上 下
45 / 113

23-1 初恋

しおりを挟む

「えっと……こ、この服……ほんとにこれ着るの?」
「はい。ジウシード様が気合いを入れて手配されておりました。まあジウシード様は指示されていただけで、手配したのは私ですがね」

 しれっとそう言うラウルに「プッ」と噴き出すと、ラウルは優しい顔になり、俺の頭に手を置いた。そしてさわさわと優しく撫でられる。

「突然異世界にやって来られて戸惑いも多いでしょうが、貴方のお心が曇ることのないよう、精一杯お仕え致しますので」
「えっ、あ、あの……」

 な、なんだか猛烈に恥ずかしくなり、カァァアと顔が熱くなる。異世界人のこのむず痒い台詞回しは標準装備なのか!? 冷徹な奴かと思っていたラウルからこんな甘ったるい台詞を吐かれるとそわそわする!! さわさわと優しく撫でられる手が落ち着かない!!

「そんな顔をしていては襲ってしまいますよ?」
「えっ!!」

 あわあわとしているとラウルはクスッと笑った。そして頬と頬が触れるか触れないかの距離で顔を近付け、耳元で囁いた。

「先程の少し泣きそうになっている顔もとても可愛かったですよ」

 フッと吐息を耳に吹き掛けられ、ビクッとし慌てて耳を押さえ振り向いた。ラウルの顔は色気を漂わせた意地悪そうな笑みを浮かべていた。

 え!? な、なんか怖い笑顔なんですけど!?

「ジウシードも昔は可愛らしかったんですけどねぇ。今やあんなに男臭く生意気になってしまって……」

 ハァ、と大きく溜め息を吐きながらラウルが呟いた。
 昔のジウシードか……あの超絶美形だしな、幼い頃もきっと天使みたいな可愛さだったんだろうなぁ。
 そんなことを考えているとラウルが俺の顎を掴み、クイッと上へと向けた。

「その点アキラ様は可愛らしいですね。男性とは思えない小ささに色白で柔らかそうな綺麗な肌……」

 んん? いや、小さくないし! これでも平均身長よりは高いんだぞ! あんたらがデカすぎるんだ!

 なにやら熱っぽい視線……いや、なんか目付きが怖いような……気のせいか? 若干腰が引けながら、顎を掴まれた手をやんわりと外し、話題を変えてみた。

「ジウシードの幼い頃ってどんなだったの?」

 そう聞いた瞬間、ラウルの目が輝いた。幼いジウシードを思い出しているのか、今まで見たことがないほどの輝いた目で前のめりに話し出す。

「それはもうとても愛らしかったのですよ! 見た目が天使のような姿なのはもちろんですが、人見知りだった彼は私にだけは懐いてましてねぇ。ひたすら後ろを付いて回っていましたよ。おねしょをしたとき、顔を真っ赤にしながら涙目になっているところなんて最高でしたねぇ」

 うっとりと思い出しながら語るラウル……ん? な、なんか……んん?

「夜、寝付けないときには添い寝もしてやりましたしねぇ。お話をしてやり、夜中に自室へ戻ろうとしたときには、泣いて縋るもんですから、ぞくぞくとたまりませんでした」

 んんん? な、なんか言葉の端々が引っ掛かるんだが……気のせいか?

「そ、そうなんだ」
「はい。とても可愛かったですよ。今は全く可愛くありませんが」

 うっとりとした顔から現在のジウシードを思い出したのか、急にスンとした顔となったラウル……ハハ……。

「まあジウシードが現在のように可愛げがなくなったのは、彼の母親のせいでもあるのですけどね」
「母親?」
「えぇ。伴侶であるアキラ様にはお伝えしておいたほうが良いかと思いますので、お話しておきます」

 そう言って俺の着替えを手伝いながら、ラウルは話し出した。

「ジウシードの母親は少々情緒が不安定な方だったのです。彼女の夫、ジウシードの父親ですが、彼も相当な実力者でラルストンの領主だったのですよ。ジウシードの前任ですね。しかしなんせやる気のない方で、国王選定の儀もやる気がなかった。運命の相手として出逢った彼女は国王になれなかった夫に酷く嘆き、ジウシードを国王にさせようと躍起になったのです。ジウシードは幼い頃から母親に厳しく育てられ、次第に他人と距離を置くようになりました」

 服を脱がされ、背中をさわさわと撫でられ、ぞわぞわとしながらも話は続く……。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

処理中です...