上 下
18 / 68
1章 転生と初めての婚約破棄

18.主従関係

しおりを挟む
リヒーから『ドキッ、火龍様への生贄計画』の全貌を聞いた。
この世界の使用人は、説明スキルが高いのかとても分かりやすく頭に入ってきた。

「なるほどなるほど。つまりはこのクソ次期当主様は私を除く他の婚約者『候補』を全てあのどすけべドラゴンに提出済み。だが、彼女たちはすぐに燃え尽きて、全部消し炭になってしまって困っていた。そんな折、美しく強靭な肉体と人外の力を持つお嬢様である私の噂を耳にして本計画を立案・実行。それで今に至る、ということか」

本当に最悪だな、このクソイケメン。
よくその状況で私に強気に出ていたものだ。
その面の皮の厚さと外見の造形美だけは賞賛に値する。
来世では結婚詐欺にでも邁進するがいい、次もその姿を引き継げれば、の話だがな。

私のように醜いかもしれないし、
人間ではないかもしれないし、
動物ですらないかもしれないし
生物にさえなれないかもしれないし、

そもそも、そんな生まれ変わりなんてものがあるのかさえ、貴様にもわたしにも分かりはしないのだけれど。

「左様でございます。端的なご理解、流石にございます」

「いや、褒めるな。君の説明が優秀なだけだ。誇るべきは君のほうだ。こんなクソの下で働くのはもったいない。是非とも私の下につけたいところだ」

しんの主人は、アルベルト様なので」

「そうか。では、彼が万が一死んでしまった時にどうするか考えておいてくれ。無論、これは私が彼を殺してしまう、ということではないから誤解しないでくれ」

「はい、アリシア様の御寛大さについては重々理解しております」

深々とリヒーは頭を下げる。

「本来なら、命を奪いさらには貴方様の女性としての尊厳まで奪おうとしていた我々をこうして生かしーー剰え人としての扱いまでして頂いている。こんなに美しく、お優しい方は初めてです」

こいつのことは人間扱いしていないけどな、とげしげしと再度アルベルトを蹴飛ばした。

「アルベルト様をどう扱うか、それはアリシア様の自由意思です。臣如きが口を挟める案件ではありません」

「そう、それを聞いて安心したよ。無意味に嫌われたり、恨まれたりすることは本意ではない。無関心か、あるいは好かれる方がずっといい。まあ、当然だろうがな」

「それならば問題ありません。その容姿、その器量を持つアリシア様を嫌い憎むものなのどこの世にいるはずはないのですから」

「生贄にしようとした奴はいたがな」

皮肉っぽく、私は言う。
リヒーは苦笑しながら「そこは返す言葉がありませんね」と答えた。

ーー

「お嬢様、そろそろお屋敷に到着します」

「ありがとうメノウ。運転お疲れ様」

リヒーと楽しく雑談を交わしている内に、我が家に到着したようだ。
住み慣れた場所でもなく、まだ肌感感覚で2日目の家だけれど、何故か安心する。
実家が一番、というやつなのか。
家というよりは『屋敷』だし、
私のではなく『ラインバルト家』のものではあるが。

「おい、さっさと立て」

げしりと、アルベルトを蹴り起こす。
そして、馬車的なものから外へと蹴り倒す。
我ながら足癖が悪い。お嬢様らしかぬ所作。お父様が見ていたら、どう思うだろうか。

「ここが今日からアルベルト様の第二の家になるんですよ。お気に召しましたか?」

嫌味のように、お嬢様風口調に戻す。

「それはもちろん!あぁ、大きくて凄いな!」

乾いた感想を彼は口にする。

「喜んでいただけているようで、幸いですわ」

私は、口角を吊り上げ、シニカルに笑う。

「二人で、『楽しく』て『幸せ』な家庭と領地を築きましょうね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった

華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。 でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。  辺境伯に行くと、、、、、

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

婚約破棄された公爵令嬢は、真実の愛を証明したい

香月文香
恋愛
「リリィ、僕は真実の愛を見つけたんだ!」 王太子エリックの婚約者であるリリアーナ・ミュラーは、舞踏会で婚約破棄される。エリックは男爵令嬢を愛してしまい、彼女以外考えられないというのだ。 リリアーナの脳裏をよぎったのは、十年前、借金のかたに商人に嫁いだ姉の言葉。 『リリィ、私は真実の愛を見つけたわ。どんなことがあったって大丈夫よ』 そう笑って消えた姉は、五年前、首なし死体となって娼館で見つかった。 真実の愛に浮かれる王太子と男爵令嬢を前に、リリアーナは決意する。 ——私はこの二人を利用する。 ありとあらゆる苦難を与え、そして、二人が愛によって結ばれるハッピーエンドを見届けてやる。 ——それこそが真実の愛の証明になるから。 これは、婚約破棄された公爵令嬢が真実の愛を見つけるお話。 ※6/15 20:37に一部改稿しました。

異世界最速の魔王討伐 ~転生幼女と美少女奴隷の隠されたミッション~

月城 友麻
ファンタジー
 異世界転生を果たした男子高校生の主人公。しかし、身体は幼女で、与えられたスキルは『即死』。意味も分からず『魔王Death!』と叫んでみたら……。  襲いかかってくる魔王軍に奴隷の美少女悪魔。その裏で画策する可愛い大天使。そのドタバタ劇の裏で主人公には『若返り』の呪いが進行していく。  受精卵にまで若返る前に主人公は呪いを解くことができるのか!?  健気で天然な美少女悪魔と最強幼女は未来をつかむために奔走する。そして見えてきたとんでもない異世界の真実とは?  面白さてんこ盛りの冒険物語です。ぜひ、お楽しみください(´▽`*)

転生聖女、求婚を断る

桐原まどか
恋愛
もうイヤ。もうお断り。

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

突然の婚約破棄!!〜転生令嬢の選択・・・・

ロク
恋愛
前世を思い出したのは、冤罪で婚約破棄されている時でした。混乱の中、マリアンヌが導き出した答えは・・・・

処理中です...