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23-1 初恋
しおりを挟む「えっと……こ、この服……ほんとにこれ着るの?」
「はい。ジウシード様が気合いを入れて手配されておりました。まあジウシード様は指示されていただけで、手配したのは私ですがね」
しれっとそう言うラウルに「プッ」と噴き出すと、ラウルは優しい顔になり、俺の頭に手を置いた。そしてさわさわと優しく撫でられる。
「突然異世界にやって来られて戸惑いも多いでしょうが、貴方のお心が曇ることのないよう、精一杯お仕え致しますので」
「えっ、あ、あの……」
な、なんだか猛烈に恥ずかしくなり、カァァアと顔が熱くなる。異世界人のこのむず痒い台詞回しは標準装備なのか!? 冷徹な奴かと思っていたラウルからこんな甘ったるい台詞を吐かれるとそわそわする!! さわさわと優しく撫でられる手が落ち着かない!!
「そんな顔をしていては襲ってしまいますよ?」
「えっ!!」
あわあわとしているとラウルはクスッと笑った。そして頬と頬が触れるか触れないかの距離で顔を近付け、耳元で囁いた。
「先程の少し泣きそうになっている顔もとても可愛かったですよ」
フッと吐息を耳に吹き掛けられ、ビクッとし慌てて耳を押さえ振り向いた。ラウルの顔は色気を漂わせた意地悪そうな笑みを浮かべていた。
え!? な、なんか怖い笑顔なんですけど!?
「ジウシードも昔は可愛らしかったんですけどねぇ。今やあんなに男臭く生意気になってしまって……」
ハァ、と大きく溜め息を吐きながらラウルが呟いた。
昔のジウシードか……あの超絶美形だしな、幼い頃もきっと天使みたいな可愛さだったんだろうなぁ。
そんなことを考えているとラウルが俺の顎を掴み、クイッと上へと向けた。
「その点アキラ様は可愛らしいですね。男性とは思えない小ささに色白で柔らかそうな綺麗な肌……」
んん? いや、小さくないし! これでも平均身長よりは高いんだぞ! あんたらがデカすぎるんだ!
なにやら熱っぽい視線……いや、なんか目付きが怖いような……気のせいか? 若干腰が引けながら、顎を掴まれた手をやんわりと外し、話題を変えてみた。
「ジウシードの幼い頃ってどんなだったの?」
そう聞いた瞬間、ラウルの目が輝いた。幼いジウシードを思い出しているのか、今まで見たことがないほどの輝いた目で前のめりに話し出す。
「それはもうとても愛らしかったのですよ! 見た目が天使のような姿なのはもちろんですが、人見知りだった彼は私にだけは懐いてましてねぇ。ひたすら後ろを付いて回っていましたよ。おねしょをしたとき、顔を真っ赤にしながら涙目になっているところなんて最高でしたねぇ」
うっとりと思い出しながら語るラウル……ん? な、なんか……んん?
「夜、寝付けないときには添い寝もしてやりましたしねぇ。お話をしてやり、夜中に自室へ戻ろうとしたときには、泣いて縋るもんですから、ぞくぞくとたまりませんでした」
んんん? な、なんか言葉の端々が引っ掛かるんだが……気のせいか?
「そ、そうなんだ」
「はい。とても可愛かったですよ。今は全く可愛くありませんが」
うっとりとした顔から現在のジウシードを思い出したのか、急にスンとした顔となったラウル……ハハ……。
「まあジウシードが現在のように可愛げがなくなったのは、彼の母親のせいでもあるのですけどね」
「母親?」
「えぇ。伴侶であるアキラ様にはお伝えしておいたほうが良いかと思いますので、お話しておきます」
そう言って俺の着替えを手伝いながら、ラウルは話し出した。
「ジウシードの母親は少々情緒が不安定な方だったのです。彼女の夫、ジウシードの父親ですが、彼も相当な実力者でラルストンの領主だったのですよ。ジウシードの前任ですね。しかしなんせやる気のない方で、国王選定の儀もやる気がなかった。運命の相手として出逢った彼女は国王になれなかった夫に酷く嘆き、ジウシードを国王にさせようと躍起になったのです。ジウシードは幼い頃から母親に厳しく育てられ、次第に他人と距離を置くようになりました」
服を脱がされ、背中をさわさわと撫でられ、ぞわぞわとしながらも話は続く……。
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