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2章 第2の婚約者
28.猛獣と猛獣使い
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つもりだった。
一撃で、
一瞬で、
一振りで、
ゴットファザを先の火龍同様、滅したと思った。
だが、現実はそうではなかった。
私の視界には、彼の姿はそのまま、半裸でステテコパンツを着こなして佇んでいる。
やれやれと、
愚かなと、
私を哀れむように立っている。
「儂相手に魔法を打つとは。アルベイスとの契約で、儂への攻撃は全て無力化されると説明したばかりだろうに」
え、そんな情報聞いてないよ!
あ、私寝てたからか。
まさか、意識を外している間にそんな重要事項を織り込んでくるとは。
「ならば、この話も聞き漏らしている可能性があるな」
淡々と告げると、彼は右手を振り上げーーゆっくりとした動作で振り下ろした。
それに何の意味があるのか、
それに何の目的があるのか、
私には理解できっ……
息が、
呼吸がっ……
意識がーー
「というように、生殺与奪の権は儂が握っている。首輪はちゃんと嵌めてあるのだよ。噛みつかれるぬように、な」
ふわっと、呼吸が取り戻せる。
体の感覚が戻る。
「ーーくそじじぃがっ!」
「そこまで吼える元気があるなら、安心よな。儂もこの手法は使ったことがなくてな。手元が狂ったり止めるのが遅ければ、貴様の命をうっかり奪ってしまうかもしれぬ。故に、あまり使いたくないのだよ」
ゴットファザは不敵に笑みを浮かべながら言う。
猛獣を従えるには、別段それよりも強力な力を自身が持つ必要はない。
猛獣にとって大切なものを、いつでも奪えるようにしておけば、逆らうことは滅多にない。
つまりはそういうことか。
「ここはお互いに平和的に行こう。儂も本来は暴力や虐殺は嫌いなのだ」
「そんなムキムキの体をしていて、よく言うよ」
「これは護身用だ。降りかかる火の粉は払わねばならぬからな。それに自身の肉体も満足に従わせられない男が、臣民を統べる王になど、なることは叶わぬ。まずは自分、肉体から。この初心こそが我がアルバート家の家訓の一つ」
「そんな武闘派な教え、私は知りませんけどね」
「それはそうだ。貴様とアリシアの間には記憶の共有はないのだからな。だが、貴様の艶やかな肢体から分かるよう、アリシアにはそう言った肉体的教育は施していない。あくまで後付けの、魔法的強化だけだ」
「へぇ、娘には甘いんですね。そう言う所はお父様なんですね」
「愚かな、その程度の考えで儂を語るな。確かに、我が娘アリシアへの甘さが全くなかった、と言えば嘘になるがな。だが、本質は別のところにある。儂は現実主義者、貴様の世界で言う『りありすと』というやつだ」
ゴットファザは、慣れない横文字を使った。
イントネーションが少しおかしい。
若者文化を得意げに語る哀れな老人のよう。
だが、その老人が私の生殺与奪の権利を握っている。
指先一つ、
赤子の手をひねるように、
時間をかけず、私の命を奪える。
逆らい難い、この状況。
華麗なる転生も、術者ーーこの場合は関係者だが、それ相手にはただただ無力だ。
上に上がいる、いや、単純に相性の問題か。
食物連鎖の頂点にいるはずの人類が、蜂に刺されて死ぬことがあるように、
勝利条件を相手に満たされてしまえば、無闇に手を出すことができない。
あぁ、困ったな。
一撃で、
一瞬で、
一振りで、
ゴットファザを先の火龍同様、滅したと思った。
だが、現実はそうではなかった。
私の視界には、彼の姿はそのまま、半裸でステテコパンツを着こなして佇んでいる。
やれやれと、
愚かなと、
私を哀れむように立っている。
「儂相手に魔法を打つとは。アルベイスとの契約で、儂への攻撃は全て無力化されると説明したばかりだろうに」
え、そんな情報聞いてないよ!
あ、私寝てたからか。
まさか、意識を外している間にそんな重要事項を織り込んでくるとは。
「ならば、この話も聞き漏らしている可能性があるな」
淡々と告げると、彼は右手を振り上げーーゆっくりとした動作で振り下ろした。
それに何の意味があるのか、
それに何の目的があるのか、
私には理解できっ……
息が、
呼吸がっ……
意識がーー
「というように、生殺与奪の権は儂が握っている。首輪はちゃんと嵌めてあるのだよ。噛みつかれるぬように、な」
ふわっと、呼吸が取り戻せる。
体の感覚が戻る。
「ーーくそじじぃがっ!」
「そこまで吼える元気があるなら、安心よな。儂もこの手法は使ったことがなくてな。手元が狂ったり止めるのが遅ければ、貴様の命をうっかり奪ってしまうかもしれぬ。故に、あまり使いたくないのだよ」
ゴットファザは不敵に笑みを浮かべながら言う。
猛獣を従えるには、別段それよりも強力な力を自身が持つ必要はない。
猛獣にとって大切なものを、いつでも奪えるようにしておけば、逆らうことは滅多にない。
つまりはそういうことか。
「ここはお互いに平和的に行こう。儂も本来は暴力や虐殺は嫌いなのだ」
「そんなムキムキの体をしていて、よく言うよ」
「これは護身用だ。降りかかる火の粉は払わねばならぬからな。それに自身の肉体も満足に従わせられない男が、臣民を統べる王になど、なることは叶わぬ。まずは自分、肉体から。この初心こそが我がアルバート家の家訓の一つ」
「そんな武闘派な教え、私は知りませんけどね」
「それはそうだ。貴様とアリシアの間には記憶の共有はないのだからな。だが、貴様の艶やかな肢体から分かるよう、アリシアにはそう言った肉体的教育は施していない。あくまで後付けの、魔法的強化だけだ」
「へぇ、娘には甘いんですね。そう言う所はお父様なんですね」
「愚かな、その程度の考えで儂を語るな。確かに、我が娘アリシアへの甘さが全くなかった、と言えば嘘になるがな。だが、本質は別のところにある。儂は現実主義者、貴様の世界で言う『りありすと』というやつだ」
ゴットファザは、慣れない横文字を使った。
イントネーションが少しおかしい。
若者文化を得意げに語る哀れな老人のよう。
だが、その老人が私の生殺与奪の権利を握っている。
指先一つ、
赤子の手をひねるように、
時間をかけず、私の命を奪える。
逆らい難い、この状況。
華麗なる転生も、術者ーーこの場合は関係者だが、それ相手にはただただ無力だ。
上に上がいる、いや、単純に相性の問題か。
食物連鎖の頂点にいるはずの人類が、蜂に刺されて死ぬことがあるように、
勝利条件を相手に満たされてしまえば、無闇に手を出すことができない。
あぁ、困ったな。
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