心から信頼している友のために、磔にされたまでは良かったのですが、

11.

　危なかった。
　本当に危なかった。
　あのままいれば、
　式にまで参列していたら、確実に戻ることを躊躇していただろう。
　醜く、
　楽しく、
　幸せに生きることを選択していたことに違いない。

　自分を曲げて、
　友を捨てて、
　正義を踏み躙っていたに違いない。

　それは、死よりも恐ろしいことだ。
　自分が自分でないというのは、
　自分がこれまで守ってきたものを蔑ろにするというのは。

　私は死なねばならぬ、
　約束を守って、最後までエリオッタとして生きねばならぬ。

「すまない、愛しき妹ロゼリアよ。お前の幸せな姿を、私は天から見守っているぞ」

　エリオッタは走る。
　王都に向かって全速で。
　どうせ死ぬみ、荷物など、準備など必要なし。
　この身一つで十分だ。

　余裕はある、
　時間もある。
　だけれど、それでも、早い方がいい。
　友を苦しみから救うのだ。
　私の我儘で吊るし晒されている友を。

　思いつつ、走る。
　ただただ、走る。
　このまま何も起こらなければ、問題ない。
　私は死に、友は助かる。

　だが、
　だが、それだけだ。
　王は生き、民は虐げられたまま。
　何も変わらない。
　エリオッタが、ただただ死ぬだけだ。
　何も起こらず、予定通りに間に合えば。

「それで……いいのか？」

　エリオッタは走る速度を緩める。
　歩みは止めず、止めず考える。
　自分がしようとしていることを、
　自分が行こうとしている道がどこに続いているかを。

「私は、何のために死ぬのか」

　改めて、問いただす。