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第三章
2004年 ニューヨーク ブルックリン
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アレンは今や「プロジェクト」の子どもたちをまとめる存在になっていた。17歳の彼は、まるでブルックリンの孤児たちのリーダーだった。彼は、秩序が崩れやすい集団にルールを定め、安定をもたらした。
「いいか、俺は殺しだけは絶対に許さねぇ。どんな人間でも、死んだら悲しむ奴がいるんだ。そう信じたいんだよ」
強く、美しいアレンにはカリスマ性があり、彼の言葉は周囲を動かす力を持っていた。誰もが彼を信奉し、従っていた。
俺もまた、幼い頃からアレンに惹かれていた。それは、恋愛感情に近い、抑えきれない感情だった。
俺は貯めた金で手に入れた中古のエレキギターに夢中だった。俺たちには大きな夢があった。音楽で成功し、金を手に入れること。それが俺たちの共通の夢だった。アレンがボーカル、チャンがピアノ、俺がギター、そしてボブがドラムを担当していた。俺たちはライブハウスや野外フェスで少しずつステージを重ね、夢に近づいていると信じていた。
だが、順調な時ほど落とし穴は不意に現れる。
両親は食材の買い出しに出かけた帰り道、交通事故に遭い、即死した。大型トラックとの衝突だった。
貧しい中でも、父さんと母さんは俺を一生懸命に育ててくれた。俺が不自由なく生きられるようにと願ってくれていた二人が、突然いなくなった。アメリカにいる俺は、この地で日本人として生きるべきなのか、それともアメリカ人として生きるべきなのか、完全に迷ってしまった。
葬儀にはカリフォルニアに住む綾子おばさんが来て、彼女の家族と一緒に暮らさないかと誘われたが、俺は断った。
60年前にアメリカに渡った祖父母は、日本に戻りたいと願いながらも、それを果たすことなくこの地で亡くなった。日本に一度も行ったことのない父さんと母さんは、祖母に教わった料理を守り、日本料理店を営んでいた。俺はその店で育った。父さんと母さんの夢、そして祖父母の想いを背負い、いつか日本に行く。墓前でそう誓った。
アレンとチャンが黙って俺の肩に手を置いた。二人は何も言わず、ただ俺の隣に立ってくれていた。俺にはもう家族はいない。だが、今は仲間がいる。
「おじさんとおばさん、俺たちにいつも美味しいご飯を作ってくれたよな」
チャンの穏やかな声が耳に響く。その声は、どんな時も俺の心を落ち着かせてくれた。アレンもチャンも、ボブも、みんな俺の両親の店に通っていた。
「俺たち、絶対にワールドツアーで最初に日本に行こうぜ!」
アレンが笑いながら言った。その言葉は、どこか現実的に響いた。
葬儀が終わった後、遺産の手続きで忙殺され、1週間ほどアレンやチャンとは顔を合わせることがなかった。久しぶりにアレンの部屋を訪れた時、俺は驚愕した。アレンの目の周りにはドス黒い痣があり、体にも無数の痣があった。
「一昨日、久しぶりに親父が帰ってきてさ」
アレンは淡々と言った。以前にも同じようなことがあった。アレンの父親は月に一度か二度、家に帰ってくる度にアレンや母親が家にいると暴力を振るい、金を奪って去っていく。
「この顔じゃ、仕事もできないからなぁ。痣が消えるまで家に引きこもるよ。奴に有り金全部取られたけど、みんなで貯めた金をお前に預けておいて正解だった」
俺はアレンの父親に対する怒りで、震える拳を抑えることができなかった。
アレンの父親は、若い頃田舎からニューヨークに出て、夢を追いかけた。美男子だった彼はブロードウェイのミュージカル俳優として活躍し、そこで同じく女優をしていた母親と出会い、結婚した。しかしショービジネスの世界は厳しい。人気は永遠ではない。次々に新しいスターが登場し、アレンの父も母もブロードウェイの仕事を失った。そして今ではロクデナシに成り果ててしまったのだ。
俺は、ずっと考えていたことをアレンに打ち明けた。
「アレン……俺と一緒にプロジェクトを出て暮らさないか?もちろん、チャンやボブも一緒にさ」
「いいか、俺は殺しだけは絶対に許さねぇ。どんな人間でも、死んだら悲しむ奴がいるんだ。そう信じたいんだよ」
強く、美しいアレンにはカリスマ性があり、彼の言葉は周囲を動かす力を持っていた。誰もが彼を信奉し、従っていた。
俺もまた、幼い頃からアレンに惹かれていた。それは、恋愛感情に近い、抑えきれない感情だった。
俺は貯めた金で手に入れた中古のエレキギターに夢中だった。俺たちには大きな夢があった。音楽で成功し、金を手に入れること。それが俺たちの共通の夢だった。アレンがボーカル、チャンがピアノ、俺がギター、そしてボブがドラムを担当していた。俺たちはライブハウスや野外フェスで少しずつステージを重ね、夢に近づいていると信じていた。
だが、順調な時ほど落とし穴は不意に現れる。
両親は食材の買い出しに出かけた帰り道、交通事故に遭い、即死した。大型トラックとの衝突だった。
貧しい中でも、父さんと母さんは俺を一生懸命に育ててくれた。俺が不自由なく生きられるようにと願ってくれていた二人が、突然いなくなった。アメリカにいる俺は、この地で日本人として生きるべきなのか、それともアメリカ人として生きるべきなのか、完全に迷ってしまった。
葬儀にはカリフォルニアに住む綾子おばさんが来て、彼女の家族と一緒に暮らさないかと誘われたが、俺は断った。
60年前にアメリカに渡った祖父母は、日本に戻りたいと願いながらも、それを果たすことなくこの地で亡くなった。日本に一度も行ったことのない父さんと母さんは、祖母に教わった料理を守り、日本料理店を営んでいた。俺はその店で育った。父さんと母さんの夢、そして祖父母の想いを背負い、いつか日本に行く。墓前でそう誓った。
アレンとチャンが黙って俺の肩に手を置いた。二人は何も言わず、ただ俺の隣に立ってくれていた。俺にはもう家族はいない。だが、今は仲間がいる。
「おじさんとおばさん、俺たちにいつも美味しいご飯を作ってくれたよな」
チャンの穏やかな声が耳に響く。その声は、どんな時も俺の心を落ち着かせてくれた。アレンもチャンも、ボブも、みんな俺の両親の店に通っていた。
「俺たち、絶対にワールドツアーで最初に日本に行こうぜ!」
アレンが笑いながら言った。その言葉は、どこか現実的に響いた。
葬儀が終わった後、遺産の手続きで忙殺され、1週間ほどアレンやチャンとは顔を合わせることがなかった。久しぶりにアレンの部屋を訪れた時、俺は驚愕した。アレンの目の周りにはドス黒い痣があり、体にも無数の痣があった。
「一昨日、久しぶりに親父が帰ってきてさ」
アレンは淡々と言った。以前にも同じようなことがあった。アレンの父親は月に一度か二度、家に帰ってくる度にアレンや母親が家にいると暴力を振るい、金を奪って去っていく。
「この顔じゃ、仕事もできないからなぁ。痣が消えるまで家に引きこもるよ。奴に有り金全部取られたけど、みんなで貯めた金をお前に預けておいて正解だった」
俺はアレンの父親に対する怒りで、震える拳を抑えることができなかった。
アレンの父親は、若い頃田舎からニューヨークに出て、夢を追いかけた。美男子だった彼はブロードウェイのミュージカル俳優として活躍し、そこで同じく女優をしていた母親と出会い、結婚した。しかしショービジネスの世界は厳しい。人気は永遠ではない。次々に新しいスターが登場し、アレンの父も母もブロードウェイの仕事を失った。そして今ではロクデナシに成り果ててしまったのだ。
俺は、ずっと考えていたことをアレンに打ち明けた。
「アレン……俺と一緒にプロジェクトを出て暮らさないか?もちろん、チャンやボブも一緒にさ」
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