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10-1 ディークの過去

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 ディークの生まれた村、ダトス村は小さな村だった

 ディークの両親はディークが幼い頃に流行り病にかかりあっけなく死んだ。子供には感染する病ではなかったため、ディークは一人生き残った。それからというものディークは幼いながらに一人で生きていた。
 ディークがどこにも保護されず一人で生きていた理由は、小さい村だから、ということもあるのだが、流行り病を村に持ち込んでしまった最初の人間がディークの両親だったからだ。そのせいでディークの両親が死んだ後も、ディークは村の人間から敬遠されていた。

 村長だけは時々ディークの様子を見たりはしていたが、それでも幼いディークが一人死のうが左程重要にはされていなかった。そのためディークは一人で必死に生きるしかなかった。

 村で生き抜くために、人を観察するようになった。他人がなにを求め、なにをしてもらいたいのか、なにを考えているのかをひたすら考えるようになった。生きるために必死だったディークはそのため観察眼が鋭くなった。そのときの生きるための力が現在の洞察力にも繋がることになるのだが。

 村の人間に取り入る訳ではないが、生き残るために上手く立ち回り、頼られる存在となり、しかし適度に距離を置く。そうやって生きて来たディークに再び悲劇が訪れた。

 ダトス村に魔物が現れたのだ。

 魔物はあっという間に村の人間たちを食い殺していき、騎士団の討伐は到底間に合うことはなかった。
 ディークは魔物に対峙したとき、鋭い爪で激しく斬り裂かれ森のなかへと吹っ飛ばされた。しかし、それが幸いし、ディークは生き残った。

 瀕死の状態であるディークを、遅れてやってきた騎士団が森の中で発見し、治癒してもらいなんとか一命を取り留めた。
 ディークが意識を取り戻したときには村は全滅。ダトス村全滅の知らせは国中に知れ渡り、しばらくの間、魔物の討伐のため厳戒態勢となった。

 ディークはしばらく騎士団で保護され、治療をされていたが、その後回復をすると孤児院へと移されることとなった。
 しかしそれをディークは断り、騎士団で見習いをさせてくれ、と頼み込んだのだった。

 それ以来ディークは幼い内から騎士団の見習いとして鍛えて来た。その辺の貴族出身の騎士たちとは違う、筋金入りの成り上がりなのだ。


「と、まあ、そんなこんなで騎士団に入ったんだが、結局こうして近衛になっちまったんだけどなー」

 ハハハ、と笑いながら話すディーク。ノアは若い。ダトス村の事件自体を知らないようだ。しかしイアンはディークよりも年上で、さらには王城にいた人間だ。ダトス村の話も知っている。さらにあの噂も聞いたことがあるだろうか、とディークはイアンに聞く。

「俺の噂も色々あっただろ? イアンも王城にいたなら聞いたことあるんじゃないのか?」
「……あ、あぁ。それがディークだとは知らなかったが……」

 イアンは気まずそうだ。そんなイアンの気遣いが分かり苦笑する。

 ディークの噂、それは騎士団のなかで、主に貴族たちからのやっかみなのだが、ダトス村の魔物襲撃はディークのせいではないのか、と囁かれていたのだ。

「いや、なんであんな噂になるのかが分からなかったよ。ディークは当時十歳くらいのもんだろ? そんな子供が魔物を誘き寄せるなんて無理な話だ。それに村を襲わせる理由が全く分からん。だから当時そんな話を聞いても俺は全く信じてなかったよ」
「ハハ、ありがとう。騎士団のなかでも俺の味方をしてくれていたやつらは皆同じように言ってくれてたよ。でもなぁ、貴族連中がなぁ」

 そう言いながらディークは苦笑する。

「一人生き残った俺が怪しくて仕方なかったのと、まあ、貴族連中からしたら、俺みたいな平民のなかでもさらに底辺の人間が副団長とか上り詰めているのが許せなかったんだろうなぁ。世話をしてくれなかった村の人間を恨んでいたんだろう、って言われたな」
「はっ、くだらんな」

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