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1章 転生と初めての婚約破棄

8.初めての魔法

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「お嬢様、魔法のことをお忘れのようでしたが、一度試し打ちでも行ってみては如何ですか?」

メノウは私に促すと、手近な窓を開ける。
人の気配の無い、木々が生い茂る山々が見える。
……ここに放て、と?
火龍さえ余裕で滅ぼしてしまえるような魔法を、この罪の無い山に放て、と?

「どうなさいましたか?お嬢様の魔法は特殊です。小難しい詠唱や構えは不要。いつものように、こうーー指をくいっとやるだけでいいのです」

メノウは人差し指で円を描くようにくいっとやった。
いや、そんな感覚的な教え方されても。

「もしかして、お嬢様の試し打ちの栄誉にあずかる、あの山のご心配をしておられるのですか?」

「それはそうだろう。威力も範囲も現時点では制御不能なのだ。あの山を全て焼き払う可能性だってありうる」

「その時は、その時です。大丈夫です。山も人と同じ。時間が経てば元に戻ります」

私の問いにメノウはそう爽やかに答える。
彼女の価値観はかなり特殊なようだ。
あるいは、私との身分の違いによるものかもしれないが。

山の今後について議論を重ねても、先はなさそうなので、ため息混じりに窓辺へと歩く。
ごめんな、山。
私は心の中で少し謝って指をくいっと回した。
攻撃的なイメージを、
山が爆ぜるイメージを、
頭の中で描きながら。

瞬きするのとほぼ同時。
ばすん、
ばすん、
ばすっ。
短く何が爆ぜる音。
刹那に繰り返すこと三回、
一瞬の視界のクローズ&オープンで世界は一変していた。

「お見事です。流石はお嬢様」

先程までの木々が無残に爆散し、
山には複数のクレーターが残されていた。

「これ程までとは……我が事ながら恐ろしい力だな」

「いえ、国のため、お嬢様ご自身のために行使される御力。恐ろしくなどございません。正義かつ高貴な力です」

「力にそんな高尚な言葉を加えても、使われる側にとってはどうでもいいことだろうがな」

「そうですね。下々の者が、お嬢様含め高位の方々の御心を理解することなど、困難ですからね」

メノウの言葉に、私は「そうかもな」と短く答えた。
理解する暇などないだろう。
考える暇も与えず、
一撃の、
一瞬の内に焼き尽くす。
そんな暴力的な魔法。
それを指先一つで扱えてしまえる人間の心なんて、誰が理解できようか。

私の中に渦巻くこの感情を、私自身、うまく理解することができていないのだから。
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