上 下
30 / 121
二章 誘拐と叛逆

28.嘘つき令嬢と誘拐犯

しおりを挟む
私は黒い人について行きました。
あくまで、自分の意思で。

交渉の際は、先に相手にメリットを与える。
先行供与の法。
本の知識がどこまで役に立つかは分かりませんが、使える手段は使っていきましょう。

成功すれば、幸運。
失敗すれば、まあ当然。
それぐらいの感覚で。
安易に、
緩く考えましょう。

「それで、気絶もさせず、そのまま連れてくるなんて、どういう状況ですか?」

お仲間さんが黒い人に向けて言います。

「元々家出志望だったらしい。まあ、良家で年頃の娘だ。色々あるんだろう」

「ちょっと、そんな雑な理由でいいんですか?何か企んでたらどうするんですか?」

「ただの小娘に何をビビってる?何を考えても所詮、子供の浅知恵だ。どっしり構えて受けきるのが大人だろう」

「そうかもしれませんけど」

「大丈夫だ。仮にこの子が傑物だとしても、肉体は普通の子供と変わらない。血筋は金や権力は与えても、筋肉は与えない。最悪、組み伏せればそれで終わりさ」

「勢い余って殺さないでくださいよ。それこそ、戦争ものです。私たちの命がいくつあっても、贖いきれない被害が出るんですから」

「その時はその時だ。それに大丈夫だ、人は一回しか死ねない。王様でも平民でもな。何人死のうと、何万人しようと、取られる首は一つだけ、だ」

「取られるのは、先輩の首一つだけでお願いします。私のはごめんです」

コミカルなやり取り。
この人たちは誘拐犯、
悪い人たち。
だけれど、彼らは笑っている。
口元は黒い布で覆われていて、表情ははっきりとは分かりません。
ですが、声のトーンと目の雰囲気から読み取れます。

今を楽しんで過ごしている、ということが。
羨ましい、と思います。
私もこんな風に生きられたら、とも思います。
なので、このフォルテシア=マーテルロ、この作戦に全力を注ぎます。

「あの、質問いいですか?」

「なんだ?」

私は最初に会った黒い人ーー先輩と呼ばれている黒い人に声をかけます。

「私たち……より正確に言えば、このオルコット=マーテルロを攫った理由を聞きたいのですが」

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

悪役令嬢は高らかに笑う。

アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。 エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。 たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。 男爵令嬢に教えてもらった。 この世界は乙女ゲームの世界みたい。 なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。(話し方など)

革命の夜は二度来ない

白藤結
恋愛
革命が起こり、王政から民主制になった国・ブランクール共和国。 そこにやって来たのは革命を逃れた元王女・アデライド。初めて訪れる故郷に興奮していると、ある少年とぶつかってしまう。その後二人は再会し、仲を深めていくのだが―― 動き始める反革命派、それを止めようとする国の上層部。 巻き込まれた元王女の下した決断は―― ※小説家になろう、カクヨム、pixivでも公開中

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

【完結】出逢ったのはいつですか? えっ? それは幼馴染とは言いません。

との
恋愛
「リリアーナさーん、読み終わりましたぁ?」 今日も元気良く教室に駆け込んでくるお花畑ヒロインに溜息を吐く仲良し四人組。 ただの婚約破棄騒動かと思いきや・・。 「リリアーナ、だからごめんってば」 「マカロンとアップルパイで手を打ちますわ」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

処理中です...