CATHEDRAL

衣夜砥

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1 重き伝統

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 エドアルドは踵を返すと、まっすぐに書斎を出て、通路を挟んだ斜め前の階段を下りた。何か夢中になれることに打ち込まねば、落ちた気分はそう簡単にきりかわりそうにない。
 城の階下への階段は、二階分を降りたところで通路が開けて、三手に分かれる。味気ない蛍光灯が並んでいる廊下を右に曲がった。
 城の地上階の城の内装は、豪奢なシャンデリアや高級インテリアが溢れかえっているが、地下のここは全ての設えが簡素で、さながら研究所か病院のようだ。書斎より五度は低い冷え冷えとした廊下を、エドアルドの靴が無機質な音をたてる。書斎で寝ている間に汗をかいていたのだろう、背中や首元で汗が乾くときの冷たい感覚がした。
 トレーニングルームの先、廊下の一番奥に、目的の場所はあった。
 『射撃訓練室』と印刷されたプレートが取り付けてある。
 防音処理が施された重いドアを開けると、強い白色の室内灯が自動で点く。これでドアの外にある標識も「使用中」に赤く点灯したはずである。
 ジブリオ家の手の者たちなら誰でも、自由に射撃訓練ができる部屋だった。思い立ったときに空いているとは限らないので使用は予約制だが、空いていたのは幸運だった。
 ジブリオ家はマフィアではない。
 しかしその莫大な資産と名門ならではの影響力を面白く思わない組織はイタリア国内に数多く存在し、当主であるエドアルドは幼いころから暗殺対策と自己防衛のための射撃訓練を怠らないでいた。
 射撃訓練室には腰の高さほどの発射台が手前にあり、その奥に三十メートルの射程をとって、人間大の的が三台立っている。空気はぴんと張り詰め、エドアルドはここに佇むだけで、澄んだ緊張感に包まれる。
(不毛な恋への苦悩を忘れるには、もってこいの場所だな)
 軽く自嘲しながら発射台前の左手を進んで、奥の扉を開けた。
 奥の間には、巨大なガラスケースが壁に取り付けられており、ずらりと並んだピストルが手に取られるのを待っている。下段にはライフルが十数挺並べられていた。
 お気に入りのリヴォルバー『コルトローマン』と、オートマチックの『グロック17』の二つを手に取る。手入れされ、丁寧に磨かれたそれらは、従順さを装ってエドアルドの手中におとなしく納まった。
 どちらが好きかと問われれば、不発や弾詰まりのないリヴォルバーと迷わずに答えるが、すばやく射撃できるという手軽さを考えるとオートマチック銃も捨てがたい。結局、いざというときにどちらも使いこなせねば実戦に役立たない。
 発射台に戻ると耳栓をつけ、まずは射程距離を5メートルに設定した。至近距離での実戦を想定した距離だ。コンピューターで管理された的が、ぐんと近づいて止まる。
 リヴォルバーを手に取り、弾を装てんする。装弾数は六発。
 コルトローマンは小型ながらマグナム弾が使用できる優れたピストルだ。今エドアルドが込めた弾も、.357マグナム弾薬。撃たれた生物を行動不能にするストッピングパワーが並外れて優れている。
 六十年代に作られたコルトローマンは渋い形状をしているが、エドアルドが手にしているものは茶色のグリップが美しい拳銃だ。人を殺すための道具だが、それ以上に鑑賞的価値が高い。
 右手で側板深くグリップを握ると、トリガーに人差し指を掛けた。
 台尻に左手を当て、右手をしっかりと包みこんで支える。そのまま腕を伸ばし、下半身の重心を落とす。利き目に集中し、後部照準装置リアサイトの谷間から先端照準装置フロントサイトを覗き、人型の的に狙いを定めた。
 ゾクゾクする瞬間だ。体の芯から熱湯が沸き立ってくるような感覚がする。
 トリガーを引く。ダブルアクション。反動が腕から体へとつきぬけた。
 爆音と共に、的の心臓部分に穴が開く。
 ダブルアクションではトリガーを最後まで引ききらねば弾は発射されない。引ききることで撃鉄が倒れ、弾が発射される。そのぶんトリガーを引くという動作に固い決意が要求される。半端な気持ちでは撃ちそこなう。そこが面白い。
 狙いを崩してからもう一発。体勢を変えて二発。片手で二発。計六発。穴は心臓付近に固まり、ほぼ一点に集中していた。満足な出来栄えだ。
 続けて的を替え、二十メートル先へ。同じように六発射撃すると、さすがに弾の貫通は的の上半身の心臓付近ではあるものの、かなりのばらつきがあった。
 的を5メートルに戻し、今度はグロック17を手にする。
 リヴォルバーの後のオートマチックは暴発させやすい。発射する直前まで人差し指は前に伸ばしておき、トリガーには掛けない。早撃ちを想定し、体を横に向ける。弾倉マガジンを装填して、すぐに片手撃ちで連打した。こちらもダブルアクションで最後まで引ききる。的の心臓部の、ほぼ一点を抜けながら弾が貫通した。
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