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三章 領主と領民

76.奪うより先に与えましょう

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作るべき国の姿を思いついた私の頬は、思わず緩みました。
しかし、成すべき大事の前に為すべきことがあります。
それはこの国の崩壊。
新しい物を作るためには、今あるものを壊さなくてはいけません。
真っさらな更地にこそ、新築物件は美しく建つのです。
……これは良く分からない表現ですね。
自分でも滑稽に感じます。

「どうした?何を黙っているんだ?早く教えてくれ」

「ああ、ごめんなさい。少し考え事をしていまして……」

急かすレオリーゼに、私は事もなげに言葉を返します。
話だけでも、と言われましたが正直あまり話すことはないのです。
言葉あくまで交渉の道具、です。
だから、彼女が私への敵対心を融解させた今、彼女にかける言葉はありません。
持ち合わせて、いません。
売り切れです。
だからーー

「ん?え?ええ?」

素っ頓狂な声をあげるレオリーゼさんを無視して、私は行動を開始します。
かちゃかちゃと、
かちゃりかちゃかちゃと。
彼女の拘束具の鍵穴に、太めの針金を差し込んで形を合わせていきます。

そして数秒後、がしゃん、という音とともに彼女の拘束の一つは外れました。
解錠成功です。
所詮鍵というのは開ける事を前提にした道具です。
知識と技術さえあれば、どうにでもなるのです。
私のこの技術は、フォルテシアだった時代に書物で習得し、披露する機会もなかったので、ペントレイアさんはもちろん、お父様やお兄様も知りません。
私の隠しスキルです。

「どうして、いきなり鍵を……?」

「助けてあげようと思っているーー最初にそう言ったじゃないですか。だからこうして、解錠して、貴方を自由にしているんです。残りも外すので大人しくしていてください」

私は作業を続けます。
一つ、
二つ、
三つ。

「はい、これでお終いです。これでレオリーゼさん完全復活ですね。後はここから出るだけです」

全ての拘束を解除し、彼女を解放しました。
拘束され続けた体を解きほぐすように、伸びをしています。
こうして、彼女のきちんとした全体像を見ると、なかなかに良い体をしています。
異国風に言うと、『ぼん、きゅっ、ぼん』というやつです。
私も大人になったら、こんな風になるのでしょうか?
なったところで、
いや、ならなかったところでどうもしませんけれど。

「ありが、とう」

「お礼は良いです。それよりも早くここから逃げましょう。少女の浅知恵ですみませんが、逃げる手筈はできています」

そう告げて、私はレオリーゼさんをお屋敷から外へと逃しました。
こっそりと、
ひっそりと。
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