、蜂蜜は日々の食事を少し豪華にしてくれたので最初の目的から外れていませんでした。それに、物を作って、その報酬をもらうという行為が何より楽しかったものですから。


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