上 下
109 / 216
三人の精霊とカタリナ公国の書

揺れる想い

しおりを挟む

作戦会議の夜、レオンは四階にあるソフィアの部屋の前でもう数分も立ち止まったままだったーー。

いろいろ話さなければならないことがある、ただ何をどう伝えていいのか分からなかった。伝える本人すらよく分からない状況にレオン自身戸惑っていたのだ。

「ーーこのままここに居ても始まらない、もしかしたら、帝国はもう動き出してるかも知れない・・・クソっ」

大きく深呼吸し覚悟を決めて、ソフィアの部屋をノックした。ーー静かな廊下に渇いた木の音が二回響き渡る。

「はい、どうぞ」

大人びた感じの返事が返ってきた。

「れ、レオンです。入ります」

少し緊張感を漂わせながらゆっくりとドアを開ける。

「ーーレオン」

レオンの顔を見るとよっぽど嬉しかったのか駆け寄り飛び付くソフィア。

ソフィアはいつもの紅い鎧姿ではなく、薄手のパジャマといった感じの姿だった。
その愛らしい姿は、いつも見ていたソフィアそのものだったーー。

「ソフィア様・・・その・・・」

レオンはソフィアを真っ直ぐ見れず戸惑いながら頬を赤く染める。

「レオン黙って。ーーしばらくこのまま」

ソフィアは抱きつき目を閉じて、しばらく動かずにいたこの感触を確かめるようにーー。

「レオン何か話があるの?」

しばらく経つとレオンから離れてソフィアが顔を覗かせる。

「ーー反帝国軍に援軍を頼みたい。交渉条件に鉱山を譲る形になると思う」

レオンは真剣な表情で真っ直ぐソフィアの目を見て答えた。

ソフィアは少し考えていたが諦めたのか柔らかい表情を浮かべて、「ーーそう」とだけ言った。

「すぐに援軍の交渉に行く。今すぐにでもカタリナから立ちたいと思う。後のことはお父さんとソフィアに任せるから」

レオンがソフィアに背を向けて行こうとすると再びソフィアが駆け寄り抱きついてきた。

「ーーーー!! 」

「一人にしないで・・・」

消えそうな声がレオンの胸に響く。

「レオンまで私から離れて行くの?」

( 違うよ。僕は、ただーー  )

「もう、一人は嫌なの。ーー寂しいの。
もう、悲しい思いはしたくないの・・・」

( ーーソフィア )

「レオン何処にも行かないで、私のそばにいてよ。お願いだから・・・」

ソフィアはレオンの背中に寄り添い大粒の涙を流していたーー。

「そばに居てよ・・・お願い」

ソフィアはレオンを無理矢理自分の方に向けると目を閉じゆっくりと唇を差し出した。

「ソフィア・・・さま」

レオンの心臓は張り裂けそうだったーー。

呼吸が速くなるのがわかった。
今目の前にいるのはずっとずっと想いを隠してきた人物だ。

そう、レオンはずっとソフィアが好きだった。ーーただ、身分の違いでこの想いを半分諦めていたのだ。一生叶わぬ恋だと思って。

レオンも目を閉じソフィアに唇を近づける。ーーもう、このまま二人でここから逃げ出そう。

ーーしかし、

「ソフィア様・・・いけません」

レオンはソフィアの両肩に手をやり拒んだ。

ソフィアは悲しそうな表情でレオンを見つめていた。ソフィアは今にも抱きしめたくなる位、愛らしい表情で目を潤ませながら見つめている。

「レオン・・・私のこと嫌い?」

唐突にソフィアが聞いてくる。

「好きとか、嫌いとかではなく国王と執事としてのーー」

視線を逸らし、しどろもどろで答えるレオン。

「私は、レオンが好きーー愛してる、ずっとずっと想いを寄せてきた」

頬を赤く染め、涙を流してレオンを真っ直ぐ見つめて言う。

( 僕も、ソフィアを愛してるーー。 )

心では言えるのに・・・ずっと、ずっと思ってた。ソフィアも同じ気持ちだったと知って嬉しかった。

だけどーー、

「ソフィア様のお気持ちは大変嬉しいです。
だけど、僕とソフィア様は立場が違い過ぎます・・・一国の国王とただの使用人執事

自分の気持ちを押し殺して必死で搾り出した言葉だった。

「好きな気持ちに立場なんて関係ないわ! レオンの本当の気持ちを知りたいの」

ソフィアは目を真っ赤にし、顔は涙でくしゃくしゃだった。

( 好きだよ、好きだよ。愛してるよ )

ーー言葉に出せない。

( 世界中の誰よりも、ソフィアを愛してる、君だけをずっと見てきた )

言葉に出せば気持ちを止められない。そんなことは分かってる。

レオンはソフィアに背を向き、

「何でソフィアは国王で・・・僕は執事なんだ・・・」

レオンから出た必死の言葉だったーー。

「二人とも普通の家で生まれ、朝起きて一緒に学校に行き、夕暮れまで笑いあって遊べるそんな普通の生活がしたかった」

背中越しでもレオンが泣いてるのがソフィアにはわかった。

「・・・レオン」

「朝から湖のほとりに行き一緒に散歩して、お昼は森の木陰でお弁当を食べ、勿論もちろんソフィアの手づくりで。その後二人で昼寝なんかして、少し涼しくなったら夕暮れの丘から湖を見つめて二人手を繋いで並んで帰るんだ」

「れおん・・・」

「なんでそんな普通のことも許されないの。僕が貴族で生まれてくれば良かったのか? 何で僕は使用人なんだ? 僕は自分の気持ちすら君に伝えることすら許されないんだ」

そう言うと、レオンは部屋を飛び出して行ったーー。


ソフィアはレオンの姿が見えなくなると床に崩れ落ちいつまでもいつまでも泣いていた。


そして、その足でレオンは反帝国軍バンディッツに援軍要請に旅立った。



*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *


ーー静かな部屋に再び沈黙が戻った。
白髪の老人執事が話してくれたここ、カタリナ公国の今日までの経緯はアーサーが想像していたよりも心打たれるものだった。

「ーー帝国軍はどのくらいで攻めて来そうですか?」

「十日で攻めて来ると言われていた。残り六日はあるかとーー」

「残り六日か・・・」

アーサーはグラスに入った水を一口飲んだ。

「大丈夫です。ソフィア様と私たちも着々と準備を進めております」

アーサーは嫌な胸騒ぎがしていた。
故郷キャメロットとカタリナ公国を比べて思ったことがあった。

キャメロットにはアーサー達ペンドラゴン一家が国全土を護衛する形で収めている。
しかし、カタリナ公国はそんな部隊も護衛団も何もないように思えている。

未だかつてそのような事態に層群したことがないのだろうか。

( せめて、金色の瞳エンペラーアイが使えたら・・・ )

三人の精霊を抱き抱えてながら案内された客室で朝を迎えるのだったーー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...