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2章 第2の婚約者
19.二人の愛の巣
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「ほほぅ、これは、これはーー」
メノウに案内された部屋は、中々に刺激的だった。
私の自室のアンティークかつ高級感ある雰囲気とは真逆。
鎖や手枷がインテリアの若く壁に彩られ、
鞭や荒縄が無造作に放置され、
三角木馬や鉄の処女といった拷問器具がアクセントに飾られ、
ユダのゆりかご、ファラリスの雄牛といった少しマニアックな類のアイテムも取り揃えられている。
「ここが、お嬢様とアルベルト様の愛の巣になります。私は小一時間程外しおりますので、存分にお楽しみください。何かご用の際は、そこのボタンでお呼びください。すぐに駆けつけます」
メノウはそう告げると、リヒーを連れてすたすたと去っていった。
部屋には私とアルベルトだけが残された。
「さて、では二人の時間を楽しみましょうか。アルベルト様♪」
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ……僕は痛いのは嫌いなんだぁー!」
駄々をこねる子供のように、じたばたするアルベルトを引きずりながら、部屋の奥へと入っていく。
薄い灯に照らされて室内は、どこか背徳感をかきたてる。
「大丈夫です。痛いのは最初だけですから、たぶん」
「そんなわけないだろっ、痛いものはずっと痛いよっ!」
「ぴーぴー叫んでねぇで、さっさと来いや」
ひぃぇえと、聞こえてくる情けない声を無視し、連行作業を完了する。
恐怖と不安に歪むアルベルトの表情を、心の底から楽しみつつ、私は笑う。
「もう、あなたに拒否権はないんです。あなたの命は私の手のひら上ーー活かすも殺すも愛するも痛めつけるも、気分次第。ほら、ぎゃーぎゃー騒ぐ余裕があったら媚び諂い方でも思考しなさい。今の自分が生き残るためには何をすべきか、今の自分にとって最良の選択肢は何か、知恵を振り絞りなさい」
手近な椅子に座り、地に伏しているアルベルト見下ろす。
お嬢様、というより女王様な気分。
「アルベルト=アルバート。あなたは領民からの期待の厚い、自他共にみとめるアルバート家の次期当主。ーーならば、この状況を打開する手段の一つや二つ、思いつけなくてどうするのですか?」
嘲笑しつつ、私は続ける。
見上げられる悦びを感じながら、
圧倒的優位の快楽に酔いしれながら。
「そんなこと情けない姿では、私の方から婚約破棄してしまいますよ?」
ふふっと、声が漏れるのを感じた。
視界の端に、大鏡に反射する自身の姿を捉えた。
ブロンド髪の、美しい女性。
その女性は笑っている。
弱者を前にして笑っている。
造形が美しい分、その笑顔は余計に歪に感じる。
あぁ、私って醜いな。
メノウに案内された部屋は、中々に刺激的だった。
私の自室のアンティークかつ高級感ある雰囲気とは真逆。
鎖や手枷がインテリアの若く壁に彩られ、
鞭や荒縄が無造作に放置され、
三角木馬や鉄の処女といった拷問器具がアクセントに飾られ、
ユダのゆりかご、ファラリスの雄牛といった少しマニアックな類のアイテムも取り揃えられている。
「ここが、お嬢様とアルベルト様の愛の巣になります。私は小一時間程外しおりますので、存分にお楽しみください。何かご用の際は、そこのボタンでお呼びください。すぐに駆けつけます」
メノウはそう告げると、リヒーを連れてすたすたと去っていった。
部屋には私とアルベルトだけが残された。
「さて、では二人の時間を楽しみましょうか。アルベルト様♪」
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ……僕は痛いのは嫌いなんだぁー!」
駄々をこねる子供のように、じたばたするアルベルトを引きずりながら、部屋の奥へと入っていく。
薄い灯に照らされて室内は、どこか背徳感をかきたてる。
「大丈夫です。痛いのは最初だけですから、たぶん」
「そんなわけないだろっ、痛いものはずっと痛いよっ!」
「ぴーぴー叫んでねぇで、さっさと来いや」
ひぃぇえと、聞こえてくる情けない声を無視し、連行作業を完了する。
恐怖と不安に歪むアルベルトの表情を、心の底から楽しみつつ、私は笑う。
「もう、あなたに拒否権はないんです。あなたの命は私の手のひら上ーー活かすも殺すも愛するも痛めつけるも、気分次第。ほら、ぎゃーぎゃー騒ぐ余裕があったら媚び諂い方でも思考しなさい。今の自分が生き残るためには何をすべきか、今の自分にとって最良の選択肢は何か、知恵を振り絞りなさい」
手近な椅子に座り、地に伏しているアルベルト見下ろす。
お嬢様、というより女王様な気分。
「アルベルト=アルバート。あなたは領民からの期待の厚い、自他共にみとめるアルバート家の次期当主。ーーならば、この状況を打開する手段の一つや二つ、思いつけなくてどうするのですか?」
嘲笑しつつ、私は続ける。
見上げられる悦びを感じながら、
圧倒的優位の快楽に酔いしれながら。
「そんなこと情けない姿では、私の方から婚約破棄してしまいますよ?」
ふふっと、声が漏れるのを感じた。
視界の端に、大鏡に反射する自身の姿を捉えた。
ブロンド髪の、美しい女性。
その女性は笑っている。
弱者を前にして笑っている。
造形が美しい分、その笑顔は余計に歪に感じる。
あぁ、私って醜いな。
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