上 下
147 / 216
三人の精霊とバルティカ戦線の書

神竜対人間③

しおりを挟む

三つの首を持ち、刃のような鱗が体を覆っている。大きな翼と鋭い爪と牙を持つ神竜【アジ・ダ・ハーカ】が突如バルティカ戦線に現れた。

「ーーまた、新たな巨大な竜・・・」

リリーは、腰を抜かし地面に尻餅をついた。

フルールは、ガタガタと震えながら、

「ねえ・・・この三本の首の竜・・・」

「ああ、忘れる訳ない。あの時の、アイツだ!!」

ウィリアムスは、アジ・ダ・ハーカを睨みつけた。

「俺らの国を壊滅された元凶だ!」

バッツは、歯ぎしりをしながらゆっくりと立ち上がった。

「バッツーー、ど・・・どーなってるの?」

バッツの頼まれ事を終え、ミモザが血相を変えて戻って来た。

「それより、セントラルコントロールは受理してくれたのか?」

「何とかね。レーベンハートさんに直接話しすれば早いのに・・・」

「バルティカ共和国内での争いや活動に勝手に首を突っ込むのは法律上禁止されているんだよ。特に、国を持たないバンディッツは交渉すらしてもらえない時もある。だから面倒だけどこの国の事は、この国のトップから交渉してもらう必要があるんだ」

「ーーこんな緊急事態でも遠回りの段取りが必要なのね」

ミモザは、肩を落としため息を吐いた。

「援軍が来るまで、バルティカの国内にコイツらが進入して暴れないように持ち堪えるのが俺たちの役目だ」

「そうね。悔しいけど私たちだけではこの巨大な竜を何体も相手に出来ないわ」





「アジ・ダ・ハーカ、今までどこにいたんだ?」

懐かしそうにサーペントが話かけるが、

「・・・・・・」

全く動かし反応がない。

「アジ・ダ・ハーカ・・・?」

「サーペント、アジ・ダ・ハーカの様子が変だぞ」

ウロボロスが近寄りアジ・ダ・ハーカの顔を伺う。

「意識がないのか?さっきから全く動かない。それに魔力の流れがおかしい」

サーペントの顔が険しくなる。

「ど、どーなってるんだ?アジ・ダ・ハーカしっかりしろ!!アジ・ダ・ハーカ!!」

ウロボロスが咆哮をあげる。

「ククク、そんなに叫ばないでくださいよ。竜も一応、仲間の心配とかするんですね。ウケるー」

アジ・ダ・ハーカの肩に黒ローブを羽織り手には光輝く書物を手にした男が現れた。

「ーーさて、暴れてもらおうかな。手始めにお仲間さんに五月蝿いから消えてもらいましょ。行けアジ・ダ・ハーカ!」

ローゼンクロイツの一言にアジ・ダ・ハーカは動き出した。

先ほどまで、蝋人形のように固まっていたのに、動き出した途端、ウロボロスに襲いかかった。

「お、おい!何の冗談だ?アジ・ダ・ハーカ」

「止めろ!アジ・ダ・ハーカ」

ウロボロスに攻撃するアジ・ダ・ハーカを止めに入るサーペント。

そんな竜のやりとりを見ていたアルカナ・ナイツのメンバーには何が起こったのか、分からず混乱していた。

「竜と竜で争ってる?仲間割れ?」

「こっちとしては好都合だけどね」

アルカナ・ナイツのメンバーはこの混乱に乗じて一度竜との距離をとった。

「バッツ、どこに援軍を頼んだんだ?」

ウィリアムスがバッツに問いかける。

「ロビンに間に入ってもらい【円卓の魔道士】に応援をお願いした。それにアイツも来てくれる」

「アイツ?」

「デーモンズゲートを封鎖した男だよ」


☆ ☆ ☆


「アーサー様、バルティカ共和国ってどこにあるの?」

「最北端の地だって聞いたよ。何でも大きな壁が何キロにも渡ってあるらしいよ」

「それにしても、物騒ですわね。【円卓の魔道士】の招集はあの日以来です」

「ああ、リリスの話だと先陣を切ってロビンが行っていたらしいけど、そのロビンからアラートが出たらしいんだ」

「それだけ厳しい戦場なのですね・・・」

「ああ。彼ほどの騎士でも助けが必要だと感じるほどなんだろう」

アーサーと三人の精霊は、グリフィンに乗りバルティカ共和国に向かっている。

他の円卓の魔道士達は、一度アヴァロンに集まってからバルティカ共和国に向かうらしい。

「ふにぃー、アーサーさまあ。お腹空いたのお」

「エルザはいつもそればっかよね。だからそんなにまん丸なのよ」

「リサは、あんまり食べないからお胸にお肉がないのよ」

ふんっ、とエルザはそっぽを向いた。

「見たあー!シルフィーあの態度」

キーッと、顔を真っ赤に膨らせるリサ。二人を横目にシルフィーはアーサーに、

「アーサー様は、アヴァロンに集まらなくて良かったのです?」

「僕は、円卓の魔道士でも何でもないから・・・リリスが力を貸してくれるなら一緒にバルティカで戦ってほしいと言われただけだからさ」

「リリスさんだけでなく、皆さんアーサー様の力を必要としてくれてると思いますよ」

「僕ってより精霊のみんなの力だよ。僕なんてみんながいなきゃ、ただの能無しだから」

「そんなことないです。私たちはアーサー様がいて初めて本来の精霊の力を発揮出来るのです」

シルフィーがグッと力を込めて力説する。

「そーだよ!まだアーサー様そんなこと言ってるの?言わない約束だよ」

「リサの言うとおりなの。私たちは四人で一人前なの」

リサとエルザもアーサーに顔を近づけながら思いを伝える。三人は真っ直ぐ真剣にアーサーを見つめる。

「ありがとう、三人のおかげで自身が持てたよ」

三人の精霊は、微笑み顔を見合わせた。

グリフィンは、そんな四人を乗せながら最北端の地バルティカ共和国を目指していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...