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三人の精霊とバルティカ戦線の書
バジリスク②
しおりを挟む「ありゃ、まだ人間如きにドンパチやってんのかよ」
一人の男が洞窟に入って来て入り口付近にいる眼鏡をかけた竜に話しかけた。
「はい。何人か手強い魔道士がいるようで今までかなりの数のワイバーンやワームがやられてしまいました」
眼鏡を押し上げ男を見ずに忙しそうにしている。
「魔道士ねえ・・・ん?この魔力はバジリスクか」
「はい」
「毒の王自ら行くとは、相当な魔道士がいるのね。人間もなかなかやるねえ!エキドナは?」
「人間界かとーー」
振り返り男を見ながら答えた。
「あいつも好きだねえ」
男はそう言い残すと洞窟の奥へと消えて行った。
「ファフニール同じく相当変わり者ですよ。人間の姿に化けて何が楽しいのでしょうかね?」
☆
竜の中でも知力・魔力が一定のラインを超えた竜は神に選ばれた存在となる。
神に選ばれた竜は全ての生き物の共存を求められた。
竜は、人間の願いを叶えた。
枯れ果てた土地に雨を降らし、田畑を実らせた。増え過ぎた人口により土地がない人間に竜は自分達の土地を与えた。
人間の願いを叶えた竜は神の意志に従い、他の竜やその手下である魔物達は、人間との共存を求めた。
しかし、人間はそれを拒絶したーー。
人間は、世界の中心は自分達の物だと主張した。
他の竜や魔物達は激怒し土地を奪い返しに人間を襲い始めたのだ。
神に選ばれた竜「神竜」は、人間の世界に潜り込みその行く末を見守る事にした。
なぜ、神竜は他の竜や魔物達と一緒に土地を奪い返しに行かなかったのか?
傲慢になり思い上がった人間の末路を見届けようと思ったのだ。
神竜の中から魔物たちに加担する者が現れた。
その名は、『アポカリプス』
彼は、自分を慕う数匹の竜と一緒に人間たちに襲いかかったが、サーガにより封印されてしまった。
彼を慕う数匹の竜は、エドナ山脈に身を潜め来るべき日まで待つ事にした。
ーーそれは、アポカリプス復活の日。
* * * * * * * * * * * * *
「母さん、母さん?」
小さな男の子が母親のエプロンを引っ張る。
「あっ、ごめんなさいね。どうしたの?」
「どうしたの?はこっちの台詞だよ。最近ボーッとしてる事多いよ。どーしたのさ」
「そ、そうかしら? そんな事ないわよ」
「いつもエドナ山脈の方を見てる。バルティカ戦線が活発になってから毎日だよ」
「ーーーー」
「母さん・・・何か隠してる?」
母親は、子どもに背を向けエドナ山脈を一度見つめ再び子どもと視線を合わせた。
「ーーーーっ」
ゆっくりと口を開いて言いかけたその時、
「ただいま」
「あっ、父さん」
その声に振り返る子ども、母親も視線を声のした方に向けると、そこには短髪黒髪の男が現れた。
「どうしたんだい二人でこんな庭先で」
「父さん聞いてよ、母さんったら毎日、毎日ボーッと山ばかり見てるんだよ」
「ははは、それはそうだろ。バルティカ戦線が活発化してるから心配なんだろ」
「えーっ、何か違うよ。母さん何か隠してるって」
「母さんが隠し事なんかする訳ないだろ。何でわざわざ隠す必要があるんだ?」
「・・・んん」
その言葉に反論出来ず下を向く男の子。チラッと視線を背後の母親に向けると母親は、困った表情で父親を見つめていた。
「そんな事より家の中に入ってご飯でも食べようか」
子どもの背中を手で押して中に入るように仕向ける父親。背後の母親に視線を送ると母親は父親に頭を下げた。
彼女の名は、エキドナ。神竜の一人である。
人間に仮の姿を宿し、人間に恋をし生涯その身を人間に捧げるつもりで結婚したのだ。
人間と竜の間に子どもが出来た。
先ほどの男の子。ーー人間と竜のハーフ、名はステア。
未だかつて、人間と竜のハーフなど存在していない。エキドナも自分が竜だとはステアに伝えていない。このまま知らずに過ごす事が出来ればそれが一番幸せだと思っていた。
アポカリプスが封印されて彼女も安心していた。平穏な日常の人間界での暮らし、大好きな人とその子供と過ごす日常がこれほど掛け替えなのない日々で幸せなことだと竜だった時には考えられなかった。
この平穏な日常がこの先もずっと続けば良いと願っていた矢先、再び動き出したバルティカ戦線。
アポカリプスの復活の兆しが見え、アポカリプスを慕う邪龍達が本格的に活動し始めたのだ。
エキドナは、一度神竜たちと話し合いの場を設けたいと考えていたのだ。
それはーー、
『神竜が邪竜を倒しこのバルティカ戦線を終わりにしたいと・・・』
エキドナはその日、旦那と子どもが寝ている隙に別れを告げ、エドナ山脈に帰った。
全てを終わらせる為にーー。
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