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29-2 断ち切られた関係
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翌日、セルヴィはディークとトルフを執務室へと呼んだ。
「私は……王城へと戻る」
「「殿下……」」
ディークとトルフはセルヴィを真っ直ぐ見詰めた。ディークは嬉しさと悲しさとで複雑な表情となるが、必死に笑顔を向ける。
「ここ、ミルフェン城はそのまま残したい。今いる使用人たちはそのままここを護っていてもらいたい」
セルヴィはトルフに向かって真剣な目を向けた。
「かしこまりました」
トルフは恭しく頭を下げる。
「ディークには近衛騎士として同行してもらいたい」
トルフから視線を移したセルヴィは悲しそうな表情を浮かべたが、それでも真っ直ぐにディークを見詰め訴えた。
「もちろんです。私はセルヴィ殿下の近衛騎士ですので。ずっとお傍でお守りしますよ」
ディークも悲しそうな表情とはなったが、それでも微笑み、精一杯の愛情を向けた。
「うん」
泣きそうになるセルヴィは、しかし、必死に涙を堪えた。
王城へと戻れば、国王として即位すれば、セルヴィとディークの関係はただの国王と騎士。それ以上でもそれ以下でもない。傍にいたとしても、それは護衛ということだけ。今のように気軽に接することも、ましてや触れ合うなどという行為ももうない。それどころか、跡継ぎのためにもセルヴィは妃を娶ることとなる。このような二人の関係は今ここで終わらせるしかないのだ。
お互いにそれを分かっている。分かっているからこそ、口にはしなかった。いや、口にすると事実を突きつけられるようで無意識に拒絶しているだけかもしれない。
二人だけの秘密の関係。このまま誰に知られるでもなく、何事もなかったかのように消えていく関係。
二人にしか分からない、お互いの視線は絡み合い、熱を帯び、しかし……それをお互い、自ら断ち切った……。
それからは全てが早かった。セルヴィから国王への返事によって、国からはセルヴィを迎えるための馬車が手配され、国では公式に発表はされずとも、セルヴィが戻って来るという噂が広がった。
ミルフェン城の使用人たちは全員集められ、セルヴィは王城へと戻ることが伝えられた。トルフ以外の使用人たちはセルヴィに呪いがあったことは知らないため、ただセルヴィが王位を継ぐために戻る、という認識しかなかった。従って使用人たちは寂しそうではあるが、一様に喜んでいたのだった。
セルヴィは相変わらず仮面を着けたままだった。すっかり痣は消えたというのに、いつまでも仮面を着けていることにディークは疑問を持ったが、長年他人から距離を置いて生きて来たセルヴィにとって、仮面を外すという行為はまだ踏み切ることが出来なかった。
いわばセルヴィにとっての心を守る鎧のようなものかもしれない。いつまでも仮面を着けているわけにはいかないことも分かってはいるが、まだ、どうしても外すことが出来ないでいた。
そんなセルヴィにディークはなにも言わず、ただ寄り添った。
そしてついに王城からの迎えの馬車がやって来た。
「殿下、お元気でお過ごしください。我々はこのミルフェン城をしっかりとお護り致します」
トルフが代表し挨拶をすると、使用人たちは全員、セルヴィに向かい頭を下げた。
「あぁ、ありがとう。皆も今までありがとう。ミルフェン城を頼む」
セルヴィは使用人たちにそう声を掛けると、迎えの馬車に乗り込んだ。騎士服に身を包んだディークは馬車に乗り込んだセルヴィを確認すると、使用人たちに振り返り敬礼をする。
「私は皆さんよりも短い期間でしたが、ここに来られて良かった。楽しかったです。今までお世話になりました。ありがとう」
トルフは涙ぐみ、「殿下をよろしくお願い致します」と呟き、イアンやダンにザックは笑顔で手を振った。ロイスも若干涙ぐみ、ノアはムスッとしながらも手を振っていた。
そしてメイドたちは案の定というかなんというか、「お幸せにぃ」やら「推しがぁ」やらなにやらよく分からないことを叫びながら号泣していた。
そんな姿にディークは笑いながら、晴れやかな笑顔を向け、手を振った。そして馬に乗り上げる。
「出発します」
御者が声を上げ、そしてセルヴィが乗る馬車は王城へと向かった。
「私は……王城へと戻る」
「「殿下……」」
ディークとトルフはセルヴィを真っ直ぐ見詰めた。ディークは嬉しさと悲しさとで複雑な表情となるが、必死に笑顔を向ける。
「ここ、ミルフェン城はそのまま残したい。今いる使用人たちはそのままここを護っていてもらいたい」
セルヴィはトルフに向かって真剣な目を向けた。
「かしこまりました」
トルフは恭しく頭を下げる。
「ディークには近衛騎士として同行してもらいたい」
トルフから視線を移したセルヴィは悲しそうな表情を浮かべたが、それでも真っ直ぐにディークを見詰め訴えた。
「もちろんです。私はセルヴィ殿下の近衛騎士ですので。ずっとお傍でお守りしますよ」
ディークも悲しそうな表情とはなったが、それでも微笑み、精一杯の愛情を向けた。
「うん」
泣きそうになるセルヴィは、しかし、必死に涙を堪えた。
王城へと戻れば、国王として即位すれば、セルヴィとディークの関係はただの国王と騎士。それ以上でもそれ以下でもない。傍にいたとしても、それは護衛ということだけ。今のように気軽に接することも、ましてや触れ合うなどという行為ももうない。それどころか、跡継ぎのためにもセルヴィは妃を娶ることとなる。このような二人の関係は今ここで終わらせるしかないのだ。
お互いにそれを分かっている。分かっているからこそ、口にはしなかった。いや、口にすると事実を突きつけられるようで無意識に拒絶しているだけかもしれない。
二人だけの秘密の関係。このまま誰に知られるでもなく、何事もなかったかのように消えていく関係。
二人にしか分からない、お互いの視線は絡み合い、熱を帯び、しかし……それをお互い、自ら断ち切った……。
それからは全てが早かった。セルヴィから国王への返事によって、国からはセルヴィを迎えるための馬車が手配され、国では公式に発表はされずとも、セルヴィが戻って来るという噂が広がった。
ミルフェン城の使用人たちは全員集められ、セルヴィは王城へと戻ることが伝えられた。トルフ以外の使用人たちはセルヴィに呪いがあったことは知らないため、ただセルヴィが王位を継ぐために戻る、という認識しかなかった。従って使用人たちは寂しそうではあるが、一様に喜んでいたのだった。
セルヴィは相変わらず仮面を着けたままだった。すっかり痣は消えたというのに、いつまでも仮面を着けていることにディークは疑問を持ったが、長年他人から距離を置いて生きて来たセルヴィにとって、仮面を外すという行為はまだ踏み切ることが出来なかった。
いわばセルヴィにとっての心を守る鎧のようなものかもしれない。いつまでも仮面を着けているわけにはいかないことも分かってはいるが、まだ、どうしても外すことが出来ないでいた。
そんなセルヴィにディークはなにも言わず、ただ寄り添った。
そしてついに王城からの迎えの馬車がやって来た。
「殿下、お元気でお過ごしください。我々はこのミルフェン城をしっかりとお護り致します」
トルフが代表し挨拶をすると、使用人たちは全員、セルヴィに向かい頭を下げた。
「あぁ、ありがとう。皆も今までありがとう。ミルフェン城を頼む」
セルヴィは使用人たちにそう声を掛けると、迎えの馬車に乗り込んだ。騎士服に身を包んだディークは馬車に乗り込んだセルヴィを確認すると、使用人たちに振り返り敬礼をする。
「私は皆さんよりも短い期間でしたが、ここに来られて良かった。楽しかったです。今までお世話になりました。ありがとう」
トルフは涙ぐみ、「殿下をよろしくお願い致します」と呟き、イアンやダンにザックは笑顔で手を振った。ロイスも若干涙ぐみ、ノアはムスッとしながらも手を振っていた。
そしてメイドたちは案の定というかなんというか、「お幸せにぃ」やら「推しがぁ」やらなにやらよく分からないことを叫びながら号泣していた。
そんな姿にディークは笑いながら、晴れやかな笑顔を向け、手を振った。そして馬に乗り上げる。
「出発します」
御者が声を上げ、そしてセルヴィが乗る馬車は王城へと向かった。
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