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2章 第2の婚約者
31.ステノン家のビジネスモデル
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バルバトロス=ステノン
次の私の婚約者、
七大名家の序列第三位、
ステノン家の三男。
私に与えられた情報はそれだけ。
加えるとするならば、醜悪な外見をしている、というところだろうか。
私はバルバトロスの写真をくしゃり、と握りつぶしながら、彼の領地へと移動中である。
今回の移動も馬車的なソレであり、運転はリヒー、お世話係としてメノウがついてきている。
前回は、アルベルトの仕切りで終始気が抜けないスタートであったが、今回は違う。
立場はどうあれ、見知った仲間たち。
裸の付き合いをした仲間たちだけの行軍である。
気の進まない話とはいえ、道中はある程度リラックスできる。
「それにしても、次はあのステノン家ですか」
「何か知っているの、メノウ?」
「多くはありませんが、多少は。私如きの知識で役に立つかは保証しかねますが、道中の退屈凌ぎとしてお聞きいただければ幸いです」
そうして、恐縮するようにメノウは話始めた。
ステノン家の、その概要をーー
ーー
「なるほどなるほど、いつもの如く分かりやすい説明をありがとう」
「いえ、お嬢様の理解力の賜物です」
そんなやりとりをしつつ、私は深いため息をついた。
事前知識を増やすということは、確かにメリットがあることだが、今回はすべきではなかったかもしれない。
対戦相手の戦歴を聞いて、萎縮するということもあるのだから。
ステノン家、七大名家の序列三番目というだけあり、その統治領域は我がラインバルト家の四倍ほどある。
現当主、バルバシリア=ステノンと次期当主候補である、武のアルバリアと知のクリスティアと評されるの双子の兄弟が支えている。
事業は農耕を中心にした一次産業で、圧倒的な人員と効率的な運用で大量の食料を生産している。その影響力は他の名家の領域にも及び、ラインバルト家もステノン家から食料を購入している。
農業、というと私たちの世界ではあまり裕福なイメージはない。
質素な食事に、貧相な家。
贅沢はせず、売った作物の余りを自分たちの食事にする。
しかしこの世界、農業大国ステノン家は違う。
他国の食料事情を牛耳ることにより、莫大な利益をあげる。
自分たちが作るより安いから、
自分たちが作るより安定的に入手できるから、
自分たちが作るより効率的だから、
そんな理由で続々とステノン家産の食料は他に侵攻していく。
一度楽な手段を覚えた人間は、これまでの生活に戻れない。
面倒な手間や、高い価格を許せない。
そうして、ステノン家なしでは生きていけなくなる。
多少価格を釣り上げても、対応し難い。
だって、自分たちでやるよりも、彼らから買った方が少なくとも今は楽で安いのだから。
こうして、ステノン家は繁栄を続ける。
特に、ステノン家そのものが。
「面白いビジネスモデルだな。元の世界でできないかな」
私は人間の愚かさを感じながら、そう思った。
次の私の婚約者、
七大名家の序列第三位、
ステノン家の三男。
私に与えられた情報はそれだけ。
加えるとするならば、醜悪な外見をしている、というところだろうか。
私はバルバトロスの写真をくしゃり、と握りつぶしながら、彼の領地へと移動中である。
今回の移動も馬車的なソレであり、運転はリヒー、お世話係としてメノウがついてきている。
前回は、アルベルトの仕切りで終始気が抜けないスタートであったが、今回は違う。
立場はどうあれ、見知った仲間たち。
裸の付き合いをした仲間たちだけの行軍である。
気の進まない話とはいえ、道中はある程度リラックスできる。
「それにしても、次はあのステノン家ですか」
「何か知っているの、メノウ?」
「多くはありませんが、多少は。私如きの知識で役に立つかは保証しかねますが、道中の退屈凌ぎとしてお聞きいただければ幸いです」
そうして、恐縮するようにメノウは話始めた。
ステノン家の、その概要をーー
ーー
「なるほどなるほど、いつもの如く分かりやすい説明をありがとう」
「いえ、お嬢様の理解力の賜物です」
そんなやりとりをしつつ、私は深いため息をついた。
事前知識を増やすということは、確かにメリットがあることだが、今回はすべきではなかったかもしれない。
対戦相手の戦歴を聞いて、萎縮するということもあるのだから。
ステノン家、七大名家の序列三番目というだけあり、その統治領域は我がラインバルト家の四倍ほどある。
現当主、バルバシリア=ステノンと次期当主候補である、武のアルバリアと知のクリスティアと評されるの双子の兄弟が支えている。
事業は農耕を中心にした一次産業で、圧倒的な人員と効率的な運用で大量の食料を生産している。その影響力は他の名家の領域にも及び、ラインバルト家もステノン家から食料を購入している。
農業、というと私たちの世界ではあまり裕福なイメージはない。
質素な食事に、貧相な家。
贅沢はせず、売った作物の余りを自分たちの食事にする。
しかしこの世界、農業大国ステノン家は違う。
他国の食料事情を牛耳ることにより、莫大な利益をあげる。
自分たちが作るより安いから、
自分たちが作るより安定的に入手できるから、
自分たちが作るより効率的だから、
そんな理由で続々とステノン家産の食料は他に侵攻していく。
一度楽な手段を覚えた人間は、これまでの生活に戻れない。
面倒な手間や、高い価格を許せない。
そうして、ステノン家なしでは生きていけなくなる。
多少価格を釣り上げても、対応し難い。
だって、自分たちでやるよりも、彼らから買った方が少なくとも今は楽で安いのだから。
こうして、ステノン家は繁栄を続ける。
特に、ステノン家そのものが。
「面白いビジネスモデルだな。元の世界でできないかな」
私は人間の愚かさを感じながら、そう思った。
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