8 / 68
1章 転生と初めての婚約破棄
8.初めての魔法
しおりを挟む
「お嬢様、魔法のことをお忘れのようでしたが、一度試し打ちでも行ってみては如何ですか?」
メノウは私に促すと、手近な窓を開ける。
人の気配の無い、木々が生い茂る山々が見える。
……ここに放て、と?
火龍さえ余裕で滅ぼしてしまえるような魔法を、この罪の無い山に放て、と?
「どうなさいましたか?お嬢様の魔法は特殊です。小難しい詠唱や構えは不要。いつものように、こうーー指をくいっとやるだけでいいのです」
メノウは人差し指で円を描くようにくいっとやった。
いや、そんな感覚的な教え方されても。
「もしかして、お嬢様の試し打ちの栄誉にあずかる、あの山のご心配をしておられるのですか?」
「それはそうだろう。威力も範囲も現時点では制御不能なのだ。あの山を全て焼き払う可能性だってありうる」
「その時は、その時です。大丈夫です。山も人と同じ。時間が経てば元に戻ります」
私の問いにメノウはそう爽やかに答える。
彼女の価値観はかなり特殊なようだ。
あるいは、私との身分の違いによるものかもしれないが。
山の今後について議論を重ねても、先はなさそうなので、ため息混じりに窓辺へと歩く。
ごめんな、山。
私は心の中で少し謝って指をくいっと回した。
攻撃的なイメージを、
山が爆ぜるイメージを、
頭の中で描きながら。
瞬きするのとほぼ同時。
ばすん、
ばすん、
ばすっ。
短く何が爆ぜる音。
刹那に繰り返すこと三回、
一瞬の視界のクローズ&オープンで世界は一変していた。
「お見事です。流石はお嬢様」
先程までの木々が無残に爆散し、
山には複数のクレーターが残されていた。
「これ程までとは……我が事ながら恐ろしい力だな」
「いえ、国のため、お嬢様ご自身のために行使される御力。恐ろしくなどございません。正義かつ高貴な力です」
「力にそんな高尚な言葉を加えても、使われる側にとってはどうでもいいことだろうがな」
「そうですね。下々の者が、お嬢様含め高位の方々の御心を理解することなど、困難ですからね」
メノウの言葉に、私は「そうかもな」と短く答えた。
理解する暇などないだろう。
考える暇も与えず、
一撃の、
一瞬の内に焼き尽くす。
そんな暴力的な魔法。
それを指先一つで扱えてしまえる人間の心なんて、誰が理解できようか。
私の中に渦巻くこの感情を、私自身、うまく理解することができていないのだから。
メノウは私に促すと、手近な窓を開ける。
人の気配の無い、木々が生い茂る山々が見える。
……ここに放て、と?
火龍さえ余裕で滅ぼしてしまえるような魔法を、この罪の無い山に放て、と?
「どうなさいましたか?お嬢様の魔法は特殊です。小難しい詠唱や構えは不要。いつものように、こうーー指をくいっとやるだけでいいのです」
メノウは人差し指で円を描くようにくいっとやった。
いや、そんな感覚的な教え方されても。
「もしかして、お嬢様の試し打ちの栄誉にあずかる、あの山のご心配をしておられるのですか?」
「それはそうだろう。威力も範囲も現時点では制御不能なのだ。あの山を全て焼き払う可能性だってありうる」
「その時は、その時です。大丈夫です。山も人と同じ。時間が経てば元に戻ります」
私の問いにメノウはそう爽やかに答える。
彼女の価値観はかなり特殊なようだ。
あるいは、私との身分の違いによるものかもしれないが。
山の今後について議論を重ねても、先はなさそうなので、ため息混じりに窓辺へと歩く。
ごめんな、山。
私は心の中で少し謝って指をくいっと回した。
攻撃的なイメージを、
山が爆ぜるイメージを、
頭の中で描きながら。
瞬きするのとほぼ同時。
ばすん、
ばすん、
ばすっ。
短く何が爆ぜる音。
刹那に繰り返すこと三回、
一瞬の視界のクローズ&オープンで世界は一変していた。
「お見事です。流石はお嬢様」
先程までの木々が無残に爆散し、
山には複数のクレーターが残されていた。
「これ程までとは……我が事ながら恐ろしい力だな」
「いえ、国のため、お嬢様ご自身のために行使される御力。恐ろしくなどございません。正義かつ高貴な力です」
「力にそんな高尚な言葉を加えても、使われる側にとってはどうでもいいことだろうがな」
「そうですね。下々の者が、お嬢様含め高位の方々の御心を理解することなど、困難ですからね」
メノウの言葉に、私は「そうかもな」と短く答えた。
理解する暇などないだろう。
考える暇も与えず、
一撃の、
一瞬の内に焼き尽くす。
そんな暴力的な魔法。
それを指先一つで扱えてしまえる人間の心なんて、誰が理解できようか。
私の中に渦巻くこの感情を、私自身、うまく理解することができていないのだから。
0
お気に入りに追加
459
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました
小倉みち
恋愛
7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。
前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。
唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。
そして――。
この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。
この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。
しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。
それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。
しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。
レティシアは考えた。
どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。
――ということは。
これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。
私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。
霜月零
恋愛
私は、ある日思い出した。
ヒロインに、悪役令嬢たるお姉様が言った一言で。
「どうして、このお茶会に平民がまぎれているのかしら」
その瞬間、私はこの世界が、前世やってた乙女ゲームに酷似した世界だと気が付いた。
思い出した私がとった行動は、ヒロインをこの場から逃がさない事。
だってここで走り出されたら、婚約者のいる攻略対象とヒロインのフラグが立っちゃうんだもの!!!
略奪愛ダメ絶対。
そんなことをしたら国が滅ぶのよ。
バッドエンド回避の為に、クリスティーナ=ローエンガルデ。
悪役令嬢の妹だけど、前世の知識総動員で、破滅の運命回避して見せます。
※他サイト様にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる