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2章 第2の婚約者
50.罰
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私は彼の形見をバルバトロスに向けて、投げつけた。
5つのリングは、バルバトロスの周りに無造作に散らばる。
それはそうだ、特に考えもなく、適当に投げたのだ。
彼を信じて、
今や首だけになってしまった彼を信じて。
散らばったリングに、特に変化はない。
ただ何も言わず、
何も起こらず、
その場にとどまっている。
「何のつもりだい?お得意の魔法を使うならまだしも、こんなゴミを投げつけるなんて。やっぱり、最愛の人との感動の再開は、胸にーーいや、心にくるものがあったのかな」
それとも、と言葉を続けつつ、バルバトロスは散らばったリングの一つを手にとる。
愚かにも、
哀れにも、
リングに手を触れてしまった。
彼が本当に全能なヒトへと進化していたならば、不用意に手を触れることはしなかっただろう。
ただ捨て置くだけで十分だったことだろう。
しかし、バルバトロスはあえて触れた。
それは、
興味故か、
単なる油断か、
それとも余裕か。
実際のところはわからない。
けれど、その何気ない『一手』、つまりは接触が致命傷となったのは、2秒と数えることもなく理解できた。
彼が触れた瞬間、無言を貫いていたリングは輝き出した。
散らばったリングも同様に。
閃光のような、目も眩む光。
それぞれが、それぞれと呼応するように輝いた。
超自然的な力が働いているような、
まるで『魔法』のように、5つのリングはバルバトロスをその光で覆い、囲む。
結界の如き、光の四角錐。
外界と彼を断絶するような、光の壁。
「え、何?どういうこと?アリシアさん、これは何?」
動揺するバルバトロスに、私は答えない。
答えるべき言葉を持ち合わせていない。
この現象が何なのか、
どういう効果の代物なのかわからない。
だが、見た目だけの虚仮威しではないことは明らかだ。
そんなものを、知のクリスティアが託す訳がない。
「答えない……というか、その顔は良く分かっていないという感じだね。いいよ、余をこんな玩具如きで封じるなんて、どうせクリスティア兄さんの策略だろうけれど。余より劣った人間が考えた策、優良種たる余が踏み砕けない道理はないっ!「
バルバトロスは光の結界から、出ようと右手を伸ばす。
しかし、バリアに弾かれるように、その手は外へと届かない。
何度繰り返すも、結果は変わらない。
弾かれる際に、その手にある程度の損傷は受けているようだが、その都度回復する。
しかし、『出られない』という状況は変わらない。
『封じる』
たしかにクリスティアさんはそう言った。
殺すのではなく、封じると。
いくら再生しようと、
いくら有能であろうと、
自身の自由が限られた……一畳程度の空間ならば、その強さは役に立たない。
体は自由でも、動ける空間に限りがあるのであれば、それは脅威になり得ない。
元々、存在を隠されていたバルバトロス=ステノンは、これからも誰にも知られることなく、この狭い空間で一生を過ごす。
老いることもなく、
死ぬこともなく、
ずっと、
ずっと、
ずっと。
それが彼への罰、
兄を殺させ、
兄を自殺に追い込んだ。
5つのリングは、バルバトロスの周りに無造作に散らばる。
それはそうだ、特に考えもなく、適当に投げたのだ。
彼を信じて、
今や首だけになってしまった彼を信じて。
散らばったリングに、特に変化はない。
ただ何も言わず、
何も起こらず、
その場にとどまっている。
「何のつもりだい?お得意の魔法を使うならまだしも、こんなゴミを投げつけるなんて。やっぱり、最愛の人との感動の再開は、胸にーーいや、心にくるものがあったのかな」
それとも、と言葉を続けつつ、バルバトロスは散らばったリングの一つを手にとる。
愚かにも、
哀れにも、
リングに手を触れてしまった。
彼が本当に全能なヒトへと進化していたならば、不用意に手を触れることはしなかっただろう。
ただ捨て置くだけで十分だったことだろう。
しかし、バルバトロスはあえて触れた。
それは、
興味故か、
単なる油断か、
それとも余裕か。
実際のところはわからない。
けれど、その何気ない『一手』、つまりは接触が致命傷となったのは、2秒と数えることもなく理解できた。
彼が触れた瞬間、無言を貫いていたリングは輝き出した。
散らばったリングも同様に。
閃光のような、目も眩む光。
それぞれが、それぞれと呼応するように輝いた。
超自然的な力が働いているような、
まるで『魔法』のように、5つのリングはバルバトロスをその光で覆い、囲む。
結界の如き、光の四角錐。
外界と彼を断絶するような、光の壁。
「え、何?どういうこと?アリシアさん、これは何?」
動揺するバルバトロスに、私は答えない。
答えるべき言葉を持ち合わせていない。
この現象が何なのか、
どういう効果の代物なのかわからない。
だが、見た目だけの虚仮威しではないことは明らかだ。
そんなものを、知のクリスティアが託す訳がない。
「答えない……というか、その顔は良く分かっていないという感じだね。いいよ、余をこんな玩具如きで封じるなんて、どうせクリスティア兄さんの策略だろうけれど。余より劣った人間が考えた策、優良種たる余が踏み砕けない道理はないっ!「
バルバトロスは光の結界から、出ようと右手を伸ばす。
しかし、バリアに弾かれるように、その手は外へと届かない。
何度繰り返すも、結果は変わらない。
弾かれる際に、その手にある程度の損傷は受けているようだが、その都度回復する。
しかし、『出られない』という状況は変わらない。
『封じる』
たしかにクリスティアさんはそう言った。
殺すのではなく、封じると。
いくら再生しようと、
いくら有能であろうと、
自身の自由が限られた……一畳程度の空間ならば、その強さは役に立たない。
体は自由でも、動ける空間に限りがあるのであれば、それは脅威になり得ない。
元々、存在を隠されていたバルバトロス=ステノンは、これからも誰にも知られることなく、この狭い空間で一生を過ごす。
老いることもなく、
死ぬこともなく、
ずっと、
ずっと、
ずっと。
それが彼への罰、
兄を殺させ、
兄を自殺に追い込んだ。
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