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三人の精霊とカタリナ公国の書
揺れる想い
しおりを挟む作戦会議の夜、レオンは四階にあるソフィアの部屋の前でもう数分も立ち止まったままだったーー。
いろいろ話さなければならないことがある、ただ何をどう伝えていいのか分からなかった。伝える本人すらよく分からない状況にレオン自身戸惑っていたのだ。
「ーーこのままここに居ても始まらない、もしかしたら、帝国はもう動き出してるかも知れない・・・クソっ」
大きく深呼吸し覚悟を決めて、ソフィアの部屋をノックした。ーー静かな廊下に渇いた木の音が二回響き渡る。
「はい、どうぞ」
大人びた感じの返事が返ってきた。
「れ、レオンです。入ります」
少し緊張感を漂わせながらゆっくりとドアを開ける。
「ーーレオン」
レオンの顔を見るとよっぽど嬉しかったのか駆け寄り飛び付くソフィア。
ソフィアはいつもの紅い鎧姿ではなく、薄手のパジャマといった感じの姿だった。
その愛らしい姿は、いつも見ていたソフィアそのものだったーー。
「ソフィア様・・・その・・・」
レオンはソフィアを真っ直ぐ見れず戸惑いながら頬を赤く染める。
「レオン黙って。ーーしばらくこのまま」
ソフィアは抱きつき目を閉じて、しばらく動かずにいたこの感触を確かめるようにーー。
「レオン何か話があるの?」
しばらく経つとレオンから離れてソフィアが顔を覗かせる。
「ーー反帝国軍に援軍を頼みたい。交渉条件に鉱山を譲る形になると思う」
レオンは真剣な表情で真っ直ぐソフィアの目を見て答えた。
ソフィアは少し考えていたが諦めたのか柔らかい表情を浮かべて、「ーーそう」とだけ言った。
「すぐに援軍の交渉に行く。今すぐにでもカタリナから立ちたいと思う。後のことはお父さんとソフィアに任せるから」
レオンがソフィアに背を向けて行こうとすると再びソフィアが駆け寄り抱きついてきた。
「ーーーー!! 」
「一人にしないで・・・」
消えそうな声がレオンの胸に響く。
「レオンまで私から離れて行くの?」
( 違うよ。僕は、ただーー )
「もう、一人は嫌なの。ーー寂しいの。
もう、悲しい思いはしたくないの・・・」
( ーーソフィア )
「レオン何処にも行かないで、私のそばにいてよ。お願いだから・・・」
ソフィアはレオンの背中に寄り添い大粒の涙を流していたーー。
「そばに居てよ・・・お願い」
ソフィアはレオンを無理矢理自分の方に向けると目を閉じゆっくりと唇を差し出した。
「ソフィア・・・さま」
レオンの心臓は張り裂けそうだったーー。
呼吸が速くなるのがわかった。
今目の前にいるのはずっとずっと想いを隠してきた人物だ。
そう、レオンはずっとソフィアが好きだった。ーーただ、身分の違いでこの想いを半分諦めていたのだ。一生叶わぬ恋だと思って。
レオンも目を閉じソフィアに唇を近づける。ーーもう、このまま二人でここから逃げ出そう。
ーーしかし、
「ソフィア様・・・いけません」
レオンはソフィアの両肩に手をやり拒んだ。
ソフィアは悲しそうな表情でレオンを見つめていた。ソフィアは今にも抱きしめたくなる位、愛らしい表情で目を潤ませながら見つめている。
「レオン・・・私のこと嫌い?」
唐突にソフィアが聞いてくる。
「好きとか、嫌いとかではなく国王と執事としてのーー」
視線を逸らし、しどろもどろで答えるレオン。
「私は、レオンが好きーー愛してる、ずっとずっと想いを寄せてきた」
頬を赤く染め、涙を流してレオンを真っ直ぐ見つめて言う。
( 僕も、ソフィアを愛してるーー。 )
心では言えるのに・・・ずっと、ずっと思ってた。ソフィアも同じ気持ちだったと知って嬉しかった。
だけどーー、
「ソフィア様のお気持ちは大変嬉しいです。
だけど、僕とソフィア様は立場が違い過ぎます・・・一国の国王とただの使用人」
自分の気持ちを押し殺して必死で搾り出した言葉だった。
「好きな気持ちに立場なんて関係ないわ! レオンの本当の気持ちを知りたいの」
ソフィアは目を真っ赤にし、顔は涙でくしゃくしゃだった。
( 好きだよ、好きだよ。愛してるよ )
ーー言葉に出せない。
( 世界中の誰よりも、ソフィアを愛してる、君だけをずっと見てきた )
言葉に出せば気持ちを止められない。そんなことは分かってる。
レオンはソフィアに背を向き、
「何でソフィアは国王で・・・僕は執事なんだ・・・」
レオンから出た必死の言葉だったーー。
「二人とも普通の家で生まれ、朝起きて一緒に学校に行き、夕暮れまで笑いあって遊べるそんな普通の生活がしたかった」
背中越しでもレオンが泣いてるのがソフィアにはわかった。
「・・・レオン」
「朝から湖のほとりに行き一緒に散歩して、お昼は森の木陰でお弁当を食べ、勿論ソフィアの手づくりで。その後二人で昼寝なんかして、少し涼しくなったら夕暮れの丘から湖を見つめて二人手を繋いで並んで帰るんだ」
「れおん・・・」
「なんでそんな普通のことも許されないの。僕が貴族で生まれてくれば良かったのか? 何で僕は使用人なんだ? 僕は自分の気持ちすら君に伝えることすら許されないんだ」
そう言うと、レオンは部屋を飛び出して行ったーー。
ソフィアはレオンの姿が見えなくなると床に崩れ落ちいつまでもいつまでも泣いていた。
そして、その足でレオンは反帝国軍バンディッツに援軍要請に旅立った。
* * * * * * * * * * * * *
ーー静かな部屋に再び沈黙が戻った。
白髪の老人執事が話してくれたここ、カタリナ公国の今日までの経緯はアーサーが想像していたよりも心打たれるものだった。
「ーー帝国軍はどのくらいで攻めて来そうですか?」
「十日で攻めて来ると言われていた。残り六日はあるかとーー」
「残り六日か・・・」
アーサーはグラスに入った水を一口飲んだ。
「大丈夫です。ソフィア様と私たちも着々と準備を進めております」
アーサーは嫌な胸騒ぎがしていた。
故郷キャメロットとカタリナ公国を比べて思ったことがあった。
キャメロットにはアーサー達ペンドラゴン一家が国全土を護衛する形で収めている。
しかし、カタリナ公国はそんな部隊も護衛団も何もないように思えている。
未だかつてそのような事態に層群したことがないのだろうか。
( せめて、金色の瞳が使えたら・・・ )
三人の精霊を抱き抱えてながら案内された客室で朝を迎えるのだったーー。
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